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ダレソカレ
肆
しおりを挟む「……さっきの、殆んどお前の言葉じゃね?」
準備室を飛び出した先、人気のない渡り廊下でポツリと佐竹が呟く。
その静かな声に少しだけドキリとしたが、声色に呆れや責めるようなニュアンスはなく、ほっと息を吐いた。
「あ、バレた? まあ、ついでにね」
……それに、命ちゃんならきっと、同じ事を考えると思うから。
後日、時政さんにこの事を報告したら、「せっかく新しい就職先探しておいてやったのに」なんて、全然残念じゃなさそうに言われた。
時政さんの事だから本当に用意自体はしていたのだろうけれど、やはり、なんとなくこうなる事を予期していたように思える。だって全然驚かなかったし。
(……やっぱり、未来が見えているのかも)
――なんて。
だんだんと僕の中の時政さん像が、とんでもない事になっていってる気がする。
◆◆◆
「うわっ、陽落ちてきたあ……」
ふと見上げた空は燃えるような茜色。もうじき、カーテンのように暗い闇が空へ掛かるのだろう。
この辺は人出も少ない。――無音の夕闇に伸びる、一つだけの影。
「……っ」
(……なんか、怖い、な)
コクリと一つ唾を飲んで、僕は走る速度を速めた。
プルルルル……プルルルル……ピッ
「はーい、土御門でーす」
切り替わった先には、聞き慣れたやる気のない抜けた声。その声を聞くと、何故だかほっと安心できた。
……何を緊張していたのだろう。
「あ、時政さん! すみません、あの」
「おっせーぞバイトー。こちとりゃ腹減ってんだからさっさと来て飯作れ」
「(やっぱり僕、家政夫……?)しょうがないじゃないですか。佐竹の補習に付き合わされてたんだから……」
「……あー、あのアホか。なら、しょうがねぇな」
一回しかない会ったことのない時政さんにまでアホ扱いされるなんて……。よっぽどビデオの中の佐竹が印象強かったんだろうなあ。
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