WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

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第三章

第113話 ヤったにしろヤってないにしろ、ケジメはつけろ①

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 対局を終えたところで、サブロウたちは家族そろって夕飯タイムへと移る。

 メニューは和食の定番、ご飯、味噌汁、サバの味噌煮、肉じゃが等々。
 それらを小さいテーブルで囲んでは、皆で談笑……とまでは行かないが、リリスとリリンが間を取り持ったことで、久方ぶりの親子の食事会は滞りなく進んでいく。

 目の前の食事……そして幸せを噛み締めながら、サブロウは何を思うのか?

 『現実』か? はたまた偽りの『幸せ』か?

 選択の時はもう……そこまで迫っていた。



「まだ悩んでるのか?」

 食後の一服中、アマトは壁に寄りかかりながら、そう語りかける。

「……うん」

 サブロウも同じように一服しつつ、小さく頷く。

 リリスとリリンは洗い物中。
 そんな愛する妻子を見ながら、サブロウは言葉を継ぐ。

「居ればいるほど感じるんだよね。わざわざ戻す必要あるのかなって」
「………………」
「別に『現実』が嫌だったってわけじゃないよ? 普通に幸せだったし、ちゃんと一人でも生きていけてた。……でも、こっちはその比じゃない。新しい命も生まれたし、それに……親父も生きてるし……」

 サブロウが消え入りそうな声でそう告げると、アマトは深く煙を吐き出し、淡々とこう返す。

「だが今はよくても、そのしこりは後々、新たな禍根を生むぜ?」
「何さ……禍根って?」
「感じるんだよ……。上の上の……そのまた上の方から、ずーっと誰かが覗いてるような……そんな嫌な気配がよ」

 上の上……? え? 私じゃないよね?

「親父にしては偉く抽象的だね?」
「かもな……。だが俺が、そういうの外したことあったか?」
「ない……ね」

 サブロウは素直に、その意見を飲み込んだ。
 父親と再会したことで、サブロウも大分落ち着いてきた様子。漸く頭が回り出してきたようだ。

「ま、ヤったにしろヤってないにしろ、ケジメはつけろってこった。新しい命に関しては、お前とあの子がくっ付けばいいだけの話。何も問題あるまい」
「でも、それじゃ親父が……」
「俺は俺の『現実』を後悔してない。俺が死に、お前が生き残った。……それが全てだ」



 夜も更けてきたので、サブロウ一家はそろそろお暇することに。
 しかし、玄関に差し掛かったところで、アマトに「サブロウ……」と呼び止められる。

「じゃあ、私たちは先に降りてるわね? お邪魔しました、お義父様。また近いうちに」
「じゃあね~、おじいちゃん」

 察したリリスは会釈をし、手を振るリリンを連れ、アマト家を後にする。

「どうしたのさ、親父?」

 そうサブロウが尋ねると――

「……愛してる」

 アマトは気風良く、愛を告げた。

「――なっ⁉ なんだよ、急に……!」

 サブロウは突然の告白に、泡を食ったように背を向ける。

「せっかく貰えたチャンスだ。一応、伝えとく」

 対してアマトは一切ブレず、終始真っ直ぐだった。

「今さら遅いでしょ……」
「だな……。だが、もう会うこともないだろうからな。少しくらい罰は当たるまい」

 直後、煙を吐く音だけが耳に届く。
 サブロウは暫し沈黙したのち、頭の中にある言葉を整理しながら、言葉を紡ぐ。

「僕は……どうかな……。そんな直ぐには割り切れないよ……」
「ああ。それでいい」
「――でも!」

 サブロウはそこで振り返る。父に向き合う為、そして――最後の想いを伝える為に。

「どんな時でも己が生き様を貫く姿勢だけは……尊敬してる」

 長き時を経て子から伝えられた言葉にもアマトは、

「そうか……」

 表情を崩さない。だが……ほんの少し微笑んでいるようにも見えた。

「それじゃあ……」

 そう言ってサブロウは旅立つ……

「ああ。お前ならやれるさ、サブロウ。なんたって、お前は――」

 売られたあの時とは違う――

「俺の息子なんだから」

 本当の意味で。
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