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第三章

第89話 巷で暗殺者が話題になってるらしいけど、誰も殺してない①

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「サブロウくんッッ‼」

 突如、朝っぱらから響き渡るは、リリスからのラブコール……ではなく、お残しは許しまへんで的、折檻。

「――うわっ⁉ ビックリしたぁ……! 何なんだよ、朝から……。何で君はいつも、朝襲撃しに来るの……?」

 サブロウは身体をビクつかせ、安眠妨害したリリスへ精一杯の抵抗と布団に包まる。

「寝込みを襲うのは兵法の基本だからよ」
「一人で戦争でも、おっぱじめる気? やめようよ……せっかく、いつもの日常が戻ってきたんだから」
「戻ってきちゃ――ダメなのよぉおおぉぉおぉおッッ‼」

 リリスは心の叫びを包まるサブロウの布団に乗せ、思いっ切り引き剥がした。

「もう、なんだよぉ……何がそんなに気に入らないのぉ?」
「サブロウくん……あなた、あの子たちはどうしたのよ?」

 ゴミでも見るかのようなリリスの視線に、サブロウは仕方なく上体を起こし、「あの子……?」と身体を伸ばしながら聞き返す。

「弟子たちのことよッ! あのヒロイン候補のッ‼」
「あぁ……明芽くんたち? あの子たちは旅立ったよ。もう来ないんじゃないかなぁ」
「はいィイ⁉ ちょっ、サブロウくんっ……あなたまさか、せっかくのヒロインたちをみすみす逃したっての⁉ アンタ、バカぁ⁉ エターナル、バカぁ⁉」

 リリスは腰に手を当て、まるでエコヒイキは許さんとばかりに、がなり立てる。

「あの子たちはヒロインじゃなくて弟子。僕の『子』なんだよ。最後はみんなで食事を囲んで語り合い、送り出したんだ。もうそれでいいじゃないか」
「え……食事? 何それ……私、聞いてないんだけど……?」

 かと思えばリリスは分かり易く鎮火していき……

「あ、ごめん……。君、誘うの普通に忘れてたわ……」
「忘れてたって……私だって一所懸命、畑のお世話してたってのにぃ……えへっ……えへっ……ええぇぇええぇえぇええぇんん~‼」

 一気に大噴火。

「赤ん坊みたいな泣き方するね、君……」
「ええぇぇええぇえぇええぇんん~‼ 【場面転換】んん~‼」
「――いや、なんでそこで⁉」

 結果、泣きじゃくったリリスはアヘ顔ダブルピースと共に、サブロウを新たな世界へと誘っていった。



「フー、スッとしたぜ。おれはヤスモトやゼフェグラフィティに比べるとチと荒っぽい性格でな~。激昂してトチ狂いそうになると、泣きわめいて頭を冷静にすることにしているのだ」

 摂氏五百度まで沸騰した血液を、孫子兵法にてスッキリさせたリリス。
 どうやらグツグツのシチューになる前に正気を取り戻せたようだ。

「そりゃ、そんだけ好きにやってたらスッとするわな……」

 サブロウもいつの間にか一張羅に着替えさせられ、又もや一階のソファーへと座らされていた。

「さて、サブロウくん。どうしようもないアナタの為に、そろそろプレゼンタイムに移りたいんだけど宜しいかしら?」
「あぁ……もう勝手にするといいよ……」

 いつもの展開と諦めたサブロウは、無駄に胸を張るリリスへと覇気のない視線を向ける。

「えー、では僭越ながら発表させていただきやす……。サブロウくん! 巷で暗殺者が話題になってるらしいわよ!」
「暗殺者? 暗殺者って……話題になっていい存在なの?」
「別にいいんじゃない? 何も秘かに殺すのが暗殺者じゃないって、近所のヤスモトさんも言ってたし」
「また出たよ……。僕はどっちかっていうと、その近所のヤスモトさんをフューチャーしてほしいけどね」
「それに、その暗殺者――『誰も殺してない』らしいし」
「……はい?」
「だから、『誰も殺してない』って」

 まるでなぞかけのようなその一言に、サブロウの頭上には?マークが生えてくる。

「……え? どういうこと?」

 するとリリスはその?マークを引っこ抜き、後ろに投げ捨てながら解説を始める。

「実はその暗殺者……あの有名な『鴉羽の暗殺者ナイトウォーカー』らしいのよね」
「――なっ⁉ ナイトウォーカーだって⁉」

 おやおや、これはまた面白いことに……
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