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喋るミカちゃん人形
壱
しおりを挟む「あの、さっきのって……」
病室を出て数歩、設置されているソファーに腰掛け、時政は思案するように俯いた。
「えっと……」
口を開いたは良いものの、続く言葉が見付からず、曖昧に噤む。
「あの子の母親は」
時政がシオンへと問う。
「死んでる」
間、髪入れず答えられた言葉に、はっと息を呑んだ。
「事故。りかの目の前で」
「……そのショックで、て事か」
納得したように頷く時政とは反対に、僕の頭にはクエスチョンマークが飛び交っていた。
「担当医はいるか?」
「ん。鹿目先生」
「んじゃ、その鹿目先生にも話聞きに行くか」
「ま、待ってください!」
個々で解決し、次の行動へ移ろうとする二人に、未だ疑問の解消できていない僕は慌てて待ったを掛けた。
「あの、死んでる、て……さっきあそこに梨佳ちゃんのお母さんがいたんですか?」
「いや、いねぇよ。だからおかしいんだ。普通に見りゃ病気なんだろうな。――精神的な」
『精神的な』
やっぱり……。じゃあ今回の事は……
「けど、なんかおかしいんだよな」
「え?」
「気付かなかったか? 梨佳の目の下に隈があったこと」
――隈?
「あれは相当寝てねぇぞ。なのに疲れとか全然なかっただろ? 大人ならまだ自制できるが、子供で寝不足時にあんなに元気なのはおかしい」
確かに、不安定な素振りは見受けられなかった。
底抜けに笑って、仕草も大振りで。ちっとも眠そうになんて見えなかった。
「不眠症にしても、あの溌剌さはおかしいだろう。寝ないってことは、脳を休める時間を与えない、てことだ。そんな状態で活発に動き回れる程、人間は丈夫に出来ていない。三日が限界だ。三日以上寝ていなければ、――精神に異常を来す」
「え――」
ハッと、もっさりとした前髪で見えない時政の目を凝視した。
「まあ、そういう病気もあるしな。一概には言えないが……。やっぱり担当医に聞いた方が早い」
先に歩き出していたシオンについて、例の医師がいるという医療室へ向かう。
鹿目先生――どんな人なんだろう。精神科の先生だから、やっぱり優しいのかな?
それとも――――
(梨佳ちゃん……)
ひどく明るい少女の歪さが、まるで少しずつ亀裂を広げているかのように思えて、唐突に形のない不安感に駆られた。
今回の件がどんな結果に終わるかはわからないけれど、――少しでも梨佳ちゃんが救われたなら、いいな。
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