風紀委員はスカウト制

リョウ

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17・風紀委員の仕事

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通いなれた風紀委員室のドアの前で、僕は緊張していた。

こんなに緊張しているのは、初めてここを訪れた時以来だ。



でもその出会いから今日まで、この部屋でここの人達と過ごすのは楽しかった。

フミヤさんは癒しだし、水橋さんも乱暴者だけど嫌じゃないし、研坂さんはドエスだけど、それでもいつも間違った事は言わなかった。



僕が何を見えなくなっているのか、知るのは怖い。

今日の呼び出しもすごくドキドキする。

だけどこの中にいる人達を信じたい。僕は彼らが信頼できる人だと知っているんだ。



腹を決めてドアを開いた。

目に入ったのはいつもと同じ光景だった。彼らはそろって僕の事を見ている。



「え、えっと、今日はわざわざメール連絡とかしてきて、何か用があるんですか?」

聞きながら自分の席に着く。心なしかみんなの目が痛い気がする。

わざとらしく用なんて言ったけど、やはり僕の事なんだろう。



「とりあえずお茶でも飲んでよ」

フミヤさんがお茶を淹れてだしてくれた。そしてふと気付いた。

机に置かれた紅茶の数が多い。

この部屋には4人しかいないのに、カップは5つ並んでいる。



「今日は来客があったから呼んだんだよ」

研坂さんの言葉に納得した。だからカップが用意されているのか。

あれ、でももう注いである? 来客が来てからで良いんじゃないか?

あ、それとも今はちょっと席を外してるのかな?

そう思うと僕はその人がいつ帰ってくるか、ちょっと緊張した。





ふと気付くと、みんなが僕を見ている。その注目の浴び方にドキリとした。

「えっと、なんですか?」

「いや、なんでもねーよ」



水橋さんがいつも以上にぶっきらぼうに言った。

フミヤさんはなんだか気まずそうに僕を見ている。

正面に座る研坂さんに視線を移す。

研坂さんはいつもと同じ、クールな瞳で僕を見ている。



「これって、推理小説で言うなら、登場人物を全員集めて、探偵様が犯人の指摘ってシーンかな?」

水橋さんは茶化すように言ったが、その顔はひきつっていた。



「あの、その場合、僕が犯人ですか? なんかそんな気配がするんですが」

「ああ、そうだよ」

気まずそうな水橋さんとフミヤさんの前で、研坂さんが悠然と言った。



「それで、俺が探偵だ」

「やっぱり、ですよね。流石明智小五郎の孫」

「だからそのネタはもう良い」

誰も笑ってくれなかった。更に空気が痛々しいモノになってしまった気がする。

研坂さんは椅子に座って机の上で手指を組む。



「アスカ、君は自分の子供の頃の事を覚えているかな?」

胸がドクンと大きく脈打った。僕には子供の頃のあやふやな記憶がある。でも、それを人に話した事はない。

なのにどうして研坂さんがそれを知っているんだ?



「俺の知り合いが、君の子供の頃の知り合いなんだよ」

「え?」

簡単に答えを教えられてしまった。でもその知り合いって?



「君は子供の頃に、母方の田舎によく遊びに行っていただろう?」

「……はい」

「そこに、君と遊んでくれた人がいたんだよ。彼は君の従兄だった。最後に君達が会ったのは、君が小学生、その人が中学生だった時だそうだ」

僕の胸はドクドクと激しくなっていた。最後に会った、それは最期という意味?

僕は本当に生きているのか? それともその人が……。

怯える僕の前で、研坂さんはいつもと同じ口調で言った。



「最後に会った年の夏、アスカ、君は川に落ちたんだ」

どぷん、と水に落ちた時の感触が蘇った。今、僕の周りを水がまた包む。

僕は水の中でもがき、そして手を伸ばす。



「アスカ!?」

慌てたようにフミヤさんが呼ぶ。僕は額を押さえながら答える。

「大丈夫です」

僕が落ち着くのを確認して、研坂さんは話しだす。



「君は川に落ちて助けを求めた。一緒にいた彼はすぐに君を助けようと川に飛び込んだ。彼は必死に君を岸に上げた。けれどその彼は流されてしまった」



胸が激しく脈打つ。岸から見た光景。流される少年。そして飛び立った鳥の姿。

あの鳥はきっと魂だ。死んだ人の……。



「彼が流されてしまった後で、大人たちの捜索が続いた。その時、君から事情を聞いた彼の母親は取り乱してしまった。そして君に酷い事を言ってしまった」

研坂さんはその言葉を口にしなかった。けれど頭の中で、その女の人の声が響いた。



『人殺し!』



僕は恐怖で、自分の身体を抱きしめた。僕が殺した。やっぱり僕が。



「でも、彼は死んではいなかったんだよ」

「え?」

反射的に顔を上げた。研坂さんはいつもと同じ、冷たい程の美貌で僕を見ている。



「彼の意識が鳥を飛ばしたんだ。自分の居場所を知らせるようにね。君の親族は、血筋だろうね、人ではないモノが見える人が多いんだ。だからすぐに彼の居場所が分かり、彼は一命を取り留めた」



胸がふっと軽くなった。彼は助かった? 僕のせいで死んでいなかった?



「彼が無事だと分かると、君を傷つけた彼のお母さんもすぐに正気に戻ってね、すぐに君に謝ったんだよ」

それは誰? 誰の事を言っているの? 親戚の顔を思い浮かべたが、誰だか分からなかった。



「でも幼い君の心はその出来事でとても傷ついていたんだ。君を助けた彼はすぐに意識が戻り、君に会いたいと言った。君が気にしているんじゃないかと気遣ってね。だけど」

いつも無表情な研坂さんの顔が、少し歪んだ。僕の胸は再び重くなる。



「その時には、君は彼の事を覚えていなかったんだ」

「え?」

意外な言葉に目をむく。

覚えていない?

でも、そう、確かに僕の記憶の中にその人の存在はない。でもどうして?



「君はあまりのショックに、その事故の事を忘れてしまった。記憶の忘却を行ったんだ。そして更に原因となった、彼の存在自体を消してしまった」

「消し、た?」

その言葉に僕はひっかかった。胸がチリチリと鈍い痛みを持つ。



「彼との思い出はもちろん、病室で向かい合った彼の姿すら、君は見えない事にしてしまった」

「見えない事?」

聞き返した僕の声は震えていた。



「そう、君は目の前にいる彼の事を見えなくなっていた。彼が話しても動いても、君はないものとして扱った。実際、壊れた君の心には彼は見えていなかったんだろう。それから今日まで、君にとって彼は死んだわけでもなく、いない存在となっているんだ」



僕は何も言えなかった。言葉が出ない。僕を助けてくれた人。その恩人を僕は見えなくなってしまった。

いや、見ないように自分でしているのか?



「君は辛い事件を、彼ごと忘れて抹消してしまった。でも、それって良い事か? 正しい事か?」

正しいわけはないと思う。でも、だって、僕は……。

研坂さんは僕を追い詰めるように言う。



「忘れたお前は楽になっただろう。自責の念からも逃れられる。責め立てられた嫌な気持ちも、不安も全部忘れられた。でもそれ以前の、彼との楽しかった思い出も全部忘れてしまってるんだ」

研坂さんの言葉がどんどん厳しいものになる。



「お前は全部忘れて楽に生きてこれただろう、でもさ、忘れられた、見えない事にされてしまった彼がどんなに辛いか、お前に分かるか!?」

言葉が突き刺さる。ああ、そうだ。佐伯さんの事があった時、僕は思った。

相馬さんに拒絶されてしまった佐伯さんは、どんなに辛かっただろうと。

でもそう、僕は相馬さんより酷い。実際に『彼』を見えないモノとしてしまったんだ。



その時、茫然とする僕の前で研坂さんが首を右に向けた。でもそこには誰もいない。

けれど何か空気が動く気配がする。



『     』

「でも……」

『             』

「全部言わなきゃわからないですよ、こいつはバカですから」



研坂さんは誰かと会話をしている? でも誰と? そこには誰もいない。

ふと僕はテーブルに置かれたカップに気付いた。ここにいる人数より多いカップ。

「あ……」



呟いて口を押さえた。まさか、まさか?

僕は研坂さんの右隣り、誰もいない場所を見る。空気が動いている。



『                』

でもやはり何も見えない。聞こえない。

研坂さんも、フミヤさんも、水橋さんも僕を見ている。胸が苦しい、息ができない。



「ああ、もう、どうして見えないんだよ!?」

激昂したように水橋さんが叫ぶ。見えない? それってもしかして。



その時、研坂さんが紅茶のカップを掴んだ。そしてそれをテーブルに置くと、今度はソーサーを掴んだ。

「これが当たったら痛いだろうな?」

「え?」

僕を見て、微笑するように研坂さんが言った。空気の動く気配がする。



「忘れるっていうのは、脳の問題だ。健忘。昔で言う記憶喪失というヤツだ。その記憶喪失だが、ドラマやマンガじゃ頭に何かがぶつかるなど、衝撃があると治るっていうのが、お約束じゃなかったかな?」

「ま、まさか?」

「ちょっと、コウ、危ないよ!?」

「コウ!」

フミヤさんが叫ぶ。水橋さんも。けれど研坂さんはニヤリと笑う。



「自分だけ忘れてしまって、それでおしまいなんて、そんな都合が良い奴、俺は許せないんだよ。ちょっと位、痛い目見て思いだしてもらおうか」

「ダメだよ! 危ない!」

「そうだよ! シャレになんないぞ、そんなモノ投げたら!」

僕は恐怖で立ちあがった。でもそこからどう逃げたら良いか分からず、動けない。



「ああ、額が割れるかもな、だがそれ位の苦痛、あの人が今までアスカのせいで受けたモノに比べれば大したもんじゃない」

言うと研坂さんは僕に向けてソーサーを投げた。



ダメだ。逃げられない。ぶつかる。そう思って目を閉じた。



ガシャン!



食器が砕ける音が響いた。その時、僕は何かにつつまれていた。暖かい何か。

目を開ける。

けれど僕の横には何も見えない。いや、違う。壁に当たって砕け落ちた食器のかけらが見える。

ちょっとまって、壁?

壁なんか僕の前にはなかった。じゃあこの床の食器はどこにぶつかった?



「大丈夫ですか、長峰さん!」

「長峰さん!」

フミヤさんと水橋さんが叫ぶ。長峰さん? それって確か、うちの学校の、この委員会の創始者。

その人の名前がどうしてここに上がるんだ? どうして?



「……っつ」



声が聞こえた。それはすぐ耳元で。僕を包み込む暖かい何かから。



「いい加減、目を覚ませ、ちゃんと見ろ! お前が誰に守られているか!」



研坂さんの叫びに僕は何もない空間を見た。何もない空間? いや、違う、そこにうっすら影が浮かび上がる。

その人は僕を守るように立っていた。そして研坂さんを見て目を細める。



「コウ、あまり無茶をしないでくれ。俺が庇うと分かってたんだろうが、暴挙だよ。背中に青あざができたよ。だいたい俺が間に合わなかったら、アスカがケガする所だったじゃないか」

「いいでしょう、こんなバカ、ちょっと位ケガしても」

「良くないだろ。顔に傷でも残ったら大変だ」

「男なんだ、顔の傷位勲章だ」

「酷い事を言わないでくれ、アスカは俺の大事な従弟なんだから」



僕はその人の顔をじっと見た。僕の従兄?

ああ、そうだ、僕にはかつて、お兄ちゃんと呼び慕っていた人がいた。

長峰速人。僕の伯母さんの息子。



「もしアスカの顔に傷が残ったら、責任とってお前に嫁にもらってもらわないといけない所だったよ」

「そいつが女だったとしても絶対に嫌です。だいたい貴方は守りなれているから、そんなヘマしないと分かってましたからね」

そう軽口を交わし合う二人を見ていて気付いた。



「僕を守り慣れている?」

呟くと、研坂さんが苦虫を噛み潰したような顔で言った。



「彼は、ここの学校の教師をしてるんだよ。お前にはそれすら、見えていなかったようだけどな」



ハッとした。今まで何度か百合彦や貴一君に、教師を無視していると注意を受けた。

それに何かに守られた事があった。階段を落ちそうになった時や、ボールが当たりそうになった時。

その時は人ではない何かだと思った。ヘビの恩返しじゃないかと、僕は……。



「う……」

堪えきれず呻き声がもれた。

「……ごめん、ハヤトさん、僕、ずっと、助けてもらってたのに、それを目を塞いで、見えなくして……」

「アスカ?」

ハヤトさんが驚いた顔で僕を見る。初めて見る顔だが昔の面影のある顔。

その顔が徐々にやさしいものになっていく。



「アスカ、俺が見えるのか?」

僕は頷く。

「ごめん、ごめんなさい、本当に僕……」

僕は滲む涙を堪えるのに必死だった。





その後、気をきかせてくれた風紀委員のメンバーが帰った部屋で、ハヤトさんと二人きりで話をした。



彼は自分の姿が見えなくなってしまった僕を、それでも気遣い見守り続けてくれていた。

僕がこの学校を選んだのはまったくの偶然だと思っていたが、もしかしたらそれとなく家族に勧められていたのかもしれない。

家族も僕の事を心配して、事態の好転を願って、ハヤトさんのいるこの学校に通わせたのではないかと。

そして僕は風紀委員会のメンバーの協力もあって、ハヤトさんの事を思い出す事が出来た。



「本当にごめん」

何度も謝る僕に、ハヤトさんは苦笑して言った。



「もう気にしないでいいよ。それにもしかしたら、人ではないモノが見えるという、特殊な俺達の血筋もちょっと関係してたんじゃないかって思うし」

「この何かが見える能力は血筋なの?」

聞くと、ハヤトさんは首を傾げる。



「いや、どうだろう。血筋と言ってしまったが、見えない人もいるし、どっちかと言うと性質かな」

「性質?」

「人とか動物とか、何かを放っておけない性質。やさしいとか、お節介とか、良い格好しいとか、言い方はいろいろだ」

その言葉に僕は笑った。胸が少しづつ軽く温かくなる。



「そうだ、今度ハヤトさんの家に遊びに行っても良い?」

「え、ああ、良いが、うちは実家だぞ」

その答えに僕は頷く。



「だから行くんだよ。伯母さんにもちゃんと謝らないと」

ハヤトさんは驚いたように目を見開き、そして眉を寄せて泣きそうな顔になり、最後には力を抜いて笑った。



「ありがとう、母さんも喜ぶよ。ずっとお前の事気にしてたから」



ああ、僕は本当になんてバカだったんだ。伯母さんやハヤトさんを悲しませて。

でもそう、僕は間違いに気付いた。だからちゃんと謝るんだ。そして新たに彼らと絆を深めれば良い。

伯母さんに言われた言葉を、僕はもう許せる。そして僕も、彼らに許されているんだ。



人は人を許しあって生きる、そういう生き物なんだ。







百日紅が咲きノウゼンカズラが揺れる。

そんな夏真っ盛りの通学路を僕は百合彦と一緒に歩いていた。



「暑いな」

呟く百合彦に文句を言う。

「暑いって言わないでよ。言うと暑くなるんだから」

「でも暑いから夏休みが来るんだぞ。そしたら夏祭りだ!」

「ああ、桜桃忌だっけ?」

百合彦が笑いながら僕を見る。

「残念だったね。桜桃忌というのは太宰治の命日なんだよ。とっくに過ぎてるんだよ」

「それ、貴一君に言われてちゃんと調べたんだ。意外とマメだよね、ユリ」

「え、だって、気になったんだから仕方ないじゃん。美味しい出店とか、浴衣のミスコンでもあるかと思ったんだよ」

僕は苦笑しながら校門を潜り、昇降口で靴をはきかえた。



百合彦が上履きを履いているのを見ていたら、廊下にハヤトさんがいる事に気付いた。



「おはようございます! 長峰先生!」

「ああ、おはよう」

ハヤトさんは微笑み返してくれた。僕はちゃんと校内では先生と、公私をわきまえた呼び方をしている。

ハヤトさんが歩き去ると、すぐ横に百合彦が立った。



「珍しいね、アスカが挨拶するなんて」

「え?」

驚いていると、百合彦はハヤトさんの後ろ姿を見ながら呟いた。



「あの人って3年の担当してる長峰先生だろ? アスカはあの先生がいても、いつも無視してたのに」

ギクリとした。

そうだ、僕は見えていない間、ずっと彼をみんなの前で無視していたんだ。



「無視じゃないよ、ほら、僕ってボーっとしてるから、今までは気付かなかっただけだよ」

「ああ、確かにアスカは天然だからね」

百合彦は納得したようだった。



百合彦と話しながら自分の教室に向かった。もうすぐ夏休みだ。

今のところ何も問題はないし、百合彦が言ってたように夏祭りに行く計画でも立てよう。楽しみだな。

そう思いながらドアを開けた。



「わ!」

つい悲鳴をあげた。目があった貴一君が首を傾げる。



「何を叫んでいるんだ?」

貴一君はクールに聞いたが、その貴一君の首に絡みつくようにのっぺらぼうがしがみ付いている。

「何って、何って……」



貴一君の手には小泉八雲の本がある。

原因はアレか? アレなのか?

いや、でも即断は許されないよな?

僕は額を押さえながら教室に入った。目の前には真顔の貴一君と、のっぺらぼう。



「……」



目がないのに、のっぺらぼうと目があっている気がする。どうしよう、なんかサインペンで顔でも書いてあげたい気分だ。



「貴一、夏祭りの計画立てようぜ、あ、花火も!」

楽しそうに百合彦が貴一君に話しかける。心なしかのっぺらぼうも嬉しそうだ。

これは夏祭りに行きたいだけとか、そういうオチか?



「とりあえず」

のっぺらぼうを無視して、二人の会話に加わった。

「僕も祭に行きたい!」



放課後、風紀委員のみんなに相談しよう。これは間違いなく彼らの仕事だろう。







そして放課後、僕の報告を聞くと水橋さんが叫んだ。



「なんだと、のっぺらぼうだと!? そんなまんまの妖怪が出たのか!? 幽霊じゃなく!?」

「いや、そう見えるだけなんで幽霊かもしれないですけど」

僕が言うと研坂さんは顎をつまんだ。



「君の友人は本当によく問題を起すな」

「いや、でもまだ貴一君が原因と決まったわけじゃないし!」

「いや、ほぼ間違いないだろう。だって授業中もベッタリくっついてたんだろう?」

「……はい」



確かにこれはやっぱり貴一君が原因なんだろうなと思った。

考え込みそうになった時、フミヤさんが明るい声で言った。



「まあ、お茶でも飲んで落ちついてよ」

僕は頷いて笑顔を向けた。その時、水橋さんが叫んだ。



「今、じっちゃんに聞いたら、じっちゃんが幽霊じゃないって言ってたぜ!」

「水橋さん、いつの間に交霊したんですか!?」



「じっちゃんは呼べばすぐに答えてくれるんだよ。あ、フミヤ、俺暑いから紅茶はパスな。アスカのおごりでジュース飲むからイイヤ」

「えっとなんで僕にたかるんですか? 僕、後輩ですよ?」

水橋さんは僕の肩に腕を回す。



「今回もお前の友達の問題だろう?」

「そうですが、でもだからってなんで僕がおごる事に」

文句を言っている最中に、ドアが勢いよく開かれた。

見るとヒロミ様が立っている。背後にロクロ首をひきつれて。



「ちょっと、コレなんなの!?」

怒ったようにヒロミ様は後ろの首の長い女性を指さす。



「ロクロ首のようです……」

「す、すげーリアル小泉八雲」

僕と水橋さんは呟いた。



「重くて仕方ないから、早く退治してくれる?」

ヒロミ様は椅子に座ると、フミヤさんが淹れてくれたばかりの僕の紅茶に勝手に口をつけた。

それを改めて僕が飲んで、間接キスなんて事が起きたりするだろうか。そう思っていると研坂さんがいつものクールな声で言った。



「大繁盛だな。まあ、良い。それが俺達の仕事だ」

その発言に笑いながら水橋さんが言った。



「とりあえずみんなひっ捕まえて、お化け屋敷でも作るか?」

「ああ、それは名案だな」

ニヤリと研坂さんが笑った。この人ならそんな事も本気でしかねない。

僕はにぎやかな部屋を見まわし、少しだけ溜め息をついてから微笑んだ。



どんな問題が起きても大丈夫。このメンバーならどんなコトも解決できるだろう。

僕は自分の思考がすっかり風紀委員らしくなったのではないかと思った。



夏の妖怪捕物帳はこれからスタートだ。


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