時刻探偵事務所へようこそ!

椎名

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神のいない山

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「時政さん! 時政さん! 起きてください! 着きましたよー!」


 隣でぐーすか幸せそうに寝こいている男を揺すり起こす。


「チッ、うっせぇなかがり……。もう少し寝かせろ……」

「誰ですかそれは! もうっ、いい加減にしないと時政さんが密かに楽しんでるジグソーパズル捨てますよ!?」


 バッとバネ仕掛けのように時政が飛び起きた。


「おまっ、なんでそれを……!」

「一昨日掃除してたら見付けました」


 千二百ピースパズル。地味にすごいな。


「ほらもう、くだらない事言ってないで降りますよ。電車閉まっちゃう」


 リュックを背負い、時政の手を引いて駆け足で歩き出す。


「ぅおっ、おい!」


 何だか旅行のようで少し楽しみだったのは秘密だ。



 ◆◆◆



 駅から数分歩いた先に、例の『美岬館』は在った。海沿いに建てられたまだ新しいそれは、旅館というよりもホテルに近い。
 何だか、たかが高校生の僕が利用するにはひどく場違いな気がした。


「……ここ、ですよね」

「ああ。何ぼさっと突っ立ってる。さっさとエントランス行くぞ」

「あっ、はい!」


 スタスタと気後れせず館内へ入っていく時政に、慌ててついていく。


 ――うわあ。場違いだなあ。

 広い内装や大きな窓から見える景色に、改めて思う。


(でも……)


 おそらく、今一番このような高級感溢れる場に不似合いであろう時政は、他の宿泊客達がぎょっと振り返り不躾な視線を送る中、どっしりと構えていた。
 度胸があるのか、それともただ単に鈍いのか。とにかく僕には真似できない芸当だ。


「あ、そういえば何泊するんですか? 僕、学校あるんですけど」


 一応確認だが、まだ夏休みには入っていない。
 幸い今日は金曜日なので二日は泊まっていけるが、それ以上となると学校を休まざるを得ないのだが。


(……あれ? 普通逆じゃない?)


 特殊なバイトだから、なんか感覚狂うなあ。

 うーむ、どうしよう。と眉間に皺を寄せながら唸っていると。


「ああ。大丈夫。もう校長に伝えてあるから」

「……は?」

「俺ら、あの後メル友」


 あの後、とは島先生と命ちゃんの不法侵入事件の事だろう。

 ズイ、と突き付けられた時政の携帯画面には、


 from:校長
 sub:オッケー(o^-')b
 ---------------------------------------

 わかった♪
 公欠にしておくよ~(*^O^)/

 -----------------END-------------------


 の文字が。


 へー。校長、顔文字とか使うんだー。年のわりに。

 ――じゃなくてえええ!!


「ええええ!? なんですかこれ!」

「メール」

「いやそうじゃなくて……!」

「まあまあ、いいじゃねぇか。これで学校サボり放題だぜ?」

「不良かッ!」


 ニヤニヤと笑いながら携帯を仕舞う時政に、僕のツッコミという名の鉄拳が炸裂した。
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