妄想&空想 GIRL

圍 杉菜ひ

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第11話 シンデレラ

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 藤ヶ谷 虎夏、16歳。
 妄想、空想だけでなく、たまにはリアルに恋愛をしたいと思うこともあるよ。トンボとじゃなくてな。
 
「ちょっと、藤ヶ谷さん」

「……何だ? 」

「ぼーっとしてないで掃除して」

 そう言えば、今日は掃除当番だった。友達となって以降、水奈緒は私に対して厳しめに接してくる。まるで小姑だ。掃除しているかのようにほうき片手に教室を歩く。ところが馬鹿な奴が大きな声で話しかけてきた。空気を読まない奴だな、これでは私が掃除してない事がバレるじゃないか。

「ガヤ、今さ、体育館で赤星先輩の演劇が見れるわよ」

 廊下側の小窓からわざわざ身を乗り出して話しかけてきたのは十佳だ。扉 開放されてるから前からでも後ろからでも いいから教室内に入ってこい。

 ちなみに3年の赤星先輩はイケメンで秀才、スポーツ万能なので我が高校の女子からは王子様と呼ばれている。掃除していても楽しくないから劇でも見に行くことにしよう。

「よし、行くか」

「藤ヶ谷さん、掃除、掃除しなさい。あなただけ全然やってなかったからね」

「はい、箒です」

 少しでも早く赤星先輩の姿を見に行きたかったのに……。水奈緒には怒られるし、生徒Aに箒を手渡される始末。

「仕方ないわね。じゃあさ、掃除はガヤに任せてみんなで見に行かない」

「そうね」

 十佳は私を誘いに来たくせに、水奈緒や生徒Aを誘って行ってしまった。悪魔か? そうだったメドゥーサだった。


 1人残された私は赤星先輩に思いを馳せながら渋々と掃除をしていた。

「藤ヶ谷、1人で掃除か?」

 担任教師の……? 担任教師が目の前に現れた。手には小さなカボチャと派手な衣装を持っている。

 ……まさか? まさかだと思ったけど。本当にいたんだ。

「あなたは、魔女? 」

「ふぉふぉ、私は魔女。意地悪な母親や姉妹にイジメられている可哀想なシンデレラにドレスをプレゼントじゃ」

 魔女から手渡されたドレスに私は素早く着替る。

「では、このカボチャの馬車でお城に行くがよい」

「ありがとうございます」

「ただし、17時までに戻らないと魔法は消えてしまうからな注意されたし」

「分かったわ」

「……あ、ちょっと待て。何1人で話を進めてるんだお前は。ひょっとして例の妄想か? ちなみに俺は男だぞ。それにそのチアガール衣装はゴミ捨て場に落ちてたやつだ。カボチャ4分の1カットは飼育用の餌だからなー食べるなよ」

 私はカボチャの馬車に乗ってお城に到着した。
 城内ではスポットライトを浴びながら王子様が踊っていた。複数の女を相手に踊っている王子様の顔は心なしか暗い。
 私なんかの相手をしてくれるかは分からないけど……いや、今の私は美しいドレス姿のシンデレラなのよ。あなたの暗い顔を明るくして見せるわー。

「……!?」

 私は王子様のもとへ足を進めた。周囲は私のあまりの美しさにざわつきだしたようだ。
 今の私は誰にも負けない美しさがある。周囲の声など気にする必要もない。だけど少しくらいは耳を傾けてあげようじゃない。

「美しい、まるでお姫様のようだ。どうぞ私達を踏み台にして行ってください」
 ――おい、劇の途中だぞ。壇上に上がるな馬鹿。
「素敵なドレス姿だわ」
 ――何でチアガールの衣装着てるの? 何気にすごく臭うし。
「あれだけ容姿が美しい方なら王子様と一緒に踊っても文句は言えないわ」 
 ――やめてーそんな汚い姿で赤星先輩と踊らないでー。
「素敵すぎる、一緒に踊って欲しい」
 ――あれって1年の藤ヶ谷だ。
「結婚してー」
 ――何で手にカボチャ持ってるんだ。

 みんなが私を応援してくれている。美しさとは罪だな。

 王子様は私の登場に表情を一変させた。鋭い眼差しは私を離さない。王子様の目に留まった私は一緒に時間を忘れてしまうほど楽しく踊っていた。だけど、時間だけは待ってくれなかった。

「あー、もう17時、時間がないわ」

「いい加減、舞台から降りろ」

「なんて? ふふ、接吻はダメよ」

「気持ち悪い奴だな……邪魔だから早く舞台から降りてくれ」

 私は名残惜しそうにする王子様を背に猛ダッシュで階段を駆け下りる。途中、誰かに背後から突き飛ばされたような気がするけど……転倒してガラスの靴が脱げてしまったわ。だけど、今は戻ることだけを考えねば。

 私は1人 教室に戻り、再び箒 片手に教室の掃除を始めた。ほんの一時だったけど素敵な王子様とダンスすることが出来て良かった……と思っているところに小姑 水奈緒と生徒A、十佳が鬼のような形相で現れた。

「あんた掃除もせずに劇に乱入してんじゃないわよ」

「そんなはずがあるか。私はずっと教室で掃除していたぞ」

「いや、顔みればすぐ分かるからし、それに今もその汚いチアダン衣装着てるし」

 小姑やメドゥーサにイジメられている私の元へ白馬に乗った王子様が目の前に現れた。

「おい、この上履きはひょっとしてお前のか? 」

「……それは私が履いていたガラスの靴」

 もしもこの靴を履くことが出来れば私の妻に迎えるなんて、流石は王子様。

「それは私の靴です」

 私は王子様から靴を奪って履いてみせた。

「よくも劇を台無しにしてくれたな」

 少々お怒り気味の王子様だけど、これは愛情表現の一つか? 

「ひょっとしてものすごく探すのに苦労したんですか。でもこれからは大丈夫、いつも一緒にいるから」

「いい加減に妄想するのはやめろーこの1年野郎」

「……スイヤセンでした」

 演劇を台無しにされた赤星先輩は4分の1カットカボチャを投げつけてきた。帰り際に持ってくるの忘れてた。
 ヒットしたカボチャにより、走馬灯が過ぎり、飼育用の餌だという担任の言葉が頭を過ぎった。思い出せて良かった。これで飼育小屋のペット達は腹を空かさずに済むだろう。
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