WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

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第三章

第104話 ヤっちまったもんはしょうがない。問題はその後どうするかだ①

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 裏代興業初代総帥 兼 猛撃流開祖之墓――

「………………」

 そう墓石に彫られた文字を一人、呆然と見つめているサブロウ。
 辺りには一面の花が咲き誇っており、それらが風に揺られては墓石の周りを花弁が舞う。

 信じ難い現実が遂に事実となって身体に圧し掛かり、もう落ちる肩もないほどの見事な落ちっぷり……。大丈夫か、サブロウ?

「あ、あぁ……まあ、別に墓なんて幾らでも建てられるし、必ずしも死んだという証拠にはならない。まだ決めつけるには時期尚早……君に聞くまではね?」

 そうサブロウが語りかけた視線の先には、ブリッツの執事を務めていた一号くんの姿が。
 実はこの場所、一号くんの住まいが建つ巨花の上であり、ブリッツの墓もその手前に建てられていたのだ。

「久しぶりだね、サブロウおじさん……」

 見るからに元気のなさそうな一号くん。もうこの時点で2ストライクな気がする。

「一号くん。これは一体、どういう冗談なんだ? 何で兄貴が、こんな……」
「サブロウおじさんこそ、どうしたの? お墓参りなんて……」

 ……サブロウ、気付いたか? さっきから何かおかしい。

「ああ。一号くん……その『今更』ってのは、どういう意味? さっき葵咲あおらって子も、そんなこと口走ってた。まるで『昔話』でもしてるかのように」

 一号くんは先程の葵咲たちと同様、ズレを感じたのか小首を傾げる。

「本当にどうしちゃったの? ボスが死んだのはもう……?」

 三年前……だと……?

「……ごめん。どういうことか分からない。説明してくれ……」

 サブロウが一瞬目を閉じつつかぶりを振ってみせると、一号くんは呆れの交じった溜息で応戦する。

「覚えてないなんてボスが浮かばれないよ……。だって、こうなったのは全部――サブロウおじさんの所為なんだから」
「僕の所為……?」
「いや、違うな……。嫌な言い方しちゃったね、ごめん……。ボスを守り切れなかったのはボクの所為なのに……」

 サブロウは自嘲する一号くんにかける言葉が見つからず、ただ再びの開口を待つことしかできなかった。

「……事の発端は五年ちょっと前、サブロウおじさんがリリスさんと結婚したことにある。そこからボスは変わっちゃったんだ。ほら? 結婚すると家族優先になるでしょ? 時間が経って子供も生まれて……守る存在ができたサブロウおじさんは、裏社会との繋がりを完全に断つため、ボスとはもう二度と会わないと決めた。きっとボスは、それが寂しかったんだと思う。だって自分を倒せる男は、サブロウおじさんしか居ないんだから。結果、ボスは見る見るうちに弱体化。仕舞いには聞きつけた他の組織に命を狙われるようになった。なんとかボクが守ってたんだけど、最後はあの魔王に……」

 そこまで言って一号くんは、悔し気に拳を握り締める。
 その様子から見ても、とても演技しているようには見えない。本気の想いがひしひしと伝わってくる。

「【昇華サブリメーション】が無かったのは、そういうことだったのか……」
「ごめん、サブロウおじさん。一号の名を冠しているのにボクは……ボスを守り切ることができなかったッ……!」

 瞳に涙を滲ませ、一心に見つめる一号くん。
 しかし、その温度差は誰よりもサブロウが実感していた。ここで飲まれてはならん。偽りの現実に立ち向かわなくては……

「一号くん。色々説明してもらった手前、否定するのは申し訳ないんだけど、僕……今の話、全然身に覚えがないんだ」
「……どういうこと?」
「僕は結婚した覚えもないし、子を儲けた覚えもない。兄貴のことも魔王城のことだってね。幻惑魔術にしては妙に現実感があり過ぎる。となると、もうカオスコードで世界改変くらいしかありえないんだ」

 一号くんは涙を拭い、訝し気にサブロウを見据える。

「……それをボスがやったと?」
「ああ。兄貴は何か妙なことしてなかった? 近くにいた一号くんなら、何か知ってるんじゃない?」

 そのサブロウの問いに一号くんは暫し沈黙……そののち、何も答えぬまま踵を返す。

「一号くん……!」

 サブロウの呼びかけに一号くんはピタリと止まり、振り返ることなく、こう返す。

「ボスがそんなことして、なんのメリットがあるの? 普通やるなら逆のことするんじゃない?」
「それは……」

 確かに……もし奴がカオスコードを使ったのなら、もっと追い込んで戦う気にさせると考えた方が自然だ。ましてや自分を死なせるなど以ての外だろう。

「ボスならこんな世界、作ったりなんかしない。もし仮に作ったとすれば……」
「作ったとすれば……?」

 そこで一号くんは一旦口を噤むと、

「いや、やめておこう。これ以上、疑いたくはないからね……」

 意味深な台詞だけを残し、己が住まいへと帰っていった。
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