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ダレソカレ
十参
しおりを挟む「……あ、そういやお前、名前言ったろ」
「はい?」
事務所の台所を借りて二人分のマグカップを洗っていると、外を見ていた時政がふと思い出したように呟いた。
「だから、あの顔亡の女に。忠行ちゃん(はぁと)て呼ばれてたじゃねぇか」
「はあ……。まあ、聞かれましたからね」
なんだその(はぁと)は。
「……お前ほんと何も知らねぇんだな。いいか。今回は善良な奴だったから良いが、今度からは絶対に軽はずみに自分の情報を言うんじゃねぇぞ。特に名前」
「妖に、ですか? なぜ?」
「それはまた今度教えてやっから。いいから憶えとけ。いいな?」
時政の有無を言わせない態度に、取り敢えず素直に頷いておく。うーん、オカルトって不思議だ。
「……あ、時政さん。そういえば僕も聞きたい事があったんですよ」
そうだそうだ。色々あって忘れてたけれど……
「依頼代金、てどうなってるんですか? 今回を含めて僕、結構助けられてますよね? だからお金とかの方どうなってるのかな、て」
「――ああ。借金」
「……は?」
……え、今なんか普段あまり聞かないような単語が聞こえたんだけど。
思わず洗っていたマグカップを落としかけた。
「だから借金。言っとくがうち、そこそこ依頼金高ぇから」
「……そこそこ、て」
「取り敢えず学生が払えるような金額じゃねぇな」
――っやっぱり悪徳商法ー!!
「え、え、じゃあ、」
「だから結局辞めたくても辞められねぇんだよなあ。実際」
「…………」
絶句した。
「と、時政さん……まさか最初から……!」
「……さあ?」
――ニヤリ。
「……っこんなとこさっさと辞めてやるううううう!!」
こうして僕は、とんだ悪徳探偵に捕まったのだった。
「――……まあ、全部本心だけどな」
「なんか言いやがりましたか!? この悪役探偵!」
「(悪役?)……いーや」
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