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第三章
第109話 自分がヤっちまったかどうか分からないときは、原点に立ち返れ③
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翌日――
サブロウは妻と娘に連れられ、ワームホールへと足を踏み入れていく。
実に七歳以来のワームホールとあり、普通なら感慨深くなるところだが……サブロウの心中はそれどころではなかった。
「ねえ……本当に行くの? 親父のところへ……」
「もう~、まだ言ってるの? 随分、弱気なパパだね~、リリン?」
リリスは呆れたような笑みで、手を繋いでいたリリンへと視線を落とす。
「だいじょうぶだよ、ママ! リリンがいっしょだから!」
「あら! リリンは強いわね~。頼りになるわ」
お互い笑い合う妻と娘。昨日から何度問うても、この調子である。
そもそもサブロウからすれば、闇に生きてきた父親が未だ存命していること自体、眉唾物。もう今生、会うことはないとさえ思ってたくらいだ。
漸く受け入れ始めていた現実に、再び差し込まれる不信感……。
しかし、そんな疑念もワームホールを抜けたところで、徐々に真実味を帯びていくこととなる――
◆
「「「「「お帰りなさいませ、リリス様!」」」」」
ワームホールを抜けるなり、真っ直ぐ伸びた一本道には、ずらりと並ぶ天使たちがお出迎えなさる。皆、一様に頭を下げていらっしゃった。
「な……なんだよ、これ……?」
予想だにしない超待遇と天高く浮かぶこの場所に、サブロウは思わず足を止めてしまう。
「ようこそ、私が治める天界へ。ちゃんと来るのは初めてだったわよね?」
そう。ここは天界。嘗てリリスが居た窓際の方ではなく、れっきとした本家の天界――って、私が治めるぅ⁉
「なんで君が天界を……? 堕天したはずだよね?」
「……忘れちゃったの? 私の口からは言い辛いんだけど……」
サブロウは止めていた歩を進めつつ、リリスからの途切れ途切れな説明に耳を傾けた。
要約するにサブロウとリリスが結婚し、子を儲けたことでブリッツが弱体化、結果的にそれで討ち取られることになるので、その功績が認められて天界の長になった、とのことらしい。まさに下克上。こちらのリリスはジャイアントキリングを成し遂げていたようだ。
「でも、君……羽が堕天したままだけど? それはいいの?」
「あぁ……長になる頃にはもう、この子がいたからね。一緒の方がいいと思って」
そう言ってリリスはリリンと微笑み合う。
「そっか……」
サブロウはそう一言だけ返し、以降口を閉じる。
内心まだ信じ難いといったところだが、一応筋は通るし、何よりこの状況が全てを物語っている。これ以上問うても無駄と判断したのだろう。
サブロウたちが中央まで足を運ぶと、金色に輝く髪の天使が出迎える。
「お帰りなさいませ、リリス様……。案内役は、このガブリエルが務めます」
淡々と述べる目の据わったクールガールは、手の平で指し示しつつ先導する。
周囲には無数の階段が枝分かれしており、その先にワームホールが設置してあるという構造らしい。
ガブリエルに追随するリリスとリリン。サブロウは少し後方から、その後に続く。
サブロウ、彼女は他の天使と少し違うようだな?
「ああ。彼女だけどこか敬う気持ちが感じられない……って、そういう意味じゃないよね?」
お前も気付いたか。あのガブリエルとかいう天使……只者じゃない。
「うん。上手く言い表せられないけど、何かこう……妙な気を感じる」
そんな我々の気など露知らず、数あるワームホール、その一つへと到着する。
「こちらより先がサブロウ様の世界となります……」
虚ろなガブリエルに案内されたリリスは振り返ると、
「じゃあ、あなた。行きましょ?」
「あ、ああ……」
そうサブロウに述べたのち、リリンを連れて先にワームホールへと入っていった。
サブロウも続くようにワームホール内へと足を踏み入れていくが、
「………………」
ふと異様な視線を感じ、振り返る。
「……何か?」
そう述べたのは真っ直ぐサブロウを見据えている……あのガブリエルであった。
深淵よりも深い黝い瞳に、サブロウだけでなく私にも妙な悪寒が走る。
「どこかでお会いしたことありましたっけ……貴女と?」
そうサブロウが問うと、
「……いえ、全然」
彼女は真顔で一拍置き、そう答えた。
「そうですか……。すみません、気のせいだったみたいです。忘れてください」
サブロウは違和感を感じつつも軽く会釈したのち、足早にリリスの後を追いかける。
「………………」
……彼女の視線を、その背に受けながら。
サブロウは妻と娘に連れられ、ワームホールへと足を踏み入れていく。
実に七歳以来のワームホールとあり、普通なら感慨深くなるところだが……サブロウの心中はそれどころではなかった。
「ねえ……本当に行くの? 親父のところへ……」
「もう~、まだ言ってるの? 随分、弱気なパパだね~、リリン?」
リリスは呆れたような笑みで、手を繋いでいたリリンへと視線を落とす。
「だいじょうぶだよ、ママ! リリンがいっしょだから!」
「あら! リリンは強いわね~。頼りになるわ」
お互い笑い合う妻と娘。昨日から何度問うても、この調子である。
そもそもサブロウからすれば、闇に生きてきた父親が未だ存命していること自体、眉唾物。もう今生、会うことはないとさえ思ってたくらいだ。
漸く受け入れ始めていた現実に、再び差し込まれる不信感……。
しかし、そんな疑念もワームホールを抜けたところで、徐々に真実味を帯びていくこととなる――
◆
「「「「「お帰りなさいませ、リリス様!」」」」」
ワームホールを抜けるなり、真っ直ぐ伸びた一本道には、ずらりと並ぶ天使たちがお出迎えなさる。皆、一様に頭を下げていらっしゃった。
「な……なんだよ、これ……?」
予想だにしない超待遇と天高く浮かぶこの場所に、サブロウは思わず足を止めてしまう。
「ようこそ、私が治める天界へ。ちゃんと来るのは初めてだったわよね?」
そう。ここは天界。嘗てリリスが居た窓際の方ではなく、れっきとした本家の天界――って、私が治めるぅ⁉
「なんで君が天界を……? 堕天したはずだよね?」
「……忘れちゃったの? 私の口からは言い辛いんだけど……」
サブロウは止めていた歩を進めつつ、リリスからの途切れ途切れな説明に耳を傾けた。
要約するにサブロウとリリスが結婚し、子を儲けたことでブリッツが弱体化、結果的にそれで討ち取られることになるので、その功績が認められて天界の長になった、とのことらしい。まさに下克上。こちらのリリスはジャイアントキリングを成し遂げていたようだ。
「でも、君……羽が堕天したままだけど? それはいいの?」
「あぁ……長になる頃にはもう、この子がいたからね。一緒の方がいいと思って」
そう言ってリリスはリリンと微笑み合う。
「そっか……」
サブロウはそう一言だけ返し、以降口を閉じる。
内心まだ信じ難いといったところだが、一応筋は通るし、何よりこの状況が全てを物語っている。これ以上問うても無駄と判断したのだろう。
サブロウたちが中央まで足を運ぶと、金色に輝く髪の天使が出迎える。
「お帰りなさいませ、リリス様……。案内役は、このガブリエルが務めます」
淡々と述べる目の据わったクールガールは、手の平で指し示しつつ先導する。
周囲には無数の階段が枝分かれしており、その先にワームホールが設置してあるという構造らしい。
ガブリエルに追随するリリスとリリン。サブロウは少し後方から、その後に続く。
サブロウ、彼女は他の天使と少し違うようだな?
「ああ。彼女だけどこか敬う気持ちが感じられない……って、そういう意味じゃないよね?」
お前も気付いたか。あのガブリエルとかいう天使……只者じゃない。
「うん。上手く言い表せられないけど、何かこう……妙な気を感じる」
そんな我々の気など露知らず、数あるワームホール、その一つへと到着する。
「こちらより先がサブロウ様の世界となります……」
虚ろなガブリエルに案内されたリリスは振り返ると、
「じゃあ、あなた。行きましょ?」
「あ、ああ……」
そうサブロウに述べたのち、リリンを連れて先にワームホールへと入っていった。
サブロウも続くようにワームホール内へと足を踏み入れていくが、
「………………」
ふと異様な視線を感じ、振り返る。
「……何か?」
そう述べたのは真っ直ぐサブロウを見据えている……あのガブリエルであった。
深淵よりも深い黝い瞳に、サブロウだけでなく私にも妙な悪寒が走る。
「どこかでお会いしたことありましたっけ……貴女と?」
そうサブロウが問うと、
「……いえ、全然」
彼女は真顔で一拍置き、そう答えた。
「そうですか……。すみません、気のせいだったみたいです。忘れてください」
サブロウは違和感を感じつつも軽く会釈したのち、足早にリリスの後を追いかける。
「………………」
……彼女の視線を、その背に受けながら。
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