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第三章
第94話 巷の暗殺者と絡んだら、なんか彼氏のふりをすることになった②
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「何故ですか、お父様!」
お父様の至極真っ当なご意見に、アリスは勢い良く立ち上がり、猛反発を見せる。
「いや、何故って……普通に考えて、相手殺し屋だよ? 父として止めるのは当然の義務じゃない?」
お父様は特に驚いた様子もなく、淡々と返す。
「殺し屋ではありません! 暗殺者です!」
「同じでしょ?」
「同じじゃありません! 殺し屋は金銭目的ですけど、暗殺者は社会体制を変革する方たちのことです! 全然違います!」
アリスは身振り手振りで説明してるが、残念ながら本質はそこじゃない。
「人殺してるのは同じでしょって言ってんの。そんな人に娘はやれないよ」
「どうしてですか⁉ 私は『鴉羽の暗殺者』様を助けた命の恩人ですよ⁉ それを無下にするのですか⁉」
逆ね、逆。
「もちろん助けていただいたのは感謝している。でも、この人……『鴉羽の暗殺者』じゃないよね?」
お父様はサブロウへ手の平を指し示す。
「なっ……何を仰っているのですか、お父様っ⁉ そ、そんな訳が、あああある訳ががが……」
「『鴉羽の暗殺者』は十年前の伝説だ。それが三代目のふりして名を広めた程度で、そう簡単に現れるわけないだろう? 少しは考えなさい」
そりゃ、御尤もなご意見で。なあ、サブロウ?
「………………」
サブロウの覇気のない目が、いつになく死んでおる。
「たたたた、確かにそうかもしれませんが……こここ、この方はその……」
これはアリスも……ダメかな。
「アリス……お前は嘘をつく時、吃る癖がある。慣れないことはしないことだ」
「ゔっ……」
お父様の助言により、遂にアリスも沈黙。
「そちらの方もすみませんでしたね。娘の嘘に付き合わせてしまって」
「いや、自分は……」
サブロウも頼まれた以上、何とか取り繕うとするが――
「もう、お帰りいただいて結構です。これから見合い相手と会食があるのでね」
ピシャリとシャットアウト。取り付く島もない。
こうして『彼氏のふりして騎士様編』は始まるまでもなく、敢え無く終了した。
◆
ってなわけで、城から追い出されてしまった元彼のサブロウ。
気付けばもう夕暮れ時……真白に輝いていた城も今や茜色に染まり、醸し出す物悲し気な雰囲気は、まるでサブロウの心情を映し出しているかのようだった。
「いや……勝手にフラれた感じにしないでくれる? 一応、やることはやったんだからさ」
やることはやったって……まさか、これで終わるつもりか?
「終わるつもりだよ。彼女の頼みは『『鴉羽の暗殺者』のふりをして父親と会う』だからね。僕は、ちゃーんとそれを請け負った。その先、認めるかどうかは親次第だし、例えそれで失敗したとしても、僕がどうこうしていい問題じゃないよ」
だったら、最後までやり遂げるべきじゃないのか? この船の船長は、お前だろ?
「大時化と分かってるのに、船に乗せる船長が何処に居るってのさ? これでいいんだよ、これで」
いやいや、そういうのを乗り越えてこそのラブコメだろうが。サブロウ……そこに愛はあるんか?
「だから、ないっつーの! 狂言なんだよ、全部! 愛もなければラブコメでもない!」
だが、もしアリスの見合い相手が酷く下卑た奴だったらどうする? ワイドレッド家の領地が目的とか、はたまた財産とか。もしかしたら、アリスの身体目当てかもしれん。
「まさか……。あの子と違って、お父様の方は中々に出来たお人だ。そんな相手を選ぶとは到底思えない。それに今時、そんな分かり易い悪代官みたいなのが来るわけ――」
「ご主人様。こちらが見合い相手のワイドレッド家に御座います」
「ほほう? 中々に良い城じゃ。このワシがブン取るに相応しい。ついでに財産も根こそぎ奪い取って、あとは若い娘を……フヒヒ! たまらんのう!」
(わ、分かり易いの来ちゃった――――⁉)
しかし、そんなサブロウの一言が、ラブコメのフラグをビシバシ刺激……。絵に描いたような変態ジジイと執事がご登場なさった。
お父様の至極真っ当なご意見に、アリスは勢い良く立ち上がり、猛反発を見せる。
「いや、何故って……普通に考えて、相手殺し屋だよ? 父として止めるのは当然の義務じゃない?」
お父様は特に驚いた様子もなく、淡々と返す。
「殺し屋ではありません! 暗殺者です!」
「同じでしょ?」
「同じじゃありません! 殺し屋は金銭目的ですけど、暗殺者は社会体制を変革する方たちのことです! 全然違います!」
アリスは身振り手振りで説明してるが、残念ながら本質はそこじゃない。
「人殺してるのは同じでしょって言ってんの。そんな人に娘はやれないよ」
「どうしてですか⁉ 私は『鴉羽の暗殺者』様を助けた命の恩人ですよ⁉ それを無下にするのですか⁉」
逆ね、逆。
「もちろん助けていただいたのは感謝している。でも、この人……『鴉羽の暗殺者』じゃないよね?」
お父様はサブロウへ手の平を指し示す。
「なっ……何を仰っているのですか、お父様っ⁉ そ、そんな訳が、あああある訳ががが……」
「『鴉羽の暗殺者』は十年前の伝説だ。それが三代目のふりして名を広めた程度で、そう簡単に現れるわけないだろう? 少しは考えなさい」
そりゃ、御尤もなご意見で。なあ、サブロウ?
「………………」
サブロウの覇気のない目が、いつになく死んでおる。
「たたたた、確かにそうかもしれませんが……こここ、この方はその……」
これはアリスも……ダメかな。
「アリス……お前は嘘をつく時、吃る癖がある。慣れないことはしないことだ」
「ゔっ……」
お父様の助言により、遂にアリスも沈黙。
「そちらの方もすみませんでしたね。娘の嘘に付き合わせてしまって」
「いや、自分は……」
サブロウも頼まれた以上、何とか取り繕うとするが――
「もう、お帰りいただいて結構です。これから見合い相手と会食があるのでね」
ピシャリとシャットアウト。取り付く島もない。
こうして『彼氏のふりして騎士様編』は始まるまでもなく、敢え無く終了した。
◆
ってなわけで、城から追い出されてしまった元彼のサブロウ。
気付けばもう夕暮れ時……真白に輝いていた城も今や茜色に染まり、醸し出す物悲し気な雰囲気は、まるでサブロウの心情を映し出しているかのようだった。
「いや……勝手にフラれた感じにしないでくれる? 一応、やることはやったんだからさ」
やることはやったって……まさか、これで終わるつもりか?
「終わるつもりだよ。彼女の頼みは『『鴉羽の暗殺者』のふりをして父親と会う』だからね。僕は、ちゃーんとそれを請け負った。その先、認めるかどうかは親次第だし、例えそれで失敗したとしても、僕がどうこうしていい問題じゃないよ」
だったら、最後までやり遂げるべきじゃないのか? この船の船長は、お前だろ?
「大時化と分かってるのに、船に乗せる船長が何処に居るってのさ? これでいいんだよ、これで」
いやいや、そういうのを乗り越えてこそのラブコメだろうが。サブロウ……そこに愛はあるんか?
「だから、ないっつーの! 狂言なんだよ、全部! 愛もなければラブコメでもない!」
だが、もしアリスの見合い相手が酷く下卑た奴だったらどうする? ワイドレッド家の領地が目的とか、はたまた財産とか。もしかしたら、アリスの身体目当てかもしれん。
「まさか……。あの子と違って、お父様の方は中々に出来たお人だ。そんな相手を選ぶとは到底思えない。それに今時、そんな分かり易い悪代官みたいなのが来るわけ――」
「ご主人様。こちらが見合い相手のワイドレッド家に御座います」
「ほほう? 中々に良い城じゃ。このワシがブン取るに相応しい。ついでに財産も根こそぎ奪い取って、あとは若い娘を……フヒヒ! たまらんのう!」
(わ、分かり易いの来ちゃった――――⁉)
しかし、そんなサブロウの一言が、ラブコメのフラグをビシバシ刺激……。絵に描いたような変態ジジイと執事がご登場なさった。
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