117 / 117
第三章
最終話 そして、ストップライフは動き出す
しおりを挟む
さて、なぜ今回このような事態が引き起こされたのか、その説明をしなければならない。といっても、説明するようなほどのものでもなく、ただ単にリリスの【場面転換】が暴発しただけという話。
世界改変前、サブロウとくんずほぐれつしたリリスは、久方ぶりの男と悦ってしまう。
その際、アヘ顔になってしまったことで【場面転換】が暴発、世界を作り変えることになってしまった……リリスの話を要約すると、大体こんな感じである。
そんなアホみたいな理由を聞かされたサブロウは大層呆れつつも、元の状態へ戻さんと今一度ポンコツ堕天使と手を組む。
『全ては世界を元に戻すため』……と言いたいところだが、残念ながらブリッツの世界に喧嘩を売った以上、戻すもの、戻さないものを選択しなければならない。それが折衷案。
だから、これは世界の為じゃない。
全てはそう……大事な者を守る為に――
◆
「ママ?」
「………………」
「ママ!」
「………………」
「マーマ!」
「――ッ! ど、どうしたのリリン?」
「ごはん、さめちゃうよ……?」
「あ……」
ただ今、母と子は自宅で朝食中。されどリリスは先程から手が止まったまま。リリンはその姿を心配気に見ていた。
「おなかいたいのー?」
「んーん、違うよ。ちょっとボーっとしてただけ」
リリスはスープを口に運び、無理くり笑ってみせる。
ちなみに先に訂正しておくが、この世界は既に――『元の世界』だ。
「ふ~ん……ねえ、ママ。――パパは?」
娘の純粋な質問に、リリスの背筋がピンと伸びる。
「パパは……お仕事に行ってるの」
リリスはぎこちない笑みで、そう答える。
「おやさいをとりにー?」
「いいえ……。もっと別の……外のお仕事よ」
「そとの、おしごとー?」
そしてリリスは、娘の小さな手を握り締める。
「うん。ちょっと遅くなるかもしれないけど、できるだけ早く帰るって言ってたわ。ちゃんと、お留守番できる?」
リリンはそう聞かれ、一拍置くも、
「うん! できるー!」
母の想いに応えるよう、満面の笑みで握られた手を天高く上げた。
◆
裏代興業のシマ――
「本当にいいんだな、サブ?」
「仕方ありませんよ。折衷案ですから」
ブリッツにそう問われたサブロウは、共にワームホール前へと立ちながら、言葉を返す。
「弟子たちはいいのか? そいつらの面倒を見るとか、大層なこと息巻いてたが?」
「そこは三代目『鴉羽の暗殺者』に話を通してあるので。逐一報告するよう言ってあります」
「フン、そうか……。しかし、まさかお前が――『蹂躙ルート』を選ぶとはなぁ? そうまでして家族を守りたいか?」
そう。ブリッツが述べた通り、サブロウは『蹂躙ルート』を選択した。何故、その道を選んだのか? それは【場面転換】で世界を戻す際、リリンをこちら側に連れてきてしまったからに他ならない。
『そんなのアリか?』と思うかもしれないが、実際できてしまったのだから仕方がない。しかし、そのままでは『幸せな状況』とやらに甘んじることになる為、サブロウはケジメとして家族と離れ、ブリッツと共に他世界へと旅に出ることになった……というのが、今回の幕引き。
これこそがサブロウの言っていた折衷案。
己の『止まった人生』よりも、リリンという『新たな命』を選んだのだ。
結局、最後までリリスに引っ掻き回されっぱなしだったが、新たに生まれた命に罪はない。サブロウが行く理由は、それだけで十分なのだろう。
「ハッ、僕が言いたいこと全部言っちゃってるし……。兄貴の方はいいんですか? 裏代興業、留守にして?」
「もうこの世界に興味はない。後のことは、あの葵咲って小娘に任せた」
「葵咲? あの子、本当に来たんですか?」
「ああ。代行稼業の奴らが連れてきてな。面白そうだからくれてやった」
「そんな簡単に……。まさか、改変後みたく魔王軍を復活させる気じゃ?」
「かもな。だが、どうなろうが知ったこっちゃない。もう俺らには関係ないんだから……」
兄貴分は後腐れなく、そう述べる。
しかし、弟分には守るものがある。そう簡単に割り切ることはできない。
「でも、何かあったら直ぐに戻りますからね? あと月一でも戻ります。子供がいるので」
「わかってるよ。俺もそこまで鬼じゃない。お前が譲歩した分、俺も譲歩してやるよ。折衷案だからな?」
素直な兄貴分に少々面食らいつつも、サブロウは眼前のワームホールを見つめ直す。
「じゃあ……そろそろ行きますか?」
「おう!」
そう言って二人は、ワームホールの中へと足を踏み入れていく。
サブロウは気を引き締めんと神妙な顔つきに。
対するブリッツは乱舞する狂気を、その面持ちに宿して。
こうして『サブロウくんのストップライフ』は幕を閉じる。
まさか予告通り、『他世界おじさん蹂躙ズ!』がスタートすることになるとは、露ほどにも思っていなかった。
だが、それはまた別のお話。語るかどうかも分からない。おっさん三人旅なんぞ、なんの需要もないからな。
というわけで、これでお終い。
結果、サブロウは返り咲かんと、新たな道を歩むことを決意する。
そう。『No.1』になる為の道を――
WATARI~サブロウくんのストップライフ~ 完
世界改変前、サブロウとくんずほぐれつしたリリスは、久方ぶりの男と悦ってしまう。
その際、アヘ顔になってしまったことで【場面転換】が暴発、世界を作り変えることになってしまった……リリスの話を要約すると、大体こんな感じである。
そんなアホみたいな理由を聞かされたサブロウは大層呆れつつも、元の状態へ戻さんと今一度ポンコツ堕天使と手を組む。
『全ては世界を元に戻すため』……と言いたいところだが、残念ながらブリッツの世界に喧嘩を売った以上、戻すもの、戻さないものを選択しなければならない。それが折衷案。
だから、これは世界の為じゃない。
全てはそう……大事な者を守る為に――
◆
「ママ?」
「………………」
「ママ!」
「………………」
「マーマ!」
「――ッ! ど、どうしたのリリン?」
「ごはん、さめちゃうよ……?」
「あ……」
ただ今、母と子は自宅で朝食中。されどリリスは先程から手が止まったまま。リリンはその姿を心配気に見ていた。
「おなかいたいのー?」
「んーん、違うよ。ちょっとボーっとしてただけ」
リリスはスープを口に運び、無理くり笑ってみせる。
ちなみに先に訂正しておくが、この世界は既に――『元の世界』だ。
「ふ~ん……ねえ、ママ。――パパは?」
娘の純粋な質問に、リリスの背筋がピンと伸びる。
「パパは……お仕事に行ってるの」
リリスはぎこちない笑みで、そう答える。
「おやさいをとりにー?」
「いいえ……。もっと別の……外のお仕事よ」
「そとの、おしごとー?」
そしてリリスは、娘の小さな手を握り締める。
「うん。ちょっと遅くなるかもしれないけど、できるだけ早く帰るって言ってたわ。ちゃんと、お留守番できる?」
リリンはそう聞かれ、一拍置くも、
「うん! できるー!」
母の想いに応えるよう、満面の笑みで握られた手を天高く上げた。
◆
裏代興業のシマ――
「本当にいいんだな、サブ?」
「仕方ありませんよ。折衷案ですから」
ブリッツにそう問われたサブロウは、共にワームホール前へと立ちながら、言葉を返す。
「弟子たちはいいのか? そいつらの面倒を見るとか、大層なこと息巻いてたが?」
「そこは三代目『鴉羽の暗殺者』に話を通してあるので。逐一報告するよう言ってあります」
「フン、そうか……。しかし、まさかお前が――『蹂躙ルート』を選ぶとはなぁ? そうまでして家族を守りたいか?」
そう。ブリッツが述べた通り、サブロウは『蹂躙ルート』を選択した。何故、その道を選んだのか? それは【場面転換】で世界を戻す際、リリンをこちら側に連れてきてしまったからに他ならない。
『そんなのアリか?』と思うかもしれないが、実際できてしまったのだから仕方がない。しかし、そのままでは『幸せな状況』とやらに甘んじることになる為、サブロウはケジメとして家族と離れ、ブリッツと共に他世界へと旅に出ることになった……というのが、今回の幕引き。
これこそがサブロウの言っていた折衷案。
己の『止まった人生』よりも、リリンという『新たな命』を選んだのだ。
結局、最後までリリスに引っ掻き回されっぱなしだったが、新たに生まれた命に罪はない。サブロウが行く理由は、それだけで十分なのだろう。
「ハッ、僕が言いたいこと全部言っちゃってるし……。兄貴の方はいいんですか? 裏代興業、留守にして?」
「もうこの世界に興味はない。後のことは、あの葵咲って小娘に任せた」
「葵咲? あの子、本当に来たんですか?」
「ああ。代行稼業の奴らが連れてきてな。面白そうだからくれてやった」
「そんな簡単に……。まさか、改変後みたく魔王軍を復活させる気じゃ?」
「かもな。だが、どうなろうが知ったこっちゃない。もう俺らには関係ないんだから……」
兄貴分は後腐れなく、そう述べる。
しかし、弟分には守るものがある。そう簡単に割り切ることはできない。
「でも、何かあったら直ぐに戻りますからね? あと月一でも戻ります。子供がいるので」
「わかってるよ。俺もそこまで鬼じゃない。お前が譲歩した分、俺も譲歩してやるよ。折衷案だからな?」
素直な兄貴分に少々面食らいつつも、サブロウは眼前のワームホールを見つめ直す。
「じゃあ……そろそろ行きますか?」
「おう!」
そう言って二人は、ワームホールの中へと足を踏み入れていく。
サブロウは気を引き締めんと神妙な顔つきに。
対するブリッツは乱舞する狂気を、その面持ちに宿して。
こうして『サブロウくんのストップライフ』は幕を閉じる。
まさか予告通り、『他世界おじさん蹂躙ズ!』がスタートすることになるとは、露ほどにも思っていなかった。
だが、それはまた別のお話。語るかどうかも分からない。おっさん三人旅なんぞ、なんの需要もないからな。
というわけで、これでお終い。
結果、サブロウは返り咲かんと、新たな道を歩むことを決意する。
そう。『No.1』になる為の道を――
WATARI~サブロウくんのストップライフ~ 完
0
お気に入りに追加
5
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)


【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる