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第三章
第91話 巷で暗殺者が話題になってるらしいけど、誰も殺してない③
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「ちょっと待ちなさいよ、サブロウくん。助けないの?」
リリスは流石にこのままではあかんやろうと、手招きをしながら踵を返すサブロウを止める。
「助けないよ。だって違うんでしょ?」
「いやぁ……まあ、そりゃそうかもしれないけどさ……」
「それに見てみなよ、アレを」
そう言ってサブロウは少女に絡むチンピラたちを指差す。
「へっ! そんな華奢な身体で『鴉羽の暗殺者』ぶるなんて、やめとけやめとけ! そんなことするくらいなら、その綺麗な手で酒でも注いでもらいたいもんだね~?」
誘い方が時代劇のチンピラ。
「いやいや、待て待て。こいつはどう見ても未成年だ。酒はマズい。それよりも一緒に遊園地で遊んで、暗くなる前にお帰りいただくのがいいだろう。なあ、ネエちゃん?」
しっかりしてんな、オイ。
リリスはチンピラ共を一瞥すると、再びサブロウへ視線を戻す。
「……いい奴らね」
「でしょ? 助ける必要なんてないよ。それに進んであの格好してるんだ。絡まれるのだって、きっと覚悟の上さ」
今度こそは帰らんと、我が家に向けて歩を進めるサブロウ。
しかし、ある『鴉羽の暗殺者』ちゃんの発言が、それを許さなかった。
「酒も注がんし、遊園地にも行かん! 何故ならオレは『鴉羽の暗殺者』だからだ! 十年前、オレは悪徳貴族に誘拐された……。お父様も貴族だったが、相手は方々にも顔が利く奴で表立って動くことができず、手をこまねいていた。夜、暗がりの部屋で一人、自分の行く末を察して、オレは泣いたよ。でも……でもね。その時、泣いていた私の下に『鴉羽の暗殺者』が現れたんだ。あの人は何も言わず、私の手を取り、部屋から連れ出した。不思議と怖くはなかった。だって、その時の私にはヒーローにしか見えなかったから。まあ結局、見惚れてた所為で感謝も述べられず、今日まで来てしまったんだけどね……。だからこそ、わた……オレは『鴉羽の暗殺者』になったんだ! 三代目としてオレが動けば、それを聞きつけてもう一度あの人に会えるかもしれない。もう一度会えれば……あの時、言えなかった言葉を言えるかもしれないって……」
ん~……長ぇっ! しかも見事な説明口調! もう~、見るからに『私は『鴉羽の暗殺者』と関りがあります!』ってのを懇切丁寧に説明してくれたね。うん。さすがにこれにはチンピラ共も……
「そっか……大変だったんだな、お前……」
いや、同情すんのかい。
「だが、俺たちもおいそれと退くわけにはいかないんだ。だって俺たちは……モテないからっ……!」
ダセェ! 神妙な顔して言うことじゃないぞ……。
このままでは話が一方通行……ということで仕方なく、おじさんが出動だ。
「ちょっとやめなよ、君たち……。困ってるじゃん、その子」
おおよそ助けようという気が更々感じられないサブロウが、チンピラ共に近寄ると――
「おいおい、なんだおっさん⁉ 俺らに喧嘩売るつもりか⁉ あぁん⁉」
「ヒーローぶったって痛い目見るだけだぜ⁉ おっさんはおっさんらしく、居酒屋のおしぼりで顔拭いてな!」
……急に元気になったな。
「そうだぞ、ご老人! この『鴉羽の暗殺者』に手助けなど無用だ! ご老人!」
『鴉羽の暗殺者』ちゃんの一言にサブロウは、「ご老人って……」と分かり易く傷つき、何時ぞやの如く即撤退。
「なーに戻ってきてんのよ、サブロウくん! 一回助けるって決めたんなら、最後までやり遂げなさいよ! ほれ!」
戻ったら戻ったらでリリスに背中を引っ叩かれ、ぶうぶう言いながら又もやチンピラ共の下へ。
「ねぇ~……もうやめようよ。退いてくれないとこっちもさ? 実力行使的な形をさ? 取らないといけないからさ?」
サブロウの最後の慈悲にチンピラ共は、
「あぁん⁉ 実力行使だぁあああああぁぁぁぁぁ――」
「面白ぇ! やれるもんならやってぇええええぇぇぇ――」
空の彼方へと飛んでいった。【黙令眼】による【ラトビルスの空】で。
サブロウは溜息だけを残し、何も言わず去っていく。
だが、その圧倒的な力を前にした『鴉羽の暗殺者』ちゃんは、サブロウに何かを感じ、呼び止める。
「お待ちください! ご老人!」
「いや、ご老人じゃないから。わざとやってる?」
「し、失礼いたしました! では、その……お名前だけでも?」
サブロウは、あれやこれやと振りかざすタイプではない。
なのでそこは私の出番と、リリスが前へ出る。
「彼の名はサブロウくん。見た目は冴えないけど、その実力は天をも穿つと言われてるわ。そして私は元天使のリリス。その美しさは天をも虜にし、何れ天界を手中に収めては、イケメンども――」
「いえ。そこまでは聞いていません。それでサブロウ様。貴方様に折り入ってお頼みしたいことが……」
若干頬を膨らませるリリスを余所に、『鴉羽の暗殺者』ちゃんはサブロウへと詰め寄った。
リリスは流石にこのままではあかんやろうと、手招きをしながら踵を返すサブロウを止める。
「助けないよ。だって違うんでしょ?」
「いやぁ……まあ、そりゃそうかもしれないけどさ……」
「それに見てみなよ、アレを」
そう言ってサブロウは少女に絡むチンピラたちを指差す。
「へっ! そんな華奢な身体で『鴉羽の暗殺者』ぶるなんて、やめとけやめとけ! そんなことするくらいなら、その綺麗な手で酒でも注いでもらいたいもんだね~?」
誘い方が時代劇のチンピラ。
「いやいや、待て待て。こいつはどう見ても未成年だ。酒はマズい。それよりも一緒に遊園地で遊んで、暗くなる前にお帰りいただくのがいいだろう。なあ、ネエちゃん?」
しっかりしてんな、オイ。
リリスはチンピラ共を一瞥すると、再びサブロウへ視線を戻す。
「……いい奴らね」
「でしょ? 助ける必要なんてないよ。それに進んであの格好してるんだ。絡まれるのだって、きっと覚悟の上さ」
今度こそは帰らんと、我が家に向けて歩を進めるサブロウ。
しかし、ある『鴉羽の暗殺者』ちゃんの発言が、それを許さなかった。
「酒も注がんし、遊園地にも行かん! 何故ならオレは『鴉羽の暗殺者』だからだ! 十年前、オレは悪徳貴族に誘拐された……。お父様も貴族だったが、相手は方々にも顔が利く奴で表立って動くことができず、手をこまねいていた。夜、暗がりの部屋で一人、自分の行く末を察して、オレは泣いたよ。でも……でもね。その時、泣いていた私の下に『鴉羽の暗殺者』が現れたんだ。あの人は何も言わず、私の手を取り、部屋から連れ出した。不思議と怖くはなかった。だって、その時の私にはヒーローにしか見えなかったから。まあ結局、見惚れてた所為で感謝も述べられず、今日まで来てしまったんだけどね……。だからこそ、わた……オレは『鴉羽の暗殺者』になったんだ! 三代目としてオレが動けば、それを聞きつけてもう一度あの人に会えるかもしれない。もう一度会えれば……あの時、言えなかった言葉を言えるかもしれないって……」
ん~……長ぇっ! しかも見事な説明口調! もう~、見るからに『私は『鴉羽の暗殺者』と関りがあります!』ってのを懇切丁寧に説明してくれたね。うん。さすがにこれにはチンピラ共も……
「そっか……大変だったんだな、お前……」
いや、同情すんのかい。
「だが、俺たちもおいそれと退くわけにはいかないんだ。だって俺たちは……モテないからっ……!」
ダセェ! 神妙な顔して言うことじゃないぞ……。
このままでは話が一方通行……ということで仕方なく、おじさんが出動だ。
「ちょっとやめなよ、君たち……。困ってるじゃん、その子」
おおよそ助けようという気が更々感じられないサブロウが、チンピラ共に近寄ると――
「おいおい、なんだおっさん⁉ 俺らに喧嘩売るつもりか⁉ あぁん⁉」
「ヒーローぶったって痛い目見るだけだぜ⁉ おっさんはおっさんらしく、居酒屋のおしぼりで顔拭いてな!」
……急に元気になったな。
「そうだぞ、ご老人! この『鴉羽の暗殺者』に手助けなど無用だ! ご老人!」
『鴉羽の暗殺者』ちゃんの一言にサブロウは、「ご老人って……」と分かり易く傷つき、何時ぞやの如く即撤退。
「なーに戻ってきてんのよ、サブロウくん! 一回助けるって決めたんなら、最後までやり遂げなさいよ! ほれ!」
戻ったら戻ったらでリリスに背中を引っ叩かれ、ぶうぶう言いながら又もやチンピラ共の下へ。
「ねぇ~……もうやめようよ。退いてくれないとこっちもさ? 実力行使的な形をさ? 取らないといけないからさ?」
サブロウの最後の慈悲にチンピラ共は、
「あぁん⁉ 実力行使だぁあああああぁぁぁぁぁ――」
「面白ぇ! やれるもんならやってぇええええぇぇぇ――」
空の彼方へと飛んでいった。【黙令眼】による【ラトビルスの空】で。
サブロウは溜息だけを残し、何も言わず去っていく。
だが、その圧倒的な力を前にした『鴉羽の暗殺者』ちゃんは、サブロウに何かを感じ、呼び止める。
「お待ちください! ご老人!」
「いや、ご老人じゃないから。わざとやってる?」
「し、失礼いたしました! では、その……お名前だけでも?」
サブロウは、あれやこれやと振りかざすタイプではない。
なのでそこは私の出番と、リリスが前へ出る。
「彼の名はサブロウくん。見た目は冴えないけど、その実力は天をも穿つと言われてるわ。そして私は元天使のリリス。その美しさは天をも虜にし、何れ天界を手中に収めては、イケメンども――」
「いえ。そこまでは聞いていません。それでサブロウ様。貴方様に折り入ってお頼みしたいことが……」
若干頬を膨らませるリリスを余所に、『鴉羽の暗殺者』ちゃんはサブロウへと詰め寄った。
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