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螺旋悪夢
弐
しおりを挟む意識の遠くのところで目覚ましの音がする。徐々に大きくなっていく。すっきりしない頭を無理矢理起こして脳を揺する。
――夢か。
酷い夢だった。夢から覚める夢だなんて。それも、最後は誰かの手によって殺されてしまうだなんて。
寝起きとは思えぬ脈拍で暴れ回る心臓を深呼吸することで落ち着ける。上体を起こすだけでどっと疲れた。最悪の夢見だ。やっぱりストレスでも溜まっていたのかもしれない。
ああ、けれど確か、殺される夢は悪い夢ではないんだっけ? 夢占いなんて興味を持ったこともなかったので、どこかで聞いたあやふやな仄聞だが、ほっと息を吐く。申し訳程度の精神安定剤にはなってくれた。
暫く布団に縋り付いてから、漸く通学の準備を始めた。
顔を洗って郵便受けを覗いて。夢の中で肉じゃがを食べていたのでなんとなく別のオカズにしたい気分だが残り物はそうはいかない。肉じゃがを気持ち程度に雑炊にして玉子焼きを諦めた。ほうれん草のおひたし――ではなくこちらもまた作り置きの胡麻和えを取り出し食卓へ並べる。
夢の中と同じくチラシを開いて、やっぱり豚バラが安いななんて笑って――あれ。ふと思った。
今は現実なのに、チラシが夢と同じ内容だ。
まさか、と思う。まさか――予知夢、だったのか?
だとすれば、本日僕は駅内にて殺されることになる。サァ、と血の気が引いていく。
どうしよう。今日は学校を休んでしまおうか。
けれども、本日締め切りの宿題が鞄に眠っているのだ。夢見が悪かったから休みました、だなんて昨晩の懸命に問題を解いた僕が嫌だと叫んでいる。
――夢、だしな。
高々夢だ。そうだ。もし予知夢だったとしても、ならば夢の中と違う行動を起こせばよいのだ。
電車を一本ずらそう。時計をチラリと見て頷く。一本くらい遅れた電車に乗っても学校には問題なく着く。たまにはのんびりとするのもありだろう。
すっかり残り一口となった雑炊を掻き込んで、僕は登校への支度を始めた。
最寄り駅の改札口。予定通りいつも乗る時間の電車を見送り、駅内アナウンスが五分後着の電車を案内している。
念の為、ホームの前列には並ばず中心に設置されている椅子に座った。ここまで念入りに対策したのだ。きっと悪いことなんて起きない。
無事五分後の電車へと乗車して二つ先の駅で下車する。
ほら見ろ。人身事故なんて起きなかったぞ。
やはりあれは予知夢だったのかもしれない。きっと、危険を伝える為に見せてくれたのだ。――何が、かはわからないけれど。
安堵のまま学校へと向かう。運悪く信号が赤になった。ここの信号、替わるまでちょっと長いんだよな。黄信号をどうにか走り抜けようとしていたトラック運転手も、不満げにブレーキを掛けている。
渋々と足を止めて携帯電話を取り出す。佐竹に招待メールを送られていた同じ色のパズルを重ね消滅させるアプリゲームを開いた。
悲鳴が聞こえた。
「え、」
――キキィィィィッ
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