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第三章
第113話 ヤったにしろヤってないにしろ、ケジメはつけろ①
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対局を終えたところで、サブロウたちは家族そろって夕飯タイムへと移る。
メニューは和食の定番、ご飯、味噌汁、サバの味噌煮、肉じゃが等々。
それらを小さいテーブルで囲んでは、皆で談笑……とまでは行かないが、リリスとリリンが間を取り持ったことで、久方ぶりの親子の食事会は滞りなく進んでいく。
目の前の食事……そして幸せを噛み締めながら、サブロウは何を思うのか?
『現実』か? はたまた偽りの『幸せ』か?
選択の時はもう……そこまで迫っていた。
◆
「まだ悩んでるのか?」
食後の一服中、アマトは壁に寄りかかりながら、そう語りかける。
「……うん」
サブロウも同じように一服しつつ、小さく頷く。
リリスとリリンは洗い物中。
そんな愛する妻子を見ながら、サブロウは言葉を継ぐ。
「居ればいるほど感じるんだよね。わざわざ戻す必要あるのかなって」
「………………」
「別に『現実』が嫌だったってわけじゃないよ? 普通に幸せだったし、ちゃんと一人でも生きていけてた。……でも、こっちはその比じゃない。新しい命も生まれたし、それに……親父も生きてるし……」
サブロウが消え入りそうな声でそう告げると、アマトは深く煙を吐き出し、淡々とこう返す。
「だが今はよくても、そのしこりは後々、新たな禍根を生むぜ?」
「何さ……禍根って?」
「感じるんだよ……。上の上の……そのまた上の方から、ずーっと誰かが覗いてるような……そんな嫌な気配がよ」
上の上……? え? 私じゃないよね?
「親父にしては偉く抽象的だね?」
「かもな……。だが俺が、そういうの外したことあったか?」
「ない……ね」
サブロウは素直に、その意見を飲み込んだ。
父親と再会したことで、サブロウも大分落ち着いてきた様子。漸く頭が回り出してきたようだ。
「ま、ヤったにしろヤってないにしろ、ケジメはつけろってこった。新しい命に関しては、お前とあの子がくっ付けばいいだけの話。何も問題あるまい」
「でも、それじゃ親父が……」
「俺は俺の『現実』を後悔してない。俺が死に、お前が生き残った。……それが全てだ」
◆
夜も更けてきたので、サブロウ一家はそろそろお暇することに。
しかし、玄関に差し掛かったところで、アマトに「サブロウ……」と呼び止められる。
「じゃあ、私たちは先に降りてるわね? お邪魔しました、お義父様。また近いうちに」
「じゃあね~、おじいちゃん」
察したリリスは会釈をし、手を振るリリンを連れ、アマト家を後にする。
「どうしたのさ、親父?」
そうサブロウが尋ねると――
「……愛してる」
アマトは気風良く、愛を告げた。
「――なっ⁉ なんだよ、急に……!」
サブロウは突然の告白に、泡を食ったように背を向ける。
「せっかく貰えたチャンスだ。一応、伝えとく」
対してアマトは一切ブレず、終始真っ直ぐだった。
「今さら遅いでしょ……」
「だな……。だが、もう会うこともないだろうからな。少しくらい罰は当たるまい」
直後、煙を吐く音だけが耳に届く。
サブロウは暫し沈黙したのち、頭の中にある言葉を整理しながら、言葉を紡ぐ。
「僕は……どうかな……。そんな直ぐには割り切れないよ……」
「ああ。それでいい」
「――でも!」
サブロウはそこで振り返る。父に向き合う為、そして――最後の想いを伝える為に。
「どんな時でも己が生き様を貫く姿勢だけは……尊敬してる」
長き時を経て子から伝えられた言葉にもアマトは、
「そうか……」
表情を崩さない。だが……ほんの少し微笑んでいるようにも見えた。
「それじゃあ……」
そう言ってサブロウは旅立つ……
「ああ。お前ならやれるさ、サブロウ。なんたって、お前は――」
売られたあの時とは違う――
「俺の息子なんだから」
本当の意味で。
メニューは和食の定番、ご飯、味噌汁、サバの味噌煮、肉じゃが等々。
それらを小さいテーブルで囲んでは、皆で談笑……とまでは行かないが、リリスとリリンが間を取り持ったことで、久方ぶりの親子の食事会は滞りなく進んでいく。
目の前の食事……そして幸せを噛み締めながら、サブロウは何を思うのか?
『現実』か? はたまた偽りの『幸せ』か?
選択の時はもう……そこまで迫っていた。
◆
「まだ悩んでるのか?」
食後の一服中、アマトは壁に寄りかかりながら、そう語りかける。
「……うん」
サブロウも同じように一服しつつ、小さく頷く。
リリスとリリンは洗い物中。
そんな愛する妻子を見ながら、サブロウは言葉を継ぐ。
「居ればいるほど感じるんだよね。わざわざ戻す必要あるのかなって」
「………………」
「別に『現実』が嫌だったってわけじゃないよ? 普通に幸せだったし、ちゃんと一人でも生きていけてた。……でも、こっちはその比じゃない。新しい命も生まれたし、それに……親父も生きてるし……」
サブロウが消え入りそうな声でそう告げると、アマトは深く煙を吐き出し、淡々とこう返す。
「だが今はよくても、そのしこりは後々、新たな禍根を生むぜ?」
「何さ……禍根って?」
「感じるんだよ……。上の上の……そのまた上の方から、ずーっと誰かが覗いてるような……そんな嫌な気配がよ」
上の上……? え? 私じゃないよね?
「親父にしては偉く抽象的だね?」
「かもな……。だが俺が、そういうの外したことあったか?」
「ない……ね」
サブロウは素直に、その意見を飲み込んだ。
父親と再会したことで、サブロウも大分落ち着いてきた様子。漸く頭が回り出してきたようだ。
「ま、ヤったにしろヤってないにしろ、ケジメはつけろってこった。新しい命に関しては、お前とあの子がくっ付けばいいだけの話。何も問題あるまい」
「でも、それじゃ親父が……」
「俺は俺の『現実』を後悔してない。俺が死に、お前が生き残った。……それが全てだ」
◆
夜も更けてきたので、サブロウ一家はそろそろお暇することに。
しかし、玄関に差し掛かったところで、アマトに「サブロウ……」と呼び止められる。
「じゃあ、私たちは先に降りてるわね? お邪魔しました、お義父様。また近いうちに」
「じゃあね~、おじいちゃん」
察したリリスは会釈をし、手を振るリリンを連れ、アマト家を後にする。
「どうしたのさ、親父?」
そうサブロウが尋ねると――
「……愛してる」
アマトは気風良く、愛を告げた。
「――なっ⁉ なんだよ、急に……!」
サブロウは突然の告白に、泡を食ったように背を向ける。
「せっかく貰えたチャンスだ。一応、伝えとく」
対してアマトは一切ブレず、終始真っ直ぐだった。
「今さら遅いでしょ……」
「だな……。だが、もう会うこともないだろうからな。少しくらい罰は当たるまい」
直後、煙を吐く音だけが耳に届く。
サブロウは暫し沈黙したのち、頭の中にある言葉を整理しながら、言葉を紡ぐ。
「僕は……どうかな……。そんな直ぐには割り切れないよ……」
「ああ。それでいい」
「――でも!」
サブロウはそこで振り返る。父に向き合う為、そして――最後の想いを伝える為に。
「どんな時でも己が生き様を貫く姿勢だけは……尊敬してる」
長き時を経て子から伝えられた言葉にもアマトは、
「そうか……」
表情を崩さない。だが……ほんの少し微笑んでいるようにも見えた。
「それじゃあ……」
そう言ってサブロウは旅立つ……
「ああ。お前ならやれるさ、サブロウ。なんたって、お前は――」
売られたあの時とは違う――
「俺の息子なんだから」
本当の意味で。
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