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第三章
第92話 巷で暗殺者が話題になってるらしいけど、誰も殺してない④
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「それでサブロウ様。お頼みしたいことというのがですね……」
着いて早々、語り始める『鴉羽の暗殺者』ちゃん。
「うん。一旦ちょっと待ってくれる?」
しかしサブロウは、そんな彼女を制止する。
(ちょっと! なんで僕ん家に連れてくるのさ⁉ 君だってガセネタって言ってたよね⁉)
(いいじゃない、別に連れてくるくらい。それにサブロウくんもさっきの話、聞いてたでしょう? 『お父様も貴族だった』って。この子『鴉羽の暗殺者』じゃないけど、間違いなく貴族の娘よ。ヒロイン候補としては申し分ないわ!)
ひそひそと話し合うサブロウとリリス。
聞いての通り、今はサブロウ宅である。立ち話も何だからと連れてきたのだ。リリスが勝手にな。
そして三人してテーブルを囲んで座っているというのが今の現状だ。解説終了――
(貴族の娘って……もうお姫様と絡んだんだから良くない? 充分でしょ……)
(絡んだだけじゃダメなのよ、絡んだだけじゃ! もっとこう……絡みつかないと! ネットリと!)
(お姫様相手にそんなこと言ったら打ち首獄門だよ? 絶対、外で言わないでね……)
(何よ……サブロウくんだって拷問が趣味なんだから丁度いいじゃない?)
(趣味じゃねえし! 生意気な誰かさんを黙らせるのに丁度いいだけだし!)
「あのう……サブロウ様……?」
さすがに我慢できなかったのか、口を挟む『鴉羽の暗殺者』……って、呼びづらいな……。なあ、サブロウ。ちょっとお前、名前聞いてくれや。名前。
「え? 名前? あぁー……じゃあ、その前に名前聞いていいかな? 君の」
「あぁ、これは失礼いたしました。私の名前はアリ――じゃなくて『鴉羽の暗殺者』だ! それ以上でもそれ以下でもない!」
まるで思い出したかのように立ち上がるアリ――なんとかちゃん。
「うん……いや、もうそういうのいいから。お名前をどうぞ」
「あ、そうですか……。えっとー……アリスと申します。本名です」
かと思えば恥ずかしそうに座るアリス。これは仮面を外したら内気な少女と見た!
「アリスくんね。で、頼みってのは何かな?」
「はい……。実は私……そのう……こう見えて女でして……」
そう言うとアリスは、やっとこさメットを外す。
そこには、やはり予想通り。あからさまにおどついた美少女が、視線を合わせぬよう目を伏せていらっしゃった。
オレンジ色のショートウルフな髪型と、心持ち下がり気味の目元が印象的。見るからに人が良さげで、こう言っては何だが『鴉羽の暗殺者』と名乗るには、かなり真逆の人物に見える。
「……うん。それはまあ……見れば分かるよ」
サブロウは失礼と思いながらも、そのボディラインに視線が揺らぐ。
「さ、さらに言うと私……ワイドレッド家という、そこそこ名の知れた家系の一人娘でして……。そ、その~何と言いますか~、お見合い的な話が持ち上がったり何だったり……」
するとリリスが、
「なるほど! つまり、そのお見合いが嫌だから『鴉羽の暗殺者』を探してたのね! で、相手を闇に葬ってもらおうと?」
物騒な思考と共に口を挟む。
「い、いえ、そこまでのことは……。ですが、お見合いが嫌なのは間違いではありません。そこで私はお父様へ咄嗟に――な、『鴉羽の暗殺者』様と、お付き合いしていると……」
「え……何でそこで『鴉羽の暗殺者』?」
サブロウは幾分か顔を引きつらせ、そう問う。
「な、『鴉羽の暗殺者』様は、私の唯一の殿方との繋がりですし……。そのう……かつて助けていただいたということは、少なからず私を好いているものかと……」
「意外と自信家ねぇ、君……」
「で、ですが、『鴉羽の暗殺者』様が行方を晦まして、もう数年……。お父様も私が嘘をついていることに気付いています。だ、だから私は……! 自分で『鴉羽の暗殺者』となって、噂を広めようと……」
徐々にトーンダウンしていくアリス。
そんな姿にサブロウは、この先の展開を危惧しつつも、乗り掛かった舟と足を踏み入れていく。
「え~っと~……つまり君の頼みってのは、『鴉羽の暗殺者』を見つけてほしいとかっていう、そういう……?」
「い、いえ……! それは流石に難しいと思いますので、サブロウ様にはその……」
「その……?」
だが、サブロウは後悔した。いや、後悔ならリリスに話を聞いた時点で、とっくにしていた。でも、仕方がなかった。何故ならこの船は――
「な、『鴉羽の暗殺者』のふりをして、お父様に会っていただきたいのです……!」
元々、サブロウの船なのだから。
着いて早々、語り始める『鴉羽の暗殺者』ちゃん。
「うん。一旦ちょっと待ってくれる?」
しかしサブロウは、そんな彼女を制止する。
(ちょっと! なんで僕ん家に連れてくるのさ⁉ 君だってガセネタって言ってたよね⁉)
(いいじゃない、別に連れてくるくらい。それにサブロウくんもさっきの話、聞いてたでしょう? 『お父様も貴族だった』って。この子『鴉羽の暗殺者』じゃないけど、間違いなく貴族の娘よ。ヒロイン候補としては申し分ないわ!)
ひそひそと話し合うサブロウとリリス。
聞いての通り、今はサブロウ宅である。立ち話も何だからと連れてきたのだ。リリスが勝手にな。
そして三人してテーブルを囲んで座っているというのが今の現状だ。解説終了――
(貴族の娘って……もうお姫様と絡んだんだから良くない? 充分でしょ……)
(絡んだだけじゃダメなのよ、絡んだだけじゃ! もっとこう……絡みつかないと! ネットリと!)
(お姫様相手にそんなこと言ったら打ち首獄門だよ? 絶対、外で言わないでね……)
(何よ……サブロウくんだって拷問が趣味なんだから丁度いいじゃない?)
(趣味じゃねえし! 生意気な誰かさんを黙らせるのに丁度いいだけだし!)
「あのう……サブロウ様……?」
さすがに我慢できなかったのか、口を挟む『鴉羽の暗殺者』……って、呼びづらいな……。なあ、サブロウ。ちょっとお前、名前聞いてくれや。名前。
「え? 名前? あぁー……じゃあ、その前に名前聞いていいかな? 君の」
「あぁ、これは失礼いたしました。私の名前はアリ――じゃなくて『鴉羽の暗殺者』だ! それ以上でもそれ以下でもない!」
まるで思い出したかのように立ち上がるアリ――なんとかちゃん。
「うん……いや、もうそういうのいいから。お名前をどうぞ」
「あ、そうですか……。えっとー……アリスと申します。本名です」
かと思えば恥ずかしそうに座るアリス。これは仮面を外したら内気な少女と見た!
「アリスくんね。で、頼みってのは何かな?」
「はい……。実は私……そのう……こう見えて女でして……」
そう言うとアリスは、やっとこさメットを外す。
そこには、やはり予想通り。あからさまにおどついた美少女が、視線を合わせぬよう目を伏せていらっしゃった。
オレンジ色のショートウルフな髪型と、心持ち下がり気味の目元が印象的。見るからに人が良さげで、こう言っては何だが『鴉羽の暗殺者』と名乗るには、かなり真逆の人物に見える。
「……うん。それはまあ……見れば分かるよ」
サブロウは失礼と思いながらも、そのボディラインに視線が揺らぐ。
「さ、さらに言うと私……ワイドレッド家という、そこそこ名の知れた家系の一人娘でして……。そ、その~何と言いますか~、お見合い的な話が持ち上がったり何だったり……」
するとリリスが、
「なるほど! つまり、そのお見合いが嫌だから『鴉羽の暗殺者』を探してたのね! で、相手を闇に葬ってもらおうと?」
物騒な思考と共に口を挟む。
「い、いえ、そこまでのことは……。ですが、お見合いが嫌なのは間違いではありません。そこで私はお父様へ咄嗟に――な、『鴉羽の暗殺者』様と、お付き合いしていると……」
「え……何でそこで『鴉羽の暗殺者』?」
サブロウは幾分か顔を引きつらせ、そう問う。
「な、『鴉羽の暗殺者』様は、私の唯一の殿方との繋がりですし……。そのう……かつて助けていただいたということは、少なからず私を好いているものかと……」
「意外と自信家ねぇ、君……」
「で、ですが、『鴉羽の暗殺者』様が行方を晦まして、もう数年……。お父様も私が嘘をついていることに気付いています。だ、だから私は……! 自分で『鴉羽の暗殺者』となって、噂を広めようと……」
徐々にトーンダウンしていくアリス。
そんな姿にサブロウは、この先の展開を危惧しつつも、乗り掛かった舟と足を踏み入れていく。
「え~っと~……つまり君の頼みってのは、『鴉羽の暗殺者』を見つけてほしいとかっていう、そういう……?」
「い、いえ……! それは流石に難しいと思いますので、サブロウ様にはその……」
「その……?」
だが、サブロウは後悔した。いや、後悔ならリリスに話を聞いた時点で、とっくにしていた。でも、仕方がなかった。何故ならこの船は――
「な、『鴉羽の暗殺者』のふりをして、お父様に会っていただきたいのです……!」
元々、サブロウの船なのだから。
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