WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

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第三章

第105話 ヤっちまったもんはしょうがない。問題はその後どうするかだ②

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 魔天籠内部――

 一号くんと別れ……というよりかは半ば強引に引き離されたサブロウは、その足を魔天籠へと運んでいた。
 仮にブリッツが死んだとすれば、代行者権限が移行している可能性がある。それを確かめる為にと……

「………………」

 メインターミナルを操作していたサブロウは、暫ししたのち、その手を止める。

 どうだった、サブロウ?

「……移行してた。あの葵咲あおらって子に」

 ということは、ブリッツはもう……?

「ああ……死んでる」

 そんな……代行者権限だけ移行させてる可能性は?

「そんなことしたらカオスコードが使えなくなる。元に戻せないような状況を、あの兄貴が自ら作り出すとは思えない」

 じゃあ、幻惑魔術の方はどうだ? 魔天籠のシステムを使えば、使用状況くらい分かるだろ?

「それも調べたけど執行されてる形跡はない。そもそも一号くんの話を信じるなら、この世界は五年ほど先に進んでるってことになる。娘のリリンが大体その位の歳だから、恐らくその設定は間違ってないんだろう。だが可笑しなことに僕を含め、他の者たちは五年前から全く容姿が変わってない。五年だよ、五年? 僕はまだしも、明芽くんたちには何かしらの変化があって然るべきだ。それに普通、幻惑魔術であれば、その時代時代に姿を合わせるのがセオリー。なんせ己の姿を取り戻すことこそ、幻惑魔術の最大の弱点なんだからね」

 となると、やはり世界改変の説が濃厚ってことに……

「だが、こんな世界を作る理由が兄貴には無い。そうなると他に黒幕がいるということになってしまう」

 葵咲はどうだ? 今や最高権限は、あの子にある。

「彼女が兄貴を殺した後、世界改変したと? ハッ……ありえないな。例え弱体化しても喧嘩に負けるような人じゃない。死んだこと自体を疑うべきだ」

 そう言うとサブロウは透明な階段を上り、出口へと足を向ける。

 どこへ行く?

「師匠のところだ。あの人なら何か知ってるかも」



 【常世の居城ブラック・パレス】――

 門番に通されたサブロウが入城を果たすと……ある違和感が視界を満たす。

「あれ……誰もいない……」

 普段なら傭兵が屯しているはずのエントランスには、誰一人として常駐していない閑散とした光景が広がっていた。

「一体どうなって……」
「お、サブではないか。どうした急に?」

 そう語りかけてきたのは、探し人であるソフィア。一階まで降りてきてるなんて珍しい……

「師匠、みんなは何処に行ったんです? 蛻の殻なんて珍しいですね……」
「何を今更……残存しとる裏社会の掃討に決まっとるじゃろう? あの馬鹿弟子が死んでからは引っ切り無しじゃ。妾もこれから出張らねばならん……」

 ソフィアは随分とお疲れな様子。こいつまでこの有り様となると、期待は空振りに終わったといったところか。

「来て早々、随分な言われようじゃのう。言いたいことがあるならハッキリ言わんか、『N』?」

 射貫くような視線がソフィアから届いたので、私はこの現状を包み隠さず解説してやった。一応、それが私の仕事だからな。



「……なるほどな。この世界はサブが居た世界と、随分様変わりしとるみたいじゃのう。信じられんような話じゃが、決して無いとは言い切れない」

 ソフィアは大して驚くこともなく、我々の現状をすんなり受け入れた。そこは流石、ブリッツとサブロウの育ての親なだけはある。

「それで今回の件、どう思います? 兄貴じゃないとすると誰が黒幕なんだか……」

 そのサブロウの問いは尤もなもので、この私でさえ同じ意見であった。
 しかしソフィアの考えは違ったようで、何故か我々に冷めた視線を向けていた。

「……気付かんのか?」
「え……? 何にです?」

 サブロウの返答にソフィアは一拍置くように溜息をつく。

「『他にこの状況を作り出せる者がいるじゃろう』、と言っておるのじゃ」
「それって……」

 我々はこの時、知る由もなかった。いや、考えが及ばなかったと言った方が正しいか。あまりに身近すぎて、且つ……信じたくなくて。


「そう……。この世界を変えた、黒幕は――」
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