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神のいない山
玖
しおりを挟む「ああ、そうだ。これこれ」
あまり物が入っていなさそうなキャリーバックから何やら包みを取り出した時政。パッケージには『美岬饅頭』の文字が。
「わっ、いつの間に」
「駅の土産コーナーでな。チョコ餡当てるために買い込んでやったぜ」
うわっ、大人げない。
楽しそうにパッケージを破く時政を呆れた目で見遣りながら、何の気なしに呟く。
「どうせなら美岬館の隣のとこで買えば良かったのに。あそこのおばさん、なんか氏神について詳しそうでしたよ?」
「…………あ? なに言ってんだ?」
破く手を止めて、時政は僕を怪訝そうに見た。
「え、だから、美岬館の隣にある土産屋が」
「……んなもんなかったぞ?」
なかった? あ、いなかった、の聞き間違いか。
「おばさん、丁度店出てたのかも知れませんね」
「いや、だから、んなもんなかったって」
……ん?
「何言ってるんですか? 時政さん」
「テメェこそ何言ってんだ。美岬館の隣は空き地だろうが」
…………え?
「ほら、地図見てみろ」
現地に行く際購入し、電車内で見ていたガイドブックが再び開かれる。
相変わらず、美岬館は大きく、清海野は申し訳程度に掲載されているそれの、住所案内欄を確認すると。
――ない。
何もない。写っていない。
「…………」
血の気が引いた。
「……え? え、え?」
混乱する僕に、追い討ちをかけるように呟かれた一言。
「――――お前、何視たんだ?」
「……うぇひようおあぁああああああッ!!!」
「うるっせぇッ!!」
――こうして、
最後の最後に、恐怖なんていう大変有り難くない土産を残しながら、悪霊の巣食っていた街を、緩やかに電車は出立していったのだった。
「ヒィィィィィッ!!」
「うるせぇ、つってんだろッ! 窓から放り投げんぞ!」
***
ん~ふふふー。まさか、またここに来るとはねえ。
いやー、しかし見事に一掃されちゃってんね。さっすがまさくん! 学園切ってのエリート!
どうよきおく。もう気持ち悪くないだろー?
だろだろ。まさくんサマサマだよねー。
え? あー、まぁぼくでもできたけどさあ、……めんどくさいじゃん?
せっかくきおくとの旅行なのにい、誰にも邪魔されたくなあーい! みたいな?
ぼくは家庭に仕事は持ち込まない主義なのでーす。
んー? 大丈夫だってえー。
ほらあ、まさくんとは級友の仲だしい。何だかんだ言ってやってくれるしい。
ん。きおくはなあーんにも気にせず甘えてなさい。
あ、女将さあーん。おひさしぶりいー。
そうそう。ぼくってばこう見えて警察さんなのお。
うんうん。まあそれはいーんだけどね。
ぼくが紹介した探偵さんいるでしょ?
うん。そう。その人ね、本物だからあ、彼が大丈夫、て言ったなら大丈夫なんだあ。
……ほらあ、清海野の女将さんは気付てるみたいだよー。
というわけだからあ、もう犯人探しとか必要ないのねー。おーけー?
んー。じゃあそんな形でえ。よろしくう。
さ、それじゃあまた電車乗ろうか。きおく。
なんでもねえー、あの人嫌いのまさくんが、なぁーんかバイト雇ったってえー、びっくり仰天のニュースが入ったのー。
そりゃあ見に行くしかないじゃん?
あいつが人近くに置くなんて、シオンくらいの事情のある子しかありえないだろーしぃ。
……てなわけで、
――時刻探偵事務所にしゅっぱあーつっ!
どんな子なんだろーねえ……
――――倉橋忠行、て。
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