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第三章

第109話 自分がヤっちまったかどうか分からないときは、原点に立ち返れ③

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 翌日――

 サブロウは妻と娘に連れられ、ワームホールへと足を踏み入れていく。
 実に七歳以来のワームホールとあり、普通なら感慨深くなるところだが……サブロウの心中はそれどころではなかった。

「ねえ……本当に行くの? 親父のところへ……」
「もう~、まだ言ってるの? 随分、弱気なパパだね~、リリン?」

 リリスは呆れたような笑みで、手を繋いでいたリリンへと視線を落とす。

「だいじょうぶだよ、ママ! リリンがいっしょだから!」
「あら! リリンは強いわね~。頼りになるわ」

 お互い笑い合う妻と娘。昨日から何度問うても、この調子である。
 そもそもサブロウからすれば、闇に生きてきた父親が未だ存命していること自体、眉唾物。もう今生、会うことはないとさえ思ってたくらいだ。

 漸く受け入れ始めていた現実に、再び差し込まれる不信感……。
 しかし、そんな疑念もワームホールを抜けたところで、徐々に真実味を帯びていくこととなる――



「「「「「お帰りなさいませ、リリス様!」」」」」

 ワームホールを抜けるなり、真っ直ぐ伸びた一本道には、ずらりと並ぶ天使たちがお出迎えなさる。皆、一様に頭を下げていらっしゃった。

「な……なんだよ、これ……?」

 予想だにしない超待遇と天高く浮かぶこの場所に、サブロウは思わず足を止めてしまう。

「ようこそ、。ちゃんと来るのは初めてだったわよね?」

 そう。ここは天界。嘗てリリスが居た窓際の方ではなく、れっきとした本家の天界――って、私が治めるぅ⁉

「なんで君が天界を……? 堕天したはずだよね?」
「……忘れちゃったの? 私の口からは言い辛いんだけど……」

 サブロウは止めていた歩を進めつつ、リリスからの途切れ途切れな説明に耳を傾けた。

 要約するにサブロウとリリスが結婚し、子を儲けたことでブリッツが弱体化、結果的にそれで討ち取られることになるので、その功績が認められて天界の長になった、とのことらしい。まさに下克上。こちらのリリスはジャイアントキリングを成し遂げていたようだ。

「でも、君……羽が堕天したままだけど? それはいいの?」
「あぁ……長になる頃にはもう、この子がいたからね。一緒の方がいいと思って」

 そう言ってリリスはリリンと微笑み合う。

「そっか……」

 サブロウはそう一言だけ返し、以降口を閉じる。
 内心まだ信じ難いといったところだが、一応筋は通るし、何よりこの状況が全てを物語っている。これ以上問うても無駄と判断したのだろう。

 サブロウたちが中央まで足を運ぶと、金色に輝く髪の天使が出迎える。

「お帰りなさいませ、リリス様……。案内役は、このガブリエルが務めます」

 淡々と述べる目の据わったクールガールは、手の平で指し示しつつ先導する。
 周囲には無数の階段が枝分かれしており、その先にワームホールが設置してあるという構造らしい。

 ガブリエルに追随するリリスとリリン。サブロウは少し後方から、その後に続く。

 サブロウ、彼女は他の天使と少し違うようだな?

「ああ。彼女だけどこか敬う気持ちが感じられない……って、そういう意味じゃないよね?」

 お前も気付いたか。あのガブリエルとかいう天使……只者じゃない。

「うん。上手く言い表せられないけど、何かこう……妙な気を感じる」

 そんな我々の気など露知らず、数あるワームホール、その一つへと到着する。

「こちらより先がサブロウ様の世界となります……」

 虚ろなガブリエルに案内されたリリスは振り返ると、

「じゃあ、あなた。行きましょ?」
「あ、ああ……」

 そうサブロウに述べたのち、リリンを連れて先にワームホールへと入っていった。

 サブロウも続くようにワームホール内へと足を踏み入れていくが、

「………………」

 ふと異様な視線を感じ、振り返る。

「……何か?」

 そう述べたのは真っ直ぐサブロウを見据えている……あのガブリエルであった。
 深淵よりも深いあおぐろい瞳に、サブロウだけでなく私にも妙な悪寒が走る。

「どこかでお会いしたことありましたっけ……貴女と?」

 そうサブロウが問うと、

「……いえ、全然」

 彼女は真顔で一拍置き、そう答えた。

「そうですか……。すみません、気のせいだったみたいです。忘れてください」

 サブロウは違和感を感じつつも軽く会釈したのち、足早にリリスの後を追いかける。

「………………」

 ……彼女の視線を、その背に受けながら。
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