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第二章
第88話 今日も魔王様(社長)は現実逃避に励む③
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魔王軍直轄地、東部エリア――
オンボロのプレハブ小屋が建ち並ぶ荒れ果てた領地。
その最奥にある一際大きい魔王城(プレハブ)の一室には、魔王軍代行稼業有限会社の魔王(社長)こと、ロリエル・コンクェスターが……座してはいなかった。
「あのう……そこは我の席なのだが……」
座していたのは床。しかも正座。
その後ろにはバーバリアン将軍とバードマン参謀も控えていた……こちらも正座で。
さて、何故このような事態に陥ったのか? それは社長椅子に座るダイナマイトバデエな美女が、どうやら関係しているらしい。
「あら。ロリちゃんが呼んだんでしょう? ……この私を魔剣士として」
色気漂う彼女の名は葵咲。こう見えて十七歳である。
彼女曰くハーフとのことで、ブロンドの長い巻き髪と碧い瞳、スッとした鼻筋と高さが、それを真実たらしめていた。
魔剣士らしく黒衣に身を包んでいるが、胸元がざっくり開いていることと、絶対領域だけはお見えになっていることもポイントだ。
「いやぁ……まさか、こんなに早く来るとは思ってなかったのだ……。っていうか、そもそも来るとも思ってなかったのだ。せめて宵越しの銭さえ手に入ればと……」
((いや、魔王軍としてのプライドは⁉))
と、将軍と参謀は思ったが、口には出さなかった。
一応、売却されたおかげで食いつなぐことができたからだ。
「私もビックリしたわ。急に天使っぽい人が現れて、魔剣を授けるなんて言うから」
「天使どもが魔剣を……? おかしいのだ……奴らが買うとは思えんのだ……」
「ほんとそうよね~。ま、今思い返せば何だか虚ろ気だったし、事あるごとに『ブリッツ』とか口走ってて、なんか変だったわ。まるで、あれじゃ洗脳ね」
「ブリッツぅっ⁉」
ロリエルはその名に心臓が跳ね上がり、すぐさま後方へと振り返る。
(ど、どういうことなのだ⁉ 何故、奴が関わっているのだ⁉)
(僕が知るわけないでしょ⁉ 社長が売ったヤツなんですから、社長が処理してくださいよ!)
(いやいや、こういうのは社員一丸となってだな……)
ブリッツの名が出たことで、あからさまにロリエルから身を反らす将軍。よほど関わりたくないらしい。
(もしや、ブリッツの関係者……とか?)
参謀のその一言で、さらに凍りつく魔王軍。
(どどど、どうするのだ⁉ ブリッツの関係者だとしたら、早めに届けた方が――)
(いや、社長! ちょっと待って下さい!)
参謀はその翼でロリエルを制止する。
(何故止めるのだ、バードマン参謀⁉)
(冷静になって考えてみてください。あのブリッツが別世界から呼び寄せたんですよ? それ即ち、相当な手練れということです。これを利用しない手はありません!)
呼んでないけどな。
そこで将軍も察したのか、反らしていた身体を元の戻す。
(なるほど。あの娘を傘下に収めれば、我々はまだ伸し上がれると? 地域との共生から脱却し、魔王軍として再び世を支配できるかもしれない! そういうことだな、バードマン参謀?)
(その通りです、将軍。社長、ここは博打でも張る時です! 魔王軍を返り咲かせる為にも!)
ロリエルは部下たちからの熱い想いに驚き、そして己を恥じた。
部下たちはこれほどまでに会社のことを考えているのに、自分ときたら己が保身ばかりで未来を見ていなかったからだ。
そう。いいはずがない。天下の魔王軍が、こんなホワイト企業でいいはずがない。地域と繋がることで、より暮らしが豊かになってる場合ではないのだ。
なれば、やることは一つ。取るに足らぬ人間どもを――支配するのだ。
「葵咲殿……」
部下たちの熱き魂の鼓動を受け、ロリエルは立ち上がる。
「なあに? ロリちゃん?」
妖艶な雰囲気を醸し出しながら踏ん反り返る葵咲。これじゃあ、どっちが魔王なんだか分かりゃしない。
「これから我が言うことを、よく聞いてほしいのだ」
「うん。さっきからずっと聞いてる」
「良いか? 葵咲殿は、これから我々と……」
「我々と?」
小首を傾げる葵咲に、魔王軍の緊張が走る。
手に汗握る部下たちの黙援を背に受け、ロリエルは社長……いや、魔王としての筋を通す!
「うん……あの~……ブリッツ殿のとこにね? ハハッ……行きましょうかね? うん……」
((いや、魔王軍としてのプライドは⁉))
と、将軍と参謀は思ったが、口には出さなかった。
だって単純に……ブリッツが怖かったから。
というわけで、今日も魔王様(社長)は現実逃避に励む。
恐らく次回へは……もう続かない。
オンボロのプレハブ小屋が建ち並ぶ荒れ果てた領地。
その最奥にある一際大きい魔王城(プレハブ)の一室には、魔王軍代行稼業有限会社の魔王(社長)こと、ロリエル・コンクェスターが……座してはいなかった。
「あのう……そこは我の席なのだが……」
座していたのは床。しかも正座。
その後ろにはバーバリアン将軍とバードマン参謀も控えていた……こちらも正座で。
さて、何故このような事態に陥ったのか? それは社長椅子に座るダイナマイトバデエな美女が、どうやら関係しているらしい。
「あら。ロリちゃんが呼んだんでしょう? ……この私を魔剣士として」
色気漂う彼女の名は葵咲。こう見えて十七歳である。
彼女曰くハーフとのことで、ブロンドの長い巻き髪と碧い瞳、スッとした鼻筋と高さが、それを真実たらしめていた。
魔剣士らしく黒衣に身を包んでいるが、胸元がざっくり開いていることと、絶対領域だけはお見えになっていることもポイントだ。
「いやぁ……まさか、こんなに早く来るとは思ってなかったのだ……。っていうか、そもそも来るとも思ってなかったのだ。せめて宵越しの銭さえ手に入ればと……」
((いや、魔王軍としてのプライドは⁉))
と、将軍と参謀は思ったが、口には出さなかった。
一応、売却されたおかげで食いつなぐことができたからだ。
「私もビックリしたわ。急に天使っぽい人が現れて、魔剣を授けるなんて言うから」
「天使どもが魔剣を……? おかしいのだ……奴らが買うとは思えんのだ……」
「ほんとそうよね~。ま、今思い返せば何だか虚ろ気だったし、事あるごとに『ブリッツ』とか口走ってて、なんか変だったわ。まるで、あれじゃ洗脳ね」
「ブリッツぅっ⁉」
ロリエルはその名に心臓が跳ね上がり、すぐさま後方へと振り返る。
(ど、どういうことなのだ⁉ 何故、奴が関わっているのだ⁉)
(僕が知るわけないでしょ⁉ 社長が売ったヤツなんですから、社長が処理してくださいよ!)
(いやいや、こういうのは社員一丸となってだな……)
ブリッツの名が出たことで、あからさまにロリエルから身を反らす将軍。よほど関わりたくないらしい。
(もしや、ブリッツの関係者……とか?)
参謀のその一言で、さらに凍りつく魔王軍。
(どどど、どうするのだ⁉ ブリッツの関係者だとしたら、早めに届けた方が――)
(いや、社長! ちょっと待って下さい!)
参謀はその翼でロリエルを制止する。
(何故止めるのだ、バードマン参謀⁉)
(冷静になって考えてみてください。あのブリッツが別世界から呼び寄せたんですよ? それ即ち、相当な手練れということです。これを利用しない手はありません!)
呼んでないけどな。
そこで将軍も察したのか、反らしていた身体を元の戻す。
(なるほど。あの娘を傘下に収めれば、我々はまだ伸し上がれると? 地域との共生から脱却し、魔王軍として再び世を支配できるかもしれない! そういうことだな、バードマン参謀?)
(その通りです、将軍。社長、ここは博打でも張る時です! 魔王軍を返り咲かせる為にも!)
ロリエルは部下たちからの熱い想いに驚き、そして己を恥じた。
部下たちはこれほどまでに会社のことを考えているのに、自分ときたら己が保身ばかりで未来を見ていなかったからだ。
そう。いいはずがない。天下の魔王軍が、こんなホワイト企業でいいはずがない。地域と繋がることで、より暮らしが豊かになってる場合ではないのだ。
なれば、やることは一つ。取るに足らぬ人間どもを――支配するのだ。
「葵咲殿……」
部下たちの熱き魂の鼓動を受け、ロリエルは立ち上がる。
「なあに? ロリちゃん?」
妖艶な雰囲気を醸し出しながら踏ん反り返る葵咲。これじゃあ、どっちが魔王なんだか分かりゃしない。
「これから我が言うことを、よく聞いてほしいのだ」
「うん。さっきからずっと聞いてる」
「良いか? 葵咲殿は、これから我々と……」
「我々と?」
小首を傾げる葵咲に、魔王軍の緊張が走る。
手に汗握る部下たちの黙援を背に受け、ロリエルは社長……いや、魔王としての筋を通す!
「うん……あの~……ブリッツ殿のとこにね? ハハッ……行きましょうかね? うん……」
((いや、魔王軍としてのプライドは⁉))
と、将軍と参謀は思ったが、口には出さなかった。
だって単純に……ブリッツが怖かったから。
というわけで、今日も魔王様(社長)は現実逃避に励む。
恐らく次回へは……もう続かない。
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