WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

文字の大きさ
上 下
116 / 117
第三章

第115話 ヤったにしろヤってないにしろ、ケジメはつけろ③

しおりを挟む
「あの~……サブロウきゅん? もしかして……怒ってる……?」
「うん。割と」

 拷問椅子に座らされたリリスは神妙な顔で機嫌を窺い、対するサブロウは吐瀉物でも見るような目で見下している。そんないつもの光景を前に、安堵を覚えるのは私だけではないだろう。

「な、なんでよ⁉ さっき怒らないって言ったじゃない! 騙すなんて酷いわ……」
「そういうとこだよ、そういうとこ。毎回、自分の非が頭にない。僕を別世界に飛ばした時から、まるで成長してないね」

 サブロウも今回ばかりは逃がさんと、いつもより目元が鋭くなっている。こう見るとやはり、アマトの子なんだな。

「お生憎様! この世界じゃ私は天界の長なの! あのブリッツだって消すほどの力を持ってるのよ? そりゃ、成長しないわよ~! だって初めからカンスト済み――ぶへらぁっ⁉」

 さすがのサブロウも堪忍袋の緒が切れ、リリスの顔面を右ストレートでぶっとばす。

「いっだぁぁあああぁぁぁ……‼ え? ウソでしょ? 拘束してる女の子の顔面殴ったんだけど? ありえないんですけどッ‼」

 鼻っ柱を真っ赤に染め、涙目で訴えるリリス。

「僕も驚いたよ……。嘗て捨てたはずの君への復讐心が、まだ残ってたことに」

 こりゃ、完全にキレてるな……。父親といい感じ風になった今、復讐心の行く先はリリス以外に他ない。ま、自業自得だな。言うなればコイツは諸悪の根源であり、サブロウにとっての――ラスボスなのだ。

「だからって殴るのはおかしいでしょ⁉ 普通、女の子を拘束したらエッチなことをするって相場が決まってるでしょうが⁉」
「決まってねえよ。僕は悪いことしたら、それ相応の罰を受けるってのを言いたいのさ。そこに男も女も関係ない」
「でも、この状況……そんなに悪くなくない? 私たちは夫婦になって子供まで出来たのよ? サブロウくんだって言ってたじゃない! 『こんなに幸せでいいのかな……』って?」

 うむ。確かに一理ある。全部が全部悪いとは言い切れない。

「それに兄貴分のブリッツだって消えたのよ? あの人はサブロウくんにとって、目の上のたんこぶじゃない?」

 さらにリリスは、そう説得を試みる。
 だが、サブロウは盛大な溜息でそれを跳ね除けた。

「勘違いしてるようだから言っとくけど――兄貴は消えてなんかいないよ?」
「……え?」

 ……え? そうなの?

「君も聞いてたんじゃないかな……ブリッツの兄貴が『天界の住人を遠隔洗脳して支配下に置いてる』って」
「あぁー……聞いたような?」
「さっき案内役を務めてくれた、あのガブリエルって子……あれは兄貴だ」
「――なッ⁉」

 ――なッ⁉

「なんですってぇぇえええええええええええええ⁉」

 なんだってぇぇええええええええええええええ⁉

 それはリリスと私、最初で最後のシンクロであった。

「僕も親父の言葉を聞いて、さっき思い出したところさ。恐らく兄貴は世界改変前に意識を潜らせていたんだろう。明らかに放ってる気が違ったからね」

 あの時感じた違和感はそれだったのか……。漸く謎が解けた。

「ってことは、最初っから見てたってこと……? ずーっと……?」
「ああ。今回の件、兄貴なら防ごうと思えば防げたはず。それをしなかったのは、この状況を利用できると思ったからに他ならない。僕が君、もしくは親父に復讐したら世界蹂躙ルートへ。僕たちがこの状況に甘んじたら、君とリリンは消されて、怒った僕は兄貴と殺し合いって筋書きかな?」

 それを聞いたリリスはトラウマを刺激され、「あばばばば……」と泡を吹きながら、久方ぶりのおしっ……ではなく聖水を御覧に入れる。

「さあ、もう分かっただろ? 僕たちが生き残るには、もう一度手を組むしかないって」
「ゔぅ……手を組むぅ……?」

 サブロウは目線を合わせんと膝をつ……こうとするが、聖水が滴ってたので即断念。寧ろ、ちょっと距離を取る。

「僕は復讐心を捨てる。君は世界を元に戻す。これで全て丸く収まる。みんな幸せ、万々歳だ」
「でも……それじゃリリンが……」

 腐っても母親か……。この期に及んで嘘はないだろうしな。

「それに関しては……折衷案を考えてる」
「折衷……案……?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...