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消えた友人
伍
しおりを挟む「おはよう倉橋くん」
「あ、おはよう。後藤さん」
次に、静かな足取りで此方へ向かってきたのは、小柄な少女だ。いつも控えめに笑う上品な娘だ。
そんな彼女は、不安気な顔をして呟く。
「佐竹くん、大丈夫かな……」
「……うん。まだわからないけれど……。あ、ねえ。最近変な噂とかない?」
のんきに世間話をしている訳にもいかない。
本来の目的を思い出しながら、僕はさっそく聞き込みを開始した。
「変な噂? 夜、学校に出る不審者のこと?」
「それもあるけど、他にも」
「他……うーん、前にこの辺で事故があった事くらいしか……」
「――事故?」
これは耳寄り情報である。
「うん。かなり前の話だけれど、近くにちょっと深い川があるでしょう? そこで女の子が溺れ死んだらしいよ。ええと、四月の終わりくらいだったかな。あ、それに、その現場に佐竹くんが居合わせていて、助けようとしたんだって」
「佐竹が……」
なんというか、本当に踏んだり蹴ったりな少年である。
いや、今回は確実に自業自得なのだが。
「佐竹くんすっごく落ち込んでたなあ。それでかな? あの時島先生もなんだか暗くて。自分の生徒がそんな目に遇ったら嫌だよね」
なんだか、自分の知らない所で様々な問題が起きていたらしい。
(ここ最近、ずっとバイト探しばっかりだったからなあ)
周囲をよく見る。時政が言っていたことはこういう事なのかも知れない。
「あとは……あ、その不審者の話だけれど、一部では子供だ、て説もあるみたい。矛盾してるよね」
「…………」
それはおそらく、夜、忍び込んだ生徒の誰かがその男と間違えられたのだろう。そう思うのに、何故だか釈然としない。
後藤に一言礼を言うと、僕は考え込みながら席に着いた。
◆◆◆
結局集まったのは、今朝後藤から聞いた話に尾ひれがついたものや、教頭は実は酒癖が悪い、など至極くだらないものばかりだった。
(まともな情報収集できなかったなあ……)
またあの男にバカにされるのかと思うと気が重い。
僕、一応客なんですけど。
スクールバッグに荷物を詰め込みながら、最近すっかり癖になってしまっている溜め息を小さく吐いた。
下駄箱へ向かう途中、ふと思い出す。
(……あ、島先生にまだ話してないや)
丁度良い事にこの角を曲がると職員室だ。僕の足取りに迷いはなかった。
◆◆◆
「失礼します。島先生おられますか?」
「おう、倉橋。どうした」
職員室の扉をノックしてすぐ、反応し声をかけてきたのは探していた張本人、島だった。
その緊張感のない声に、無意識に張っていた肩の力が抜ける。
「実は佐竹のことで話が……」
「……あー、そのことなんだが、もういい。佐竹の事は気にするな」
「……は?」
本題を話す前に与えられた思わぬ返答に、眉を寄せる。
「佐竹のことはこっちでなんとかするから、余計な詮索すんな」
「えっ、なんで……」
「これでまた、今度は佐竹を捜すため、なんて言いながら別のアホが忍び込んで来ても困るからな。警備もバカになんねぇんだよ。ほらさっさと帰れ。部活はやってねぇんだろ? 戸締まりは教頭の仕事だから、お前らが帰んの遅くなると教頭に迷惑がかかるんだ」
スラスラと淀みなく告げられる言葉に、島への不信感が増幅する。
(あ、れ?)
ぽつり。違和感。
おかしい。何かおかしい。
――島は今、なんて言った?
しかし、食い下がろうにものらりくらりと躱されて、結局彼からは何も聞き出せなかった。
朝の噂、島の態度、数々の小さな違和感にもやもやと何かがつっかかる。
けれども、答えは見付からない。
僕は重い足取りのまま、不気味なあの男の待つ事務所へと向かったのだった。
……僕って聞き込みの才能ないのだろうか。
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