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死を呼ぶ輝き
参
しおりを挟む「――て、ことがあったんですよ」
「ほーう。それでこんな時間になったのか。へー。ほー。ふーん」
「……なんですかその反応」
漸く時刻探偵事務所に辿り着いた頃には、日は余韻を残して山へ溶け、時計の針は十八時を指していた。ええ、案の定の遅刻ですけれどね!
「いつからうちは遅刻オーケーの寛容な職場になったのかなあー?」
「う、うぐぐ、仕方ないじゃないですか。放っておけなかったんですもん」
ネチネチとにっこり笑顔で小言を唱える時政に、台所へと荷物を持ったまま逃げ込む。
「そうだなあ。確かに人助けは善い事だ。うんうん。とても道徳的だな。――でも口答えしたから減給な」
「ええええっ!?」
遅刻したから、ではなく口答えしたから、という理不尽な理由のペナルティーに思わず非難の声を上げた。
「当たり前だろうが。大体、人助けもいいがその前にお前には心配しなきゃならないものがあるだろう?」
心配しなきゃならないもの?
「――借金ですか?」
「…………。」
え、なんで無言。
「……はぁぁ。しゃーねぇなぁ。この時政様がおバカなバイトくんの為に改めてこの仕事においての最優先事項を教えてやる。お前が最も心配すべきなのは――――俺の胃袋だ」
「…………。」
今度は僕が無言になる番だった。
なに言ってんだこいつ。
「あ、今、思いっきり蔑んだ目しただろ」
「当たり前じゃないですか。大人が胸張ってなに言ってんですか。今の時政さん最高にかっこ悪いですよ」
「……言うようになったじゃねえか」
ヒクリと時政の笑みが引きつる。
「はいはい。そんな我儘俺様時政様のために、」
トントンッと彼との会話の間に作り上げていた料理の数々を机に置いていく。
「今日は時政さんの好物ばかりにしましたよ」
ふわふわ玉子のオムライスにミートソースパスタ、オニオンとベーコンのコンソメスープにオーブンでこんがり焼いている最中のグラタン。これでいて時政は意外とお子様味覚なのだ。とはいっても普段は和食ばかりらしいが。だからこそたまにこうして洋食メニューを出すと。
「よし、許す」
驚くくらいの食い付きを見せる。
本当はかっこいいのにわざと浮浪者みたいな格好をして、横暴な大人のくせに子供みたいな屈託のない笑顔を見せる。そんな奇妙な彼と共にいると、何だか僕まで笑えてきてしまう。
(ほんと、変な人)
漸く声を上げたオーブンを開きながら、待ち遠しそうに期待のこもった目で見るその人に、やっぱり可笑しくなって笑った。
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