時刻探偵事務所へようこそ!

椎名

文字の大きさ
上 下
125 / 158
喋るミカちゃん人形

しおりを挟む

「あの、さっきのって……」


 病室を出て数歩、設置されているソファーに腰掛け、時政は思案するように俯いた。


「えっと……」


 口を開いたは良いものの、続く言葉が見付からず、曖昧に噤む。


「あの子の母親は」


 時政がシオンへと問う。


「死んでる」


 間、髪入れず答えられた言葉に、はっと息を呑んだ。


「事故。りかの目の前で」

「……そのショックで、て事か」


 納得したように頷く時政とは反対に、僕の頭にはクエスチョンマークが飛び交っていた。


「担当医はいるか?」

「ん。鹿目カナメ先生」

「んじゃ、その鹿目先生にも話聞きに行くか」


「ま、待ってください!」


 個々で解決し、次の行動へ移ろうとする二人に、未だ疑問の解消できていない僕は慌てて待ったを掛けた。


「あの、死んでる、て……さっきあそこに梨佳ちゃんのお母さんがいたんですか?」

「いや、いねぇよ。だからおかしいんだ。普通に見りゃ病気なんだろうな。――精神的な」


『精神的な』

 やっぱり……。じゃあ今回の事は……


「けど、なんかおかしいんだよな」

「え?」

「気付かなかったか? 梨佳の目の下に隈があったこと」


 ――隈?


「あれは相当寝てねぇぞ。なのに疲れとか全然なかっただろ? 大人ならまだ自制できるが、子供で寝不足時にあんなに元気なのはおかしい」


 確かに、不安定な素振りは見受けられなかった。
 底抜けに笑って、仕草も大振りで。ちっとも眠そうになんて見えなかった。


「不眠症にしても、あの溌剌さはおかしいだろう。寝ないってことは、脳を休める時間を与えない、てことだ。そんな状態で活発に動き回れる程、人間は丈夫に出来ていない。三日が限界だ。三日以上寝ていなければ、――精神に異常をきたす」

「え――」


 ハッと、もっさりとした前髪で見えない時政の目を凝視した。


「まあ、そういう病気もあるしな。一概には言えないが……。やっぱり担当医に聞いた方が早い」


 先に歩き出していたシオンについて、例の医師がいるという医療室へ向かう。


 鹿目先生――どんな人なんだろう。精神科の先生だから、やっぱり優しいのかな?

 それとも――――


(梨佳ちゃん……)


 ひどく明るい少女の歪さが、まるで少しずつ亀裂を広げているかのように思えて、唐突に形のない不安感に駆られた。

 今回の件がどんな結果に終わるかはわからないけれど、――少しでも梨佳ちゃんが救われたなら、いいな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...