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第三章
第99話 巷で話題のアレと、伝説のアレ④
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帰り道……木々に挟まれた夜道を一人歩くサブロウ。
既にスーツ姿へと戻っており、仕事終わりのサラリーマンが如く、ネクタイを緩めていた。
良かったのか、サブロウ? 『鴉羽の暗殺者』の名を継がせてしまって。
「いいんじゃない? 彼女には『英雄』としての信念がある。その為の努力もしてきた。色んな界隈にも精通してそうだし、きっと彼女なら『鴉羽の暗殺者』の名を有効活用してくれるよ」
ふ~ん……とか言って、本当はバレるのが嫌だったんだろ? そのスーツのこと。
「……なんのことかな?」
あからさまに目を逸らすサブロウ。
とぼけるな。ま、そりゃ知られたくないか。『鴉羽の暗殺者』のスーツが、何の効力もない、趣味全快の自作スーツだってことを。
「……十年以上前の趣味な? そこ重要」
お前にとっちゃ、黒歴史みたいなもの。おいそれと他人に渡すわけにはいかないもんな?
「不思議なもんだよねぇ……。昔はカッコいいと思って作ったのに、今見ると中二病全開過ぎて枕に顔を埋めたくなる。つまらん大人になっちまったよ……」
そう言うな。これでも私は褒めてるんだ。アクセスコードにスーツが紐づけられてるなんて、即興にしては中々いいハッタリじゃないか?
「いや、あれはハッタリじゃなくて……本当に紐づいてる」
え……? そうだったの?
「チェンジコードの時に姿が変わったら、そのぅ……カッコいいかと思って……」
……意外とノリノリだったんだな。若かりし頃のお前。
「お恥ずかしい限りだ……」
まあ、変身するのは男の夢みたいなもんだ。それに夢を壊さないのも『英雄』としての立派な務め。お前はよくやったよ。
「どう考えても向こうのスーツの方が強いからね。これ渡してガッカリされるのだけは避けようと必死だったよ。今日はぐっすり寝られそうだ」
フッ……あの子は、どんな『鴉羽の暗殺者』になるかな?
「三代目は誰も殺さない。彼女自身が流した情報だ。嘘はないよ」
それじゃあ結局、お前と同じか。誰も殺してないんだろ……お前も?
「さあね。全部、兄貴のとこに送ってたから、その後どうなったかまでは知らない。そういった意味で『闇に葬る』さ」
そっか……。ま、あの子なら大丈夫だろう。
「ああ。なんたって、あの子はもう――『英雄』だからね」
◆
翌日早朝――
「サブロウくーん! 朝よー! 起きてー!」
もはや伝統芸能と化したリリスからの早朝襲撃。カーテンを開いては日の光を用い、サブロウの安眠を妨害する。
「うぅ~ぅ……また君かぁ……今度は何ぃ……?」
その眩しさにサブロウは顔を歪ませ、目を開けられぬまま頭上に位置取るリリスを見上げる。
「何じゃないわよ。私が来る理由なんて一つしかないでしょ? で? どうだった? 愛は育めた?」
リリスは期待に胸を躍らせながら、にんまり顔をサブロウへと近づける。
「育まないよ……。全部、狂言だったんだ……アレ」
「狂言って……どういうことよ、サブロウくん⁉ 説明して!」
リリスは一転、眉を吊り上げ、サブロウの頬を両手で挟む。
「……だかりゃ全部、嘘なにょ。あにょ子は用心棒が欲しかったでゃけ。収穫にゃし」
というのが、今回の筋書き。サブロウとアリスが『鴉羽の暗殺者』であること。そして彼女が『近所のヤスモトさん』であることは伏せる。この二つがアリスと別れる前に交わした契約だ。闇は闇のまま。知る者は一人でも少ない方がいい。
「そんな……じゃあ、お見合い自体なかったってこと……? 用心棒の方は⁉」
リリスは手をわなわな震わせながら、部屋中をウロチョロ。
「もちろんお断りしたよ。僕には畑仕事があるからね」
「何で断るのよ⁉ 畑仕事なら私がやるわよ!」
「君も変わったね~。その調子で頑張ってくれ。ふぁ~ぁ……じゃ、僕はもう一眠り……」
欠伸と共に布団を被ろうとするサブロウ。
しかし、それをリリスが――
「おめえが――頑張んだよぉおおお‼」
――許さない。
リリスはサブロウ眠るベッドへとダイブし、くんずほぐれつ身体を密着させる。
「――いっでぇ⁉ ちょっ……いきなりなんだよ⁉ はしたないッ!」
「うるさぁーい! これがラブコメ主人公のあるべき姿だって教えてあげてんのよ! ほれ、ここか? ここがええんやろ?」
身体だけは一丁前なリリスは、まるで蛇の如くその肉体を巻き付け、這うような手捌きでサブロウを撫でまわし始める。
「きゃーっ! 変態だーっ! 今までそういう感じ出してこなかったのに、急に身体が触れたことで意識しだす展開のヤツだー!」
「ヒッヒッヒ! お前はもう……ワシの物なんじゃぁ‼」
そんな悪代官リリスに襲われたおじさんをバックに、今回の『鴉羽の暗殺者編』は幕を閉じる。ま、どうせこの二人は、そんな展開にはならんだろうがね。
というわけで、今回もサブロウは見事主人公に……いや、結局継がせちゃったから、やっぱりお役御免かな。
既にスーツ姿へと戻っており、仕事終わりのサラリーマンが如く、ネクタイを緩めていた。
良かったのか、サブロウ? 『鴉羽の暗殺者』の名を継がせてしまって。
「いいんじゃない? 彼女には『英雄』としての信念がある。その為の努力もしてきた。色んな界隈にも精通してそうだし、きっと彼女なら『鴉羽の暗殺者』の名を有効活用してくれるよ」
ふ~ん……とか言って、本当はバレるのが嫌だったんだろ? そのスーツのこと。
「……なんのことかな?」
あからさまに目を逸らすサブロウ。
とぼけるな。ま、そりゃ知られたくないか。『鴉羽の暗殺者』のスーツが、何の効力もない、趣味全快の自作スーツだってことを。
「……十年以上前の趣味な? そこ重要」
お前にとっちゃ、黒歴史みたいなもの。おいそれと他人に渡すわけにはいかないもんな?
「不思議なもんだよねぇ……。昔はカッコいいと思って作ったのに、今見ると中二病全開過ぎて枕に顔を埋めたくなる。つまらん大人になっちまったよ……」
そう言うな。これでも私は褒めてるんだ。アクセスコードにスーツが紐づけられてるなんて、即興にしては中々いいハッタリじゃないか?
「いや、あれはハッタリじゃなくて……本当に紐づいてる」
え……? そうだったの?
「チェンジコードの時に姿が変わったら、そのぅ……カッコいいかと思って……」
……意外とノリノリだったんだな。若かりし頃のお前。
「お恥ずかしい限りだ……」
まあ、変身するのは男の夢みたいなもんだ。それに夢を壊さないのも『英雄』としての立派な務め。お前はよくやったよ。
「どう考えても向こうのスーツの方が強いからね。これ渡してガッカリされるのだけは避けようと必死だったよ。今日はぐっすり寝られそうだ」
フッ……あの子は、どんな『鴉羽の暗殺者』になるかな?
「三代目は誰も殺さない。彼女自身が流した情報だ。嘘はないよ」
それじゃあ結局、お前と同じか。誰も殺してないんだろ……お前も?
「さあね。全部、兄貴のとこに送ってたから、その後どうなったかまでは知らない。そういった意味で『闇に葬る』さ」
そっか……。ま、あの子なら大丈夫だろう。
「ああ。なんたって、あの子はもう――『英雄』だからね」
◆
翌日早朝――
「サブロウくーん! 朝よー! 起きてー!」
もはや伝統芸能と化したリリスからの早朝襲撃。カーテンを開いては日の光を用い、サブロウの安眠を妨害する。
「うぅ~ぅ……また君かぁ……今度は何ぃ……?」
その眩しさにサブロウは顔を歪ませ、目を開けられぬまま頭上に位置取るリリスを見上げる。
「何じゃないわよ。私が来る理由なんて一つしかないでしょ? で? どうだった? 愛は育めた?」
リリスは期待に胸を躍らせながら、にんまり顔をサブロウへと近づける。
「育まないよ……。全部、狂言だったんだ……アレ」
「狂言って……どういうことよ、サブロウくん⁉ 説明して!」
リリスは一転、眉を吊り上げ、サブロウの頬を両手で挟む。
「……だかりゃ全部、嘘なにょ。あにょ子は用心棒が欲しかったでゃけ。収穫にゃし」
というのが、今回の筋書き。サブロウとアリスが『鴉羽の暗殺者』であること。そして彼女が『近所のヤスモトさん』であることは伏せる。この二つがアリスと別れる前に交わした契約だ。闇は闇のまま。知る者は一人でも少ない方がいい。
「そんな……じゃあ、お見合い自体なかったってこと……? 用心棒の方は⁉」
リリスは手をわなわな震わせながら、部屋中をウロチョロ。
「もちろんお断りしたよ。僕には畑仕事があるからね」
「何で断るのよ⁉ 畑仕事なら私がやるわよ!」
「君も変わったね~。その調子で頑張ってくれ。ふぁ~ぁ……じゃ、僕はもう一眠り……」
欠伸と共に布団を被ろうとするサブロウ。
しかし、それをリリスが――
「おめえが――頑張んだよぉおおお‼」
――許さない。
リリスはサブロウ眠るベッドへとダイブし、くんずほぐれつ身体を密着させる。
「――いっでぇ⁉ ちょっ……いきなりなんだよ⁉ はしたないッ!」
「うるさぁーい! これがラブコメ主人公のあるべき姿だって教えてあげてんのよ! ほれ、ここか? ここがええんやろ?」
身体だけは一丁前なリリスは、まるで蛇の如くその肉体を巻き付け、這うような手捌きでサブロウを撫でまわし始める。
「きゃーっ! 変態だーっ! 今までそういう感じ出してこなかったのに、急に身体が触れたことで意識しだす展開のヤツだー!」
「ヒッヒッヒ! お前はもう……ワシの物なんじゃぁ‼」
そんな悪代官リリスに襲われたおじさんをバックに、今回の『鴉羽の暗殺者編』は幕を閉じる。ま、どうせこの二人は、そんな展開にはならんだろうがね。
というわけで、今回もサブロウは見事主人公に……いや、結局継がせちゃったから、やっぱりお役御免かな。
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