94 / 117
第三章
第93話 巷の暗殺者と絡んだら、なんか彼氏のふりをすることになった①
しおりを挟む
「何故、こうなった……」
黒のスーツでバシッとキメたサブロウは、真白の居城を前にして、そう呟く。
「こ、ここここここが、わ、わわわわわ我が家にななななりますすす、サ、サササブロウタ様ままま……」
対してこちらは絵に描いたようなド緊張を見せるアリス。
格好も黒を基調としたクラシカルなロリータファッションにチェンジし、頭には主張し過ぎないリボンカチューシャも付けている。その出で立ちはまさにお人形さんといったところか。
「サブロウね? 名前間違えちゃったら、全部台無しになっちゃうから……。っていうか、大丈夫?」
「だ、大丈夫です……。す、すみません……私、こう見えて殿方を家に招いたのは初めてでして……」
この子には一体、自分がどう見えているのだろうか……。まあ、自信があるのは結構なことだが。
「で、僕はどうすればいいの? 『鴉羽の暗殺者』のふりをするってことは、詰まる所……彼氏のふりをするってことだよね?」
サブロウのその一言に、アリスのお顔は瞬く間に真っ赤っか。どこぞの主将に仇名す、ヴィランが如き様相だった。
「そ、そんな滅相もございません! サ、サブロウ様なんかが私ともあろう人の彼氏など……」
「普通、逆だよね。あんま言いたかないけど……。そんなんじゃ、すぐバレちゃうよ?」
「そ、そこは心配いりません。お父様は私と違って、おっちょこちょいなところがあるので……」
「私と違って、ねぇ……」
サブロウはそれ以上ツッコまず、我が家へと招くアリスの後に続いていった。
◆
入城を果たすと通されたのは、これまた立派な客室。
高そうな家具やら絵画やらがそこらかしこにあり、いかにも金持ちで御座いますといった内観だ。
そんな一級品に囲まれたサブロウとアリス。二人仲良く座り心地抜群のソファーへと腰かけ、当の人物を待つ。
「ねえ、アリスくん。ほんとに大丈夫なの? 僕、君のこと何も知らないんだけど……」
不安三割、めんどくささ七割で尋ねるサブロウ。
「そ、その点は問題ありません。な、『鴉羽の暗殺者』様は私にとって、言わば高嶺の花……。それは、お父様も承知しております。であれば、私の気持ちが多少一方通行でも違和感はないかと……」
と、返すアリス。要はノープランということである。この子といいリリスといい、ほんとぶっつけ本番がお好きだこと。
ガチャ……
なんて言ってたら、お父様がご登場だ。
「………………」
お父様はサブロウを一瞥すると扉を閉め、どっと疲れたかのような溜息を見せつけながら、二人の対面に腰を下ろした。
「………………」
「………………」
ザ・沈黙……。本来、彼氏であれば『娘さんとお付き合いしてるサブロウと申します!』とでも言うべきなのだろうが……今回の件は、あくまでもアリスの一方通行。おいそれと己から申すわけにもいかず、偉く気まずい空気が流れている。
「あ、えっとー、お父様……。こちらがその……お、お付き合いしていらっしゃる……な、『鴉羽の暗殺者』様です。はい……」
するとアリスが、このムードを断ち切らんと口火を切る。
「『鴉羽の暗殺者』……嘗て法で裁けない悪党共を闇に葬っていた伝説の暗殺者。世話になった者たちは数知れず、その中には当然我々も含まれている。そうだな? アリス」
お父様は膝の上に肘をつき、口元で手を組みながら己が娘に問う。
「は、はい。その通りです、お父様」
「そうか……。本当に『鴉羽の暗殺者』殿なのか?」
「も、もちろんです! その強さは折り紙付き。例えるなら、リーチ、タンヤオ、三暗刻からの裏ドラで四暗刻地獄待ちが如しです!」
何じゃ、その例えは……と思ったが、サブロウの父ちゃんは代打ちだったし、この例えは割かし当たらずも遠からずかもな。
「そうか……」
「はい」
「あの『鴉羽の暗殺者』殿が……」
「はい」
「私の娘を救ってくれた恩人の……」
「はい」
「うむ……」
「はい」
「それが本当なら大変結構なことだ」
「では……!」
「でもな……」
「……でも?」
お父様はその後、数拍置く。
アリスが話した通り、おっちょこちょいな父上であらせられるなら、これで全て丸く収まるはず。だが――
「ぶっちゃけ……暗殺者に娘やらなくね?」
お父様は、ちゃんとした感性をお持ちの人だった。
黒のスーツでバシッとキメたサブロウは、真白の居城を前にして、そう呟く。
「こ、ここここここが、わ、わわわわわ我が家にななななりますすす、サ、サササブロウタ様ままま……」
対してこちらは絵に描いたようなド緊張を見せるアリス。
格好も黒を基調としたクラシカルなロリータファッションにチェンジし、頭には主張し過ぎないリボンカチューシャも付けている。その出で立ちはまさにお人形さんといったところか。
「サブロウね? 名前間違えちゃったら、全部台無しになっちゃうから……。っていうか、大丈夫?」
「だ、大丈夫です……。す、すみません……私、こう見えて殿方を家に招いたのは初めてでして……」
この子には一体、自分がどう見えているのだろうか……。まあ、自信があるのは結構なことだが。
「で、僕はどうすればいいの? 『鴉羽の暗殺者』のふりをするってことは、詰まる所……彼氏のふりをするってことだよね?」
サブロウのその一言に、アリスのお顔は瞬く間に真っ赤っか。どこぞの主将に仇名す、ヴィランが如き様相だった。
「そ、そんな滅相もございません! サ、サブロウ様なんかが私ともあろう人の彼氏など……」
「普通、逆だよね。あんま言いたかないけど……。そんなんじゃ、すぐバレちゃうよ?」
「そ、そこは心配いりません。お父様は私と違って、おっちょこちょいなところがあるので……」
「私と違って、ねぇ……」
サブロウはそれ以上ツッコまず、我が家へと招くアリスの後に続いていった。
◆
入城を果たすと通されたのは、これまた立派な客室。
高そうな家具やら絵画やらがそこらかしこにあり、いかにも金持ちで御座いますといった内観だ。
そんな一級品に囲まれたサブロウとアリス。二人仲良く座り心地抜群のソファーへと腰かけ、当の人物を待つ。
「ねえ、アリスくん。ほんとに大丈夫なの? 僕、君のこと何も知らないんだけど……」
不安三割、めんどくささ七割で尋ねるサブロウ。
「そ、その点は問題ありません。な、『鴉羽の暗殺者』様は私にとって、言わば高嶺の花……。それは、お父様も承知しております。であれば、私の気持ちが多少一方通行でも違和感はないかと……」
と、返すアリス。要はノープランということである。この子といいリリスといい、ほんとぶっつけ本番がお好きだこと。
ガチャ……
なんて言ってたら、お父様がご登場だ。
「………………」
お父様はサブロウを一瞥すると扉を閉め、どっと疲れたかのような溜息を見せつけながら、二人の対面に腰を下ろした。
「………………」
「………………」
ザ・沈黙……。本来、彼氏であれば『娘さんとお付き合いしてるサブロウと申します!』とでも言うべきなのだろうが……今回の件は、あくまでもアリスの一方通行。おいそれと己から申すわけにもいかず、偉く気まずい空気が流れている。
「あ、えっとー、お父様……。こちらがその……お、お付き合いしていらっしゃる……な、『鴉羽の暗殺者』様です。はい……」
するとアリスが、このムードを断ち切らんと口火を切る。
「『鴉羽の暗殺者』……嘗て法で裁けない悪党共を闇に葬っていた伝説の暗殺者。世話になった者たちは数知れず、その中には当然我々も含まれている。そうだな? アリス」
お父様は膝の上に肘をつき、口元で手を組みながら己が娘に問う。
「は、はい。その通りです、お父様」
「そうか……。本当に『鴉羽の暗殺者』殿なのか?」
「も、もちろんです! その強さは折り紙付き。例えるなら、リーチ、タンヤオ、三暗刻からの裏ドラで四暗刻地獄待ちが如しです!」
何じゃ、その例えは……と思ったが、サブロウの父ちゃんは代打ちだったし、この例えは割かし当たらずも遠からずかもな。
「そうか……」
「はい」
「あの『鴉羽の暗殺者』殿が……」
「はい」
「私の娘を救ってくれた恩人の……」
「はい」
「うむ……」
「はい」
「それが本当なら大変結構なことだ」
「では……!」
「でもな……」
「……でも?」
お父様はその後、数拍置く。
アリスが話した通り、おっちょこちょいな父上であらせられるなら、これで全て丸く収まるはず。だが――
「ぶっちゃけ……暗殺者に娘やらなくね?」
お父様は、ちゃんとした感性をお持ちの人だった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

あまたある産声の中で‼~『氏名・使命』を奪われた最凶の男は、過去を追い求めない~
最十 レイ
ファンタジー
「お前の『氏名・使命』を貰う」
力を得た代償に己の名前とすべき事を奪われ、転生を果たした名も無き男。
自分は誰なのか? 自分のすべき事は何だったのか? 苦悩する……なんて事はなく、忘れているのをいいことに持前のポジティブさと破天荒さと卑怯さで、時に楽しく、時に女の子にちょっかいをだしながら、思いのまま生きようとする。
そんな性格だから、ちょっと女の子に騙されたり、ちょっと監獄に送られたり、脱獄しようとしてまた捕まったり、挙句の果てに死刑にされそうになったり⁈
身体は変形と再生を繰り返し、死さえも失った男は、生まれ持った拳でシリアスをぶっ飛ばし、己が信念のもとにキメるところはきっちりキメて突き進む。
そんな『自由』でなければ勝ち取れない、名も無き男の生き様が今始まる!
※この作品はカクヨムでも投稿中です。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる