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第三章
第93話 巷の暗殺者と絡んだら、なんか彼氏のふりをすることになった①
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「何故、こうなった……」
黒のスーツでバシッとキメたサブロウは、真白の居城を前にして、そう呟く。
「こ、ここここここが、わ、わわわわわ我が家にななななりますすす、サ、サササブロウタ様ままま……」
対してこちらは絵に描いたようなド緊張を見せるアリス。
格好も黒を基調としたクラシカルなロリータファッションにチェンジし、頭には主張し過ぎないリボンカチューシャも付けている。その出で立ちはまさにお人形さんといったところか。
「サブロウね? 名前間違えちゃったら、全部台無しになっちゃうから……。っていうか、大丈夫?」
「だ、大丈夫です……。す、すみません……私、こう見えて殿方を家に招いたのは初めてでして……」
この子には一体、自分がどう見えているのだろうか……。まあ、自信があるのは結構なことだが。
「で、僕はどうすればいいの? 『鴉羽の暗殺者』のふりをするってことは、詰まる所……彼氏のふりをするってことだよね?」
サブロウのその一言に、アリスのお顔は瞬く間に真っ赤っか。どこぞの主将に仇名す、ヴィランが如き様相だった。
「そ、そんな滅相もございません! サ、サブロウ様なんかが私ともあろう人の彼氏など……」
「普通、逆だよね。あんま言いたかないけど……。そんなんじゃ、すぐバレちゃうよ?」
「そ、そこは心配いりません。お父様は私と違って、おっちょこちょいなところがあるので……」
「私と違って、ねぇ……」
サブロウはそれ以上ツッコまず、我が家へと招くアリスの後に続いていった。
◆
入城を果たすと通されたのは、これまた立派な客室。
高そうな家具やら絵画やらがそこらかしこにあり、いかにも金持ちで御座いますといった内観だ。
そんな一級品に囲まれたサブロウとアリス。二人仲良く座り心地抜群のソファーへと腰かけ、当の人物を待つ。
「ねえ、アリスくん。ほんとに大丈夫なの? 僕、君のこと何も知らないんだけど……」
不安三割、めんどくささ七割で尋ねるサブロウ。
「そ、その点は問題ありません。な、『鴉羽の暗殺者』様は私にとって、言わば高嶺の花……。それは、お父様も承知しております。であれば、私の気持ちが多少一方通行でも違和感はないかと……」
と、返すアリス。要はノープランということである。この子といいリリスといい、ほんとぶっつけ本番がお好きだこと。
ガチャ……
なんて言ってたら、お父様がご登場だ。
「………………」
お父様はサブロウを一瞥すると扉を閉め、どっと疲れたかのような溜息を見せつけながら、二人の対面に腰を下ろした。
「………………」
「………………」
ザ・沈黙……。本来、彼氏であれば『娘さんとお付き合いしてるサブロウと申します!』とでも言うべきなのだろうが……今回の件は、あくまでもアリスの一方通行。おいそれと己から申すわけにもいかず、偉く気まずい空気が流れている。
「あ、えっとー、お父様……。こちらがその……お、お付き合いしていらっしゃる……な、『鴉羽の暗殺者』様です。はい……」
するとアリスが、このムードを断ち切らんと口火を切る。
「『鴉羽の暗殺者』……嘗て法で裁けない悪党共を闇に葬っていた伝説の暗殺者。世話になった者たちは数知れず、その中には当然我々も含まれている。そうだな? アリス」
お父様は膝の上に肘をつき、口元で手を組みながら己が娘に問う。
「は、はい。その通りです、お父様」
「そうか……。本当に『鴉羽の暗殺者』殿なのか?」
「も、もちろんです! その強さは折り紙付き。例えるなら、リーチ、タンヤオ、三暗刻からの裏ドラで四暗刻地獄待ちが如しです!」
何じゃ、その例えは……と思ったが、サブロウの父ちゃんは代打ちだったし、この例えは割かし当たらずも遠からずかもな。
「そうか……」
「はい」
「あの『鴉羽の暗殺者』殿が……」
「はい」
「私の娘を救ってくれた恩人の……」
「はい」
「うむ……」
「はい」
「それが本当なら大変結構なことだ」
「では……!」
「でもな……」
「……でも?」
お父様はその後、数拍置く。
アリスが話した通り、おっちょこちょいな父上であらせられるなら、これで全て丸く収まるはず。だが――
「ぶっちゃけ……暗殺者に娘やらなくね?」
お父様は、ちゃんとした感性をお持ちの人だった。
黒のスーツでバシッとキメたサブロウは、真白の居城を前にして、そう呟く。
「こ、ここここここが、わ、わわわわわ我が家にななななりますすす、サ、サササブロウタ様ままま……」
対してこちらは絵に描いたようなド緊張を見せるアリス。
格好も黒を基調としたクラシカルなロリータファッションにチェンジし、頭には主張し過ぎないリボンカチューシャも付けている。その出で立ちはまさにお人形さんといったところか。
「サブロウね? 名前間違えちゃったら、全部台無しになっちゃうから……。っていうか、大丈夫?」
「だ、大丈夫です……。す、すみません……私、こう見えて殿方を家に招いたのは初めてでして……」
この子には一体、自分がどう見えているのだろうか……。まあ、自信があるのは結構なことだが。
「で、僕はどうすればいいの? 『鴉羽の暗殺者』のふりをするってことは、詰まる所……彼氏のふりをするってことだよね?」
サブロウのその一言に、アリスのお顔は瞬く間に真っ赤っか。どこぞの主将に仇名す、ヴィランが如き様相だった。
「そ、そんな滅相もございません! サ、サブロウ様なんかが私ともあろう人の彼氏など……」
「普通、逆だよね。あんま言いたかないけど……。そんなんじゃ、すぐバレちゃうよ?」
「そ、そこは心配いりません。お父様は私と違って、おっちょこちょいなところがあるので……」
「私と違って、ねぇ……」
サブロウはそれ以上ツッコまず、我が家へと招くアリスの後に続いていった。
◆
入城を果たすと通されたのは、これまた立派な客室。
高そうな家具やら絵画やらがそこらかしこにあり、いかにも金持ちで御座いますといった内観だ。
そんな一級品に囲まれたサブロウとアリス。二人仲良く座り心地抜群のソファーへと腰かけ、当の人物を待つ。
「ねえ、アリスくん。ほんとに大丈夫なの? 僕、君のこと何も知らないんだけど……」
不安三割、めんどくささ七割で尋ねるサブロウ。
「そ、その点は問題ありません。な、『鴉羽の暗殺者』様は私にとって、言わば高嶺の花……。それは、お父様も承知しております。であれば、私の気持ちが多少一方通行でも違和感はないかと……」
と、返すアリス。要はノープランということである。この子といいリリスといい、ほんとぶっつけ本番がお好きだこと。
ガチャ……
なんて言ってたら、お父様がご登場だ。
「………………」
お父様はサブロウを一瞥すると扉を閉め、どっと疲れたかのような溜息を見せつけながら、二人の対面に腰を下ろした。
「………………」
「………………」
ザ・沈黙……。本来、彼氏であれば『娘さんとお付き合いしてるサブロウと申します!』とでも言うべきなのだろうが……今回の件は、あくまでもアリスの一方通行。おいそれと己から申すわけにもいかず、偉く気まずい空気が流れている。
「あ、えっとー、お父様……。こちらがその……お、お付き合いしていらっしゃる……な、『鴉羽の暗殺者』様です。はい……」
するとアリスが、このムードを断ち切らんと口火を切る。
「『鴉羽の暗殺者』……嘗て法で裁けない悪党共を闇に葬っていた伝説の暗殺者。世話になった者たちは数知れず、その中には当然我々も含まれている。そうだな? アリス」
お父様は膝の上に肘をつき、口元で手を組みながら己が娘に問う。
「は、はい。その通りです、お父様」
「そうか……。本当に『鴉羽の暗殺者』殿なのか?」
「も、もちろんです! その強さは折り紙付き。例えるなら、リーチ、タンヤオ、三暗刻からの裏ドラで四暗刻地獄待ちが如しです!」
何じゃ、その例えは……と思ったが、サブロウの父ちゃんは代打ちだったし、この例えは割かし当たらずも遠からずかもな。
「そうか……」
「はい」
「あの『鴉羽の暗殺者』殿が……」
「はい」
「私の娘を救ってくれた恩人の……」
「はい」
「うむ……」
「はい」
「それが本当なら大変結構なことだ」
「では……!」
「でもな……」
「……でも?」
お父様はその後、数拍置く。
アリスが話した通り、おっちょこちょいな父上であらせられるなら、これで全て丸く収まるはず。だが――
「ぶっちゃけ……暗殺者に娘やらなくね?」
お父様は、ちゃんとした感性をお持ちの人だった。
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