113 / 117
第三章
第112話 ヤったものには必ず痕跡が残る。そして真実は意外なところに……③
しおりを挟む
さて、父親との人生相談も佳境。そろそろサブロウの手牌を覗いてみよう。
萬子、筒子、索子、それぞれに二三四の順子があり、雀頭は赤五筒。残りは二三萬で一四萬の両面待ち……って、随分な手だな。リーチして四萬アガリなら、メンタンピン、一盃口、三色、ドラ2。ツモ、一発、裏ドラの可能性も秘めている。最低でも跳満の手だ。
本来、二人麻雀は自模れる回数が少なく、アガリにくいとされているもの。お前コレ……積み込みしたろ?
(相手はあの代打ちの名手だからね。親父だって洗牌してたとき普通にやってたし。妨害しながら積み込むの、結構大変だったんだよ?)
話を聞いてもらってる立場なのに、さらっとイカサマを自白するサブロウ。息子が健やかに育っているようで何よりだ。
「で? お前はどうするんだ? この状況を受け入れるのか?」
そう言いながらアマトは、打一索をする。
「う~ん、どうだろう? ……って、悩んでる時点でもう決まってるのかな?」
サブロウは自嘲気味に牌を引くと……その動きが一瞬止まる。
どうした、サブロウ?
(なんで……字牌がっ……⁉)
字牌? あぁ……西か。別に何もおかしくないだろ? 河にないとはいえ、二人麻雀だ。単純に出てないだけとも取れる。普通に切ればいい。
(いや、親父のイカサマの一つに字牌のコントロールがある……。自分の手牌に集中的に持ってきた後、相手に出させて一気に飛ばす戦法だ。早めに出しても副露か拾われるのがオチ。防御用で持ってたとしても、後半それが足枷になって自分の手が進まない。逆に警戒し過ぎると普通の手でアガられてしまう。そうやって親父は場の状況を読み、支配することで勝ち上がってきたんだ)
今回は手積み。それだけ精度よくイカサマができるとなると……厄介だな。
(だからこそ僕は、字牌が出ないよう積んだはず……なのに……!)
相手の方が一枚上手だったか。となるとこれは……
(切れない……! ここは崩すしか……)
サブロウは断腸の思いで二萬を切り、様子見する。
「ヤったものには必ず痕跡が残る。フッ……今みたいにな?」
アマトは牌を引くと、手出しで切る……四萬を。
「くっ……⁉ まだテンパイしてなかったのか……!」
「お前は見す見す勝機を逃しちまった。その痕跡が二萬《ソレ》だ」
サブロウは悔し気に顔を歪めつつも牌を引く。すると――
(――ッ⁉ 二萬……⁉)
もう一度引き入れる……勝利のピースを。
このチャンスを逃さんと、サブロウはその面持ちのまま、先程引いた西を強めに切る。相手に悟られぬようにと、切ってしまう……
「おっと……ちょうど今、引いてきたところだったんだ――カン」
「え……?」
アマトは牌を倒す。サブロウの切ったのと同じ――西を。
「言ったろ、サブロウ。ヤったものには必ず痕跡が残るって……」
「痕跡……? まさか、この二萬はっ⁉」
サブロウが河に視線を移すと、そこにあるはずの牌が別の牌へと変わっていた。……アマトが最初に出した二萬が一萬に。
(入れ替えられてる……⁉ しかも、僕の当たり牌にッ……!)
心情を掻き乱されるサブロウ。対してアマトは淡々と続ける。
「それに、お前は俺に字牌を引かせぬよう積み込みしただろ? ……奥の奥の方まで」
「奥の奥……嶺上牌ッ……!」
嶺上牌――
麻雀は全ての牌を使用しない。必ず十四枚の王牌を残すのがルール。
だが、その一番端……カンをした時だけ補充できる牌が存在する。
それが嶺上牌。本来なら見えること叶わぬ、王なる牌。
「そう……。まやかしに騙されるなよ、サブロウ。真実は意外なところに、眠ってるもんだ――」
アマトは嶺上牌を引くなり、見ることなく東を叩きつけ――
「ツモ。字一色、大三元……飛んだな」
ダブル役満を告げたのち、親子の麻雀対決は一発で終局となった。
萬子、筒子、索子、それぞれに二三四の順子があり、雀頭は赤五筒。残りは二三萬で一四萬の両面待ち……って、随分な手だな。リーチして四萬アガリなら、メンタンピン、一盃口、三色、ドラ2。ツモ、一発、裏ドラの可能性も秘めている。最低でも跳満の手だ。
本来、二人麻雀は自模れる回数が少なく、アガリにくいとされているもの。お前コレ……積み込みしたろ?
(相手はあの代打ちの名手だからね。親父だって洗牌してたとき普通にやってたし。妨害しながら積み込むの、結構大変だったんだよ?)
話を聞いてもらってる立場なのに、さらっとイカサマを自白するサブロウ。息子が健やかに育っているようで何よりだ。
「で? お前はどうするんだ? この状況を受け入れるのか?」
そう言いながらアマトは、打一索をする。
「う~ん、どうだろう? ……って、悩んでる時点でもう決まってるのかな?」
サブロウは自嘲気味に牌を引くと……その動きが一瞬止まる。
どうした、サブロウ?
(なんで……字牌がっ……⁉)
字牌? あぁ……西か。別に何もおかしくないだろ? 河にないとはいえ、二人麻雀だ。単純に出てないだけとも取れる。普通に切ればいい。
(いや、親父のイカサマの一つに字牌のコントロールがある……。自分の手牌に集中的に持ってきた後、相手に出させて一気に飛ばす戦法だ。早めに出しても副露か拾われるのがオチ。防御用で持ってたとしても、後半それが足枷になって自分の手が進まない。逆に警戒し過ぎると普通の手でアガられてしまう。そうやって親父は場の状況を読み、支配することで勝ち上がってきたんだ)
今回は手積み。それだけ精度よくイカサマができるとなると……厄介だな。
(だからこそ僕は、字牌が出ないよう積んだはず……なのに……!)
相手の方が一枚上手だったか。となるとこれは……
(切れない……! ここは崩すしか……)
サブロウは断腸の思いで二萬を切り、様子見する。
「ヤったものには必ず痕跡が残る。フッ……今みたいにな?」
アマトは牌を引くと、手出しで切る……四萬を。
「くっ……⁉ まだテンパイしてなかったのか……!」
「お前は見す見す勝機を逃しちまった。その痕跡が二萬《ソレ》だ」
サブロウは悔し気に顔を歪めつつも牌を引く。すると――
(――ッ⁉ 二萬……⁉)
もう一度引き入れる……勝利のピースを。
このチャンスを逃さんと、サブロウはその面持ちのまま、先程引いた西を強めに切る。相手に悟られぬようにと、切ってしまう……
「おっと……ちょうど今、引いてきたところだったんだ――カン」
「え……?」
アマトは牌を倒す。サブロウの切ったのと同じ――西を。
「言ったろ、サブロウ。ヤったものには必ず痕跡が残るって……」
「痕跡……? まさか、この二萬はっ⁉」
サブロウが河に視線を移すと、そこにあるはずの牌が別の牌へと変わっていた。……アマトが最初に出した二萬が一萬に。
(入れ替えられてる……⁉ しかも、僕の当たり牌にッ……!)
心情を掻き乱されるサブロウ。対してアマトは淡々と続ける。
「それに、お前は俺に字牌を引かせぬよう積み込みしただろ? ……奥の奥の方まで」
「奥の奥……嶺上牌ッ……!」
嶺上牌――
麻雀は全ての牌を使用しない。必ず十四枚の王牌を残すのがルール。
だが、その一番端……カンをした時だけ補充できる牌が存在する。
それが嶺上牌。本来なら見えること叶わぬ、王なる牌。
「そう……。まやかしに騙されるなよ、サブロウ。真実は意外なところに、眠ってるもんだ――」
アマトは嶺上牌を引くなり、見ることなく東を叩きつけ――
「ツモ。字一色、大三元……飛んだな」
ダブル役満を告げたのち、親子の麻雀対決は一発で終局となった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)


ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
グミ食べたい
ファンタジー
疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。
そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。
逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。
猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。
リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。


【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる