時刻探偵事務所へようこそ！

消えた友人

壱

　う、うそだろぉぉぉ……！？
　まさかここまできてはぐれるとは……！


　なんとも情けない事に、僕はいつの間にか時政とはぐれてしまっていたらしい。
　見渡す限り無人。明かりもない。感覚的にもう零時はとっくに過ぎている。


「…………」


　――うん。終わった。ビビりな僕が耐えられるわけがない。

　ッいいいやぁぁああああああ！！
　あんのグータラ探偵っ！　僕の事もちょっとは考えろよなあああ！

　じわじわと足元から沸き上がってくる恐怖に、声にならない絶叫を上げていると。


「っひゃ！」


　ぴちゃ、と何か冷たく湿ったものが僕の手に触れた。……気がする。

　えっ、な、に……今の……



　――こっちだよ。おにいちゃん。



「え……」


　グイッと弱い力で腕が引っ張られる。


　不思議と、恐怖は感じなかった。



　◆◆◆



「……あ、」


　見えない引力に従い向かった先、そこに、ここ最近ですっかり見慣れた細身な後ろ姿を確認した。

　もしかして道案内してくれた？　――なにが？　だれが……？


　呆然と彼の背を見つめる。
　すると、視線に気が付いたのか、時政が振り返り、隠れた瞳に僕を映した。


「あ。お前どこ行――――ああ、連れてきてもらったのか」


　ポツリと時政が呟く。

　連れて……？

　ふっ、と何かが掌から離れていった気がした。


（……あれ？　手、濡れてる……？）


「あ、の、……今のって……」


「ああ。キャストは揃った。――――さあ、謎解きを始めようか」