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神のいない山
肆
しおりを挟む「――さぁ時政さん、色々と説明してもらいますからね!」
電車のコンパートメントで向かい合いながら、時政へ挑むように睨み付ける。
「あー? めんどくせえ」
「こっちは何から何まで気になりすぎて落ち着かないんですから!」
バシバシと座席を叩きながら、鬱陶しそうに頬杖をつく時政に声を張り上げた。
「はいはい、それで何が聞きたいんだ」
渋々と頷いた時政に、胸が高鳴る。
ああ、やっと聞ける。
今回の事件のカードだったうちの一つ。
「えっと、じゃあ、――結局、クローバーの花言葉って何だったんですか?」
スカビオサは『私は全てを失った』
なら、クローバーは……?
「クローバーはな、葉の数によって花言葉が変わるんだ」
「葉の数?」
「四つ葉は幸運。これはよく知られてるな。そして三つ葉は、――復讐」
「ッ!」
『復讐』――それは、彼女の隠されてきた本心の一つ。
「他にも、『約束』『思い出して』『私を想って』てのもあるな」
(約束……)
ふと、唐突に、霧掛かっていた今朝の夢の内容が再生された。
『千代瀬はクローバーが好きなんだね。ふふっ、じゃあこんな話は知ってる? クローバーの花言葉にはね……』
ふわりと少年が微笑む。
『――“復讐”なんてものもあるんだ。はは、怖い? ごめんごめん。まあ、これは三つ葉の話。他には思い出して、とか、約束、とか。――だからね、僕はこう思うんだ。もしかしたら、復讐とか執念とか、そういう感情に囚われない人が、真の幸福を見つけられるのかもしれない、てね。きっと、そういう人の前にだけ、四つ葉は現れるんだよ』
少年よりも一つ幼い少女には、きっと少年の言葉の深さなんてわからない。そこにどれ程の懇願があるのか、伝わりきりはしない。
それでも、少年は願っていた。切に、祈っていた。――少女の幸福を。
『……だからね、千代瀬。この先お互いの家で何か起こったとしても、僕達だけは敵意を持たないようにしよう。真の幸せを手に入れるために。――約束。忘れないでね。この三つ葉を見るたび……思い出してね』
「――っ!」
思い出した。全部、全部、何もかも。
……そうか、もしかしたら“彼”は、復讐ではなく――――
「……ねえ、時政さん。本当に、圭司さんは喰われてたんでしょうか。彼の意思は、欠片も残っていなかったんでしょうか」
初めて逢った時、そして、裏口から逃げようと促したあの時。
その人は。
「さぁな。圭司の霊力次第だろう。強けりゃ多少は残ってたかも知んねぇが。――あとは、愛の成せる業、とかな」
最後に視た、艶やかな黒髪と儚い笑み。
あれは確かに、――“彼”だった。
これからも、千代瀬さんの傍で、見守ってるのかな。
(……そうだと、いいな)
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