時刻探偵事務所へようこそ!

椎名

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螺旋悪夢

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 意識の遠くのところで目覚ましの音がする。徐々に大きくなっていく。すっきりしない頭を無理矢理起こして脳を揺する。
 ――夢だ。
 また、夢だった。どうなっているんだ。 
 飛び起きて郵便受けへと向かう。バサバサと生活に関わる費用の請求の封筒を落としてチラシを広げた。
 安く案内された豚肉。――同じ、内容。
 ゾッと膝から崩れ落ちた。どういうことだ。これも夢か? それとも現実か?
 堪らず、パジャマ姿のまま飛び出した。
 鍵をかけていない。靴も履いていない。これが現実ならば、僕の世間的心証は大変なことになる。けれど、夢かもしれない。
 無性に叫び出したくなって、誰かに会いたくて、エレベーターも使わず駆け降りた。
 誰か。誰か。説明がほしい。いつもみたいに。大丈夫だって笑って。頭を撫でて。――時政さん。
 道路へ出た。道路は駄目だ。また轢かれる。学校に行きたい。クラスメイトに会いたい。でも行けない。電車に乗れない。どうすればいい。どこに行けばいい。どこが安全だ。通勤に向かうスーツの男が怪訝そうに僕を見ている。ブレザーの女の子が僕を見て友人と何事か囁いている。いやだ。見ないで。おかしいと思うなら助けて。
 時刻探偵事務所へ飛び込みたい。けれど、事務所は電車で四つ先だ。学校より遠い。
 パニックのあまり財布も携帯電話も家へ置いてきてしまった。誰にも繋がれない。
 涙がせり上がってきて、これ以上辱しめを受けたくなくて人目を避けるように走り出した。無我夢中だった。
 着いた先は公園だ。この時間帯は子供だっていない。――誰もいない。
 救いだと思った。ここには僕を脅かすものは何もない。
 身が落ち着くと、じわじわと後悔と羞恥が後から追い付いてきた。
 何をしているんだ、僕は。衝動的に家を出てきちゃったけど、そもそも家の中が一番安全だったんじゃないか? 鍵掛けられるし。
 漸く冷静になる。触覚も痛覚も戻ってくる。幸い、寒さを感じる時季は過ぎていたが足の裏がヒリヒリと痛む。
 どっと呆れによる脱力感があった。学校に欠席連絡を入れて家で大人しくしていれば良かったんだ。宿題と命と、どっちが大事だっていうんだか。
 ああ、この格好でまた歩くの恥ずかしいなぁ……見るからに訳有りじゃないか。
 落ち着いた途端、様々な所が機能を再開する。洗っていない顔が気になる。空腹もある。足は痛い。まったくもって散々だ。フェンスの向こうから聞こえてくる少女らしき声にも、ばつが悪くて思わず身を竦めてしまう。
 ――うそ、やばくなーい? 絶対近いって。ユウコが見たって呟いてるもん。あ! 写真も上がってきた!
 ――うわ、いかにもじゃん。早く学校行こ。その辺潜んでたら怖いし。あ、じゃあ今日学校閉鎖なるかもね。
 ――やった、ラッキー! もしそうなったらカラオケ行こうよ。
 ――バッカ。真っ直ぐ帰るの。


「通り魔が出てるんだから。」


 男が、立っていた。


「あ、」


 ザクッ

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