白夏ー僕が殺した彼の話ー

リョウ

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5・綾人はノートを探す

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彼の言葉を聞いた時、最初どういう事か理解が出来なかった。

額の上に手を当てて考える。

「えっと……」

彼は冷たく僕を見ると、もう一度同じ事を言った。

「だから、僕は君の事が本当は嫌いだったって言ったんだ」

嫌い。嫌い? だってあんなに一緒に過ごしたのに、この夏休みだって二人で一番一緒に過ごしたのに、なのに嫌い? 僕のことを?

「何で?」

震える声でようやくそう聞いた。

彼は冷たく僕を見た。その目を知らない人の目のように感じた。

だって彼はいつもやさしくて穏やかで、こんな冷たい爬虫類みたいな目をする人じゃなかったんだ。

彼はズボンのポケットに手を入れながら、僕を見下すように見る。



「僕は君みたいにオメデタイ、頭の悪い人間は、本当は嫌いだったんだ。理由を言わないと他人の心にも気づけない。無知で無神経で幼稚で、見てるだけで腹立たしいんだよ」



ミーン、ミーンと蝉の声が急に忙しなく聞こえた。蝉のうるさい声と彼のあざ笑う声がダブる。



「僕は君みたいに恵まれた環境で生きてこなかった。厳しい現実の中ですごしてきた。なのに君ときたら自分の幸福さに気づきもしないで、文句ばかり言っていた。そんな君の言葉を僕は辟易しながら聞いていた。そう、ずっと我慢してたんだよ。君といるとイライラするのをね」



蝉はまだ鳴いている。ミンミンとうるさい。暑さが倍増するからやめてくれ。それに彼の言葉もわからない。あれは蝉の声と同じ。僕の体を、頭の中を熱くさせる。胸がマグマのように沸く。彼の声はこんなにも耳障りだった?



「僕はだいぶ前から君と過ごすのが苦痛だったんだ。気づかなかった? 僕の作り笑いを」

「作り笑い……だったの……?」

「そうだよ。僕は君と居ても楽しくなんかなかった。そんなに恵まれた家庭のくせに、それに気づかない。そんなバカと過ごしたって、楽しいわけないじゃないか」

「君の家は……どんな……」

「関係ないよ!」

彼は冷たく言い放った。



「君には関係ない。それにもう君には何も話したくないんだ。だって僕はもう君と関わるのをやめるから」

「やめる……?」

蝉の声はまだ聞こえる。彼の声と蝉の声。グルグル回って僕の体を押しつぶす。じんわりと気持ちの悪い汗が出てくる。なのになんで彼はあんな平気な顔でいられるんだ? 何で? 彼の声が蝉と混ざってどこかもう遠い。



「僕は今まで我慢してただけだ。君の事なんか本当は大嫌いだったんだよ。だからもう無理はやめて、君とすごすのはやめにするんだ」



彼は白い花を見つめていた。白い可憐な花を見ながら、そう言っていた。でも僕にはもう、その言葉は聞こえていなかった。



体が勝手に動いていた。それはそう、暑さのせいだったのかもしれない。暑いと人はイライラして狂気に取り付かれてしまうから。

僕は花を見つめる彼に飛びついていた。彼の白い長い首に、僕の手が絡みついている。足を動かした感覚も手を動かした感覚もなかった。耳にも今は何も聞こえてこない。蝉の声も彼の声も。ただ白い空間に僕はいて、勝手に体が動いて、勝手に彼が下に転がっていた。

僕は暫くの間、彼の体の上に馬乗りになって跨っていた。ただ、そうしていた。そしてなんとなく、僕はそのままの姿勢で顔を上げた。白い花が揺れていた。白い可憐な花がふわりふわりと。



僕の耳にふいに音が甦った。蝉の声が急に大音量で聞こえた。

僕は改めて彼を見た。美しかった彼の顔が赤紫色になっていた。鼻からは赤黒い血が見える。

これは何? これは……。

白い花はまだ揺れていた。













綾人は翌日の朝早く、空が明るくなると同時にノートを探しに出かけていた。

一晩寝ないで、自分の昨日の行動を思い出した。そして昨日行った場所を、最初から一つづつ探して歩いた。

廊下、洗面所、トイレ、風呂、食堂、図書室。寮の敷地内を全部探して歩くと、今度は林にむかった。





最初に百日紅の花の下、次に蓮池。綾人は何度も地面にへばりついて探した。何度も何度も。

けれどどうしてもノートは見つからなかった。

「誰かに拾われた……?」

蓮池の白い蓮を見ながら呟いた。寒気がした。それは一番あってはならない事だ。あのノートを誰かが拾い、中身を見る。そう考えると恐ろしくて仕方がない。

「どうしよう、どうしよう、どうしよう!?」



綾人は頭を抱えた。誰かに拾われても良い、それが知らない人で、そのまま捨ててくれるのであれば。けれどもしも寮に残っているメンバーに拾われたら? 

それだけはあってはならない。あのノートを友人達にだけは見せたくない。

「どうしよう、どうしよう」

綾人は同じ言葉を繰り返す。白く美しい蓮も今は目に入らない。



誰があのノートを拾ったか考える。一番可能性が高いのは夜彦だろう。昨日もこの場所で会った。

その時、自分はノートを持っていただろうか? 

分からない。けれどこの林の中で落としたとすれば、拾う可能性が高いのは夜彦だ。

他の二人はめったにこの林には来ない。

けれど寮の中で落としたとすれば、拾う可能性は誰にでもある。

「分からない、どうしよう」



混乱する思考の中で綾人は思う。取り返さないと。でも誰から? そう考えるとやっぱり最初に浮かぶのは夜彦の顔だった。そしてそれは一番拾われてはマズイ人間でもあった。



あのノートを見たら、夜彦はどう思うだろう?

そう考えると体が震える。夜彦は頭が良い。だからあのノートを見ただけで、自分の行った事がわかってしまうだろう。あのノートには具体的に名前は書いていない。けれど自分の秘密を知っていると言っていた夜彦には、きっとすべてがバレてしまう。

いっそ夜彦が死んだらいい。そう考えて綾人は頭を振った。

「バカなことを……。僕は何を考えているんだ」



ちょっとした殺意は一瞬で消えた。けれど綾人は夜彦に確かめずにはいられなかった。







綾人は夜彦の部屋へと訪れていた。ドアの前でノックをする。けれど反応はない。

まだ9時だ。遅寝の夜彦は、まだ寝ているのだろう。

もう一度ノックしようか悩んでいると、ガチャリと音がした。

「誰だよ、こんな朝早く……」

ボサボサの髪をかきまぜながら、夜彦が現れた。綾人の心臓がドクンと鳴る。



「お、おはよう」

「綾人?」

不思議そうに夜彦は綾人を見つめていた。

「あの、話があるんだけど良いかな?」

夜彦は驚いていたが、キュっと顔を引き締めると言った。

「入れよ」

綾人は夜彦の部屋に入った。





夜彦は起きたばかりのベッドを直すと、そこに綾人を座らせた。そして軽く髪を整えると自分は机の椅子に座る。

「こんな朝早くからどうしたんだよ」

綾人は答えない。

「もしかして、昨日の話の続き、してくれる気になったのか?」

顔をあげると夜彦を見つめた。夜彦は起きたばかりだというのに、すでにシャッキリとした顔になっていた。綾人は俯いて少し考える。そして覚悟を決めると顔をあげた。



「ちゃんと話をするから、だから君が何をどこまで知っているか、正直に答えて欲しい」

綾人はまだノートのことは口にしなかった。

もしも拾ったのが夜彦でないのなら、あのノートの事は誰にも秘密にしておきたかった。



夜彦は黒い瞳でまっすぐに綾人を見つめていた。そしてそっと頷いた。

「これは俺の想像が大半なんだ。それは事実とはちょっと違うのかもしれない。だから綾人が嫌な気分になるかもしれないけど、聞いて欲しい」

綾人は黙って頷く。すると夜彦は真面目な顔で、綾人を窺うように聞いた。



「綾人……去年、イジメにあってたか?」

ドクン。心臓が大きく鳴った。



胸の奥深く、まだ傷口の癒えていない場所に素手で触れられたと感じた。けれど綾人は何も言わずに黙っていた。夜彦はそんな綾人を見つめながら続ける。



「お前とはクラスが離れてたから、俺ずっと気づかなかったんだ。だけど今のクラスで、去年お前と一緒のクラスだった奴と友達になって、それでその話をちょっとだけ耳にしたんだ」



綾人は黙っている。顔からは赤みが消え、真っ青になっている。夜彦はそんな綾人を見ると、眉をよせて苦しそうな顔になる。



「ごめん今更で。去年俺が気づいてたら、力になってやれたのにってそう思って、どうしても話がしたかったんだ」

綾人は顔を上げた。そして夜彦を睨むように見つめる。



「それで……? それだけじゃないよね。ミモリの事が聞きたいって言ってたよね?」

夜彦は目を細める。

「ミモリのこと、本当なのか?」

その回りくどい聞き方に綾人はムっとした。

「本当かって何が?」

「……」

言いにくそうに夜彦は黙っている。そんな夜彦に怒鳴るように綾人は言う。



「そうだよ! ミモリだったんだよ。彼がイジメの首謀者だったんだ!」



夜彦は悲しそうな顔で綾人を見つめた。綾人はその夜彦の表情に、驚きが含まれていないのを悟る。夜彦はやはり知っていたのだ。望森のしていた事を。

綾人は自分の心が冷えていくのを感じていた。



「それだけ?」

「え?」

聞かれた夜彦は意味が分からないという顔で、綾人を見つめる。

「その他には?」

「他って……」

夜彦は戸惑うように綾人を見る。綾人は強い瞳で見つめ返す。

「他に何を知ってるの?」

「他って……」

夜彦は戸惑っていた。頭を押さえながら言いにくそうに話し出す。



「去年、みんなに無視されてたって……暴力もあったって聞いた。俺に話してくれた奴も、内心はかわいそうだって思ってたって言ってたけど、誰もイジメを止めなかったって聞いた。それにミモリが首謀者だって言うのは、絶対の秘密だったって。あいつ優等生だったし、家も多額の寄付する金持ちだったから、学校サイドもあいつの事は放任だったって……」

「他には?」



聞きながら綾人の心はどんどん冷えていった。去年の忌まわしい記憶。悲しい出来事。でもそれは遠い遠い昔の事。心は乱れない。どんどん冷えて凍っていく。



「他って……殴られたり、紙を食わされたとか……ロッカーに閉じ込められたとか……服を……」

「他には?」

「……」

もう言いたくないと言うように夜彦は黙った。

さっきまで綾人の方が血の気のない顔をしていたのに、今は夜彦の方が青い顔になっていた。

「他には?」

「……もうないよ」

その言葉に綾人は希望の光を見つけた。



「本当に?」

夜彦は諦めたように息を吐く。

「ああ、もうないよ。あとは突然ミモリが転校していって、そのイジメも自然消滅した。それしか知らない」

綾人は安堵した。

(良かった、夜彦は何も知らない……)



「夜彦はずっとこの話を僕に確認したかったの?」

訊ねた綾人に夜彦は頷く。

「綾人がイジメられていた事にすごいショックを受けたんだ。それに気づけなかった自分にも。確かにクラスは離れてたけど、寮で一緒に過ごしてたのに気づけなかった事がショックだった。知ってたらもっと励まして助けてやれたのにって、今更だけど後悔して……」

綾人は首を振る。



「君が気に病む事じゃないよ。それに学校のクラス以外では、イジメはなかったんだ。寮ではカケラもね。だから君が気づかないのも無理はない。それに僕も気づかれないように必死で隠してたから。だから君が気にする事じゃないんだ。それに今、こんな風に言ってもらえて感謝してるよ」

「綾人……」

綾人は少し微笑む。

「でも、だったらあんな探るみたいに聞かないで、こうやってハッキリ聞いてくれたら、ちょっと気が楽だったかな、とは思うかな」

夜彦は視線を伏せる。



「それは、ごめん。なんかミモリの事そんな奴だって思ってなくて、信じられなくて。でも直接お前に聞くのもなんか怖くて、それで遠まわしに聞いてたんだ。でも事実だったんだな」

綾人は人形のような精彩のない目をした。

「僕だって信じられなかったよ……」



去年の記憶が甦った。

転校すると言った望森。白い花が揺れていた。

最後に本当の事を教えてあげると言った望森。池に花びらが散る。

僕が君を苛めてたんだ、そう言った望森。彼の首に向かって伸ばした白い手。

君の事が嫌いだった。そう言った彼。蓮の茎を折って二人池に落ちる。

醜い言葉を美しい顔で言う彼。その彼の顔を池に沈める。

蝉の声が聞こえた。うるさい位に。永遠とも思える間。





「ミモリの事、恨んでるのか?」

夜彦の言葉に、綾人は現実に引き戻された。



恨んでいる?



いや、恨んでいる。憎んでいる。僕は許してなんかいない。彼の謝罪の言葉も聞こえない。聞きたくもない。僕は彼を許さない。絶対に許さない。どれだけ彼が苦しみや罰を受けても、僕は絶対に許さない。僕が望むのは彼の居ない世界。そして僕は今それを手に入れている。

なのに。

なのに、どうしてこんなに苦しいんだろう?



「綾人……?」

伸ばされた手に気づき、綾人は夜彦を見つめた。

夜彦は綾人の肩に両手を置き、心配気に顔を覗き込んでいた。

「ごめん、ヤな質問して」

「ううん……」

綾人は首を振る。望森を恨んでいるのか、答えは自分でも分からなかった。





綾人は夜彦の部屋を出た。

廊下を歩きながら考える。ノートを拾ったのは夜彦ではない。それは確信していた。さっきの会話でいろいろ探ったつもりだった。もしも夜彦があのノートを持っていたのなら、きっと彼はノートの事を口にしただろう。けれど夜彦はカケラも口にしなかった。それはノートを持っていないという事だ。

(じゃあ、誰が拾ったんだよ?)



綾人はこの寮に残っている誰かが拾ったのだと、信じて疑っていなかった。







夕方、綾人は思いついて一階の食堂に向かった。

台所で夕食の準備をしている、清春と一意を見つける。

「綾ちゃん、夕飯はまだだよ」

そう言う一意に綾人は微笑む。

「うん、ちょっと様子を見に来ただけ」

「なんだよ、手伝ってくれるんじゃないの?」

清春の言葉に綾人は首を振る。

「7時までに作り終わる?」

綾人が聞くと、清春は包丁を握った一意を見つめる。

「こいつがこんなだからな、7時すぎると思うよ」

「なんだよ、俺だって頑張ってるんだからな! 綾ちゃん美味しい肉じゃが期待しててよ!」



綾人は微笑んで、その場を立ち去る。そしてそのまま清春の部屋に向かう。





清春の部屋は綾人の部屋と同じ2階にあった。丁度建物の中心に近い部屋だ。

綾人はネームプレートを確認すると、そっとドアノブを回した。

ガチャ!



意外な程大きな音がしてドキリとした。つい一番奥の夜彦の部屋を窺い見てしまう。けれど夜彦の部屋のドアが開く気配はない。

綾人はもう一度ノブを回した。ガチャ。やはり鍵がかかっている。

(だよね。清春が鍵を閉めないわけがないものね……)



綾人はそう思いながら、今度は一意の部屋に向かう。

一意の部屋は綾人の部屋の二つ隣だった。綾人はそっと一意の部屋のドアノブを回した。

ガチャリ。

開いた。



綾人は素早く中に入り込む。

一意の部屋ももちろん他の部屋と同じ作りだった。備え付けのベッドと机、それに窓。けれど一意の部屋は、他の部屋に比べると大分狭く感じた。物が溢れているからだ。脱ぎ散らかした洋服がベッドの上にいっぱい積んである。綾人は念のため部屋の鍵を閉めると、最初に机に向かった。





一意の机の上は汚なかった。書類や教科書がバラバラに積み重なっている。触ると雪崩を起こしそうだ。少し躊躇したが、綾人は気にしない事にした。どうせ、これだけ汚なければ、動かしたって分からないだろう。綾人は机の上を探し出した。



心臓はドクドクと脈打っていた。泥棒をするつもりではなかったが、気分は泥棒と同じだった。状況的に見ても泥棒と同じだろう。けれど綾人はここに盗みにきたのではない。ノートを探しにきたのだ。夜彦が持っていないのであれば、あとは二人。一意か清春だ。だから最初に台所に行き、二人が部屋に戻ってきそうもないのを確認したのだ。





綾人は一意の部屋中を探した。机、引き出し、ベッド、窓、床、押し入れ。くまなく探したつもりだ。けれどノートは見つからない。

「ない……のか?」



綾人は呟くと唇をかみしめる。

諦めよう。この部屋にはない。あんまり長く居てみつかったら困る。

綾人は最後にもう一度部屋の中を見回す。そっとドアを開けると、誰も居ないのを確認して廊下に出た。そして何でもないように自室へと戻る。





部屋に戻ると綾人は深く息を吐いた。

よほど運が悪くなければ、見つかることはないと思っていた。それでも緊張した。綾人は無事戻ってきた事に安堵すると思った。

自分は泥棒には向かないと。







夕飯は昨日の野菜の残りで作った、肉じゃがだった。他に一応サラダと味噌汁もある。

綾人は食堂でそれを食べながら、清春の顔を見つめた。クールな清春。彼は大人びた頭の良い少年だ。だから綾人がどんなに探りを入れても、ノートを拾ったかどうか聞き出すのは無理だと思った。仮に何かへんな事を聞けば、すぐに綾人が落としたものだとバレてしまう。



自分じゃ無理だ。でも、誰か他の人間を使って、清春にノートの事を聞き出せないだろうか? そう思っていた時だった。



「なんだよ、綾人。俺のことそんなに見つめて」

「え?」

ドキリとした。

「この絶世でいて、薄幸の美少年様に見惚れちゃってた?」

その冗談に綾人は微笑む。

「誰が薄幸だよ。人一倍幸せそうで健康な人間のくせに」

清春は首を振る。

「わかっちゃないね。優等生様には優等生様なりの不幸があるものなんだよ」

その言葉が綾人の胸に刺さった。優等生なりの不幸。



じゃあ望森も? 望森も不幸だったのか? だからあんなことを?



綾人が自分の考えに沈んでいると、夜彦が口を開いた。



「俺、今日は予定ないから、なんか遊びするなら混ぜてよ」

意外な発言に、全員が夜彦を見る。

「へー、夜ちゃんがそんな発言するなんて珍しいね」

一意の言葉に綾人も続ける。

「でも何をする?」

一意が手をあげた。

「はーい! 怪談が良いです!」

「言うと思った」

冷たく言う清春に一意は負けずに言う。

「じゃー肝試し!」

「どっちも一緒じゃん」

そう言う清春に夜彦が言う。

「一緒じゃないよ。だって動かないといけない分、肝試しのが面倒だぜ。だからその二択なら俺、怪談の方がいいな」

「じゃあ怪談に決定!」

「え、決定なの?」

綾人が聞くと一意は頷く。

「だって他になんか案ある?」

「……ないけど……」

「じゃあ、いいじゃん」



結局怪談をする事に決まった。夕飯後、風呂に入る時間なども考慮し、10時に談話室に集合となった。

綾人はその怪談になんの構えもしていなかった。

自分はただの聞き役、そんな風に考え、なんとなく参加しようとしていた。

けれどいざ怪談が始まると、誰よりも綾人が怯える事になった。



それはそう、とても予想外の展開だった。

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