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第三章
第107話 自分がヤっちまったかどうか分からないときは、原点に立ち返れ①
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翌日早朝――
「パパー、あさだよー。おきてー」
扉の開く音と共に届くは、最愛の娘たるリリンの声。
いつもの早朝襲撃とは違って、可愛らしい声が寝室に響き渡る。
「おきて、おきてー。ごはん、さめちゃうですよー」
嘗てこんなにも幸せな襲撃があっただろうか。
流石のサブロウもポンポン布団を叩く愛娘に、いつもならぶつくさ言う身体を素直に起こしていた。
「あぁ……もう朝か……」
昨日帰ってきて早々、死んだように眠りについたサブロウ。
眠気眼をこすり、疲れの取れない身体に辟易している様子。
「あはは! パパ、すごいねぐせー!」
リリンは笑顔でサブロウのボンバヘッ! を指差す。
「これは寝癖じゃなくて元からこうなんだよ……。よかったなぁ~、遺伝しなくて」
「いでん……? いでんってなーに?」
「パパみたいな、ボサボサな髪になっちゃうってこと」
そう言いながらサブロウが頭を撫でると、
「あはは! やだー! ママー、いでーん!」
リリンは楽し気にピョンピョン跳ね、そのまま一階にいるリリスの下まで走っていった。
「フッ……朝から元気だな……」
………………。
「………………」
………………。
「――って、なに普通に家族やっちゃってんだ僕はぁああああああああ⁉」
ノリツッコミだぁあああああああ⁉
◆
さあ、場面は変わって一階に降りてきたサブロウ選手。顔を洗った今、現実を目の当たりにしつつ、朝食に舌鼓を打っている状況だ。
「………………」
テーブルに並べられているのは、昨朝食べることの叶わなかった、ブレッドとベーコンサラダ他数点。どうやらサブロウの為にと同じメニューにしたことが窺る。
「そうだ、あなた。もうダブスタキャロットが実る時期でしょ? そろそろ収穫した方がいいんじゃない?」
「え? あ、ああ……」
自ら収穫を促すリリスに、サブロウは狐につままれたような感覚に陥ってしまう。無理もない……最近、畑仕事を手伝ってくれるようになったとはいえ、ここまで積極的な姿勢を見せることはなかったからだ。
「リリンも、おてつだいするー!」
するとリリンが、元気よくフォークを握り締めた手を挙げる。
「あら、リリン。さっきはママのお手伝いするって言ってなかったっけ?」
そう言いつつも何処か嬉し気なリリス。
「んーん! パパのおてつだいするー!」
「ふふ……リリンは本当にパパが好きなのね?」
「うん! だいすきー!」
笑みを交わし合う妻と娘……世界改変前では到底手に入ることの叶わなかった幸せってやつを前に、サブロウは――
「フッ…………」
……穏やかな笑みを零していた。
「ふふ……あなた、どうしたの?」
「パパ、わらってるー!」
妻と娘に指摘されたサブロウは、漸く自分の頬が緩んでいることに気付く。
「あ、いや……こんなに幸せでいいのかなって……」
家族……その言葉はサブロウにとって、遥か遠い記憶で失われた、ある種『夢』のようなものだった。
齢七歳で放り出されてから今まで、師や兄弟子はおれど、ずっと一人。魔王軍に仕えたこともあったし、【常世の居城】でチームを組んで世界を回ったこともあった。
しかし、どこか心にはいつも、ぽっかり穴が開いていた。
同志では埋められない程の、溝というやつがあったのだ。
だからサブロウは、また一人になった。
別に仲間と居るのが嫌だったわけじゃない。一緒に居ればいる程、その溝が浮き彫りになっていくのが、耐えられなかっただけだった。
ところが、一人になって暫くしたのち、リリスがこちらの世界に来た。
幸か不幸か、そこからサブロウの人生は大きく動くこととなる。
嘗ては自分を買い、別世界へと飛ばしたリリスを憎んだこともあった。
親と天使への復讐心を原動力とし、兄弟子からの厳しい修行に耐えたことも。
だが、それは昔の話。リリスと再会したころにはもう、サブロウもいい大人になっていた。今さらどうこうしようなんて気も起きないないほどの、おっさんにな。
それに、あの性格だ。リリスは事あるごとにサブロウを連れ回し、『止めていた人生』を否応無しに動かしていった。いつもなら、自分が巻き込む側のはずなのに……。
そうなるとモヤモヤしてる自分の方がバカらしくなってくるってなもの。寧ろこの状況を楽しんだ方が、後の人生、少しくらい豊かになるとサブロウは踏み、彼女を……リリスを受け入れたのだ。
そして、今や『友人』として受け入れたリリスは妻となり、娘までいるというこの状況。さすれば、自ずと胸の内に秘めていた『家族』という『夢』が溢れ出し――
「いいのよ。だって私たちは……家族なんだから」
「うん! ずっと一緒だよ!」
……手にしたくなってしまうもの。
「パパー、あさだよー。おきてー」
扉の開く音と共に届くは、最愛の娘たるリリンの声。
いつもの早朝襲撃とは違って、可愛らしい声が寝室に響き渡る。
「おきて、おきてー。ごはん、さめちゃうですよー」
嘗てこんなにも幸せな襲撃があっただろうか。
流石のサブロウもポンポン布団を叩く愛娘に、いつもならぶつくさ言う身体を素直に起こしていた。
「あぁ……もう朝か……」
昨日帰ってきて早々、死んだように眠りについたサブロウ。
眠気眼をこすり、疲れの取れない身体に辟易している様子。
「あはは! パパ、すごいねぐせー!」
リリンは笑顔でサブロウのボンバヘッ! を指差す。
「これは寝癖じゃなくて元からこうなんだよ……。よかったなぁ~、遺伝しなくて」
「いでん……? いでんってなーに?」
「パパみたいな、ボサボサな髪になっちゃうってこと」
そう言いながらサブロウが頭を撫でると、
「あはは! やだー! ママー、いでーん!」
リリンは楽し気にピョンピョン跳ね、そのまま一階にいるリリスの下まで走っていった。
「フッ……朝から元気だな……」
………………。
「………………」
………………。
「――って、なに普通に家族やっちゃってんだ僕はぁああああああああ⁉」
ノリツッコミだぁあああああああ⁉
◆
さあ、場面は変わって一階に降りてきたサブロウ選手。顔を洗った今、現実を目の当たりにしつつ、朝食に舌鼓を打っている状況だ。
「………………」
テーブルに並べられているのは、昨朝食べることの叶わなかった、ブレッドとベーコンサラダ他数点。どうやらサブロウの為にと同じメニューにしたことが窺る。
「そうだ、あなた。もうダブスタキャロットが実る時期でしょ? そろそろ収穫した方がいいんじゃない?」
「え? あ、ああ……」
自ら収穫を促すリリスに、サブロウは狐につままれたような感覚に陥ってしまう。無理もない……最近、畑仕事を手伝ってくれるようになったとはいえ、ここまで積極的な姿勢を見せることはなかったからだ。
「リリンも、おてつだいするー!」
するとリリンが、元気よくフォークを握り締めた手を挙げる。
「あら、リリン。さっきはママのお手伝いするって言ってなかったっけ?」
そう言いつつも何処か嬉し気なリリス。
「んーん! パパのおてつだいするー!」
「ふふ……リリンは本当にパパが好きなのね?」
「うん! だいすきー!」
笑みを交わし合う妻と娘……世界改変前では到底手に入ることの叶わなかった幸せってやつを前に、サブロウは――
「フッ…………」
……穏やかな笑みを零していた。
「ふふ……あなた、どうしたの?」
「パパ、わらってるー!」
妻と娘に指摘されたサブロウは、漸く自分の頬が緩んでいることに気付く。
「あ、いや……こんなに幸せでいいのかなって……」
家族……その言葉はサブロウにとって、遥か遠い記憶で失われた、ある種『夢』のようなものだった。
齢七歳で放り出されてから今まで、師や兄弟子はおれど、ずっと一人。魔王軍に仕えたこともあったし、【常世の居城】でチームを組んで世界を回ったこともあった。
しかし、どこか心にはいつも、ぽっかり穴が開いていた。
同志では埋められない程の、溝というやつがあったのだ。
だからサブロウは、また一人になった。
別に仲間と居るのが嫌だったわけじゃない。一緒に居ればいる程、その溝が浮き彫りになっていくのが、耐えられなかっただけだった。
ところが、一人になって暫くしたのち、リリスがこちらの世界に来た。
幸か不幸か、そこからサブロウの人生は大きく動くこととなる。
嘗ては自分を買い、別世界へと飛ばしたリリスを憎んだこともあった。
親と天使への復讐心を原動力とし、兄弟子からの厳しい修行に耐えたことも。
だが、それは昔の話。リリスと再会したころにはもう、サブロウもいい大人になっていた。今さらどうこうしようなんて気も起きないないほどの、おっさんにな。
それに、あの性格だ。リリスは事あるごとにサブロウを連れ回し、『止めていた人生』を否応無しに動かしていった。いつもなら、自分が巻き込む側のはずなのに……。
そうなるとモヤモヤしてる自分の方がバカらしくなってくるってなもの。寧ろこの状況を楽しんだ方が、後の人生、少しくらい豊かになるとサブロウは踏み、彼女を……リリスを受け入れたのだ。
そして、今や『友人』として受け入れたリリスは妻となり、娘までいるというこの状況。さすれば、自ずと胸の内に秘めていた『家族』という『夢』が溢れ出し――
「いいのよ。だって私たちは……家族なんだから」
「うん! ずっと一緒だよ!」
……手にしたくなってしまうもの。
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