上 下
88 / 117
第二章

第87話 弟子は師となり、後世へ④

しおりを挟む
 お食事会もそろそろ終盤に差し掛かったころ、サブロウはちょっとした疑問を明芽へ投げかける。

「そういえば明芽くんって、巷じゃ勇者って言われてるよね? なんでレッドなの?」

 そんなサブロウの問いに、

「あぁ! エミィも気になってたのよね、それ!」

 エミリアも同意し、ハルフリーダも無言で頷いていた。

「あぁ……私の名前、明るいに芽吹くで明芽あやめなんですけど、よくアカメちゃんって間違われてたんですよね。で、略してアカちゃんアカちゃんって。そこから多分、誰かが色の赤と勘違いして、いつの間にかレッドちゃんって呼ばれるようになったんです。すみません、大した理由じゃなくて……」

 明芽は若干、申し訳なさそうに後頭部をさする。

「まあ、あだ名なんて得てしてそんなもんさ。別に謝るほどのことじゃないよ」

 そうサブロウは微笑み、グラスを口に運ぶ。
 すると、明芽はこの機を逃さんとサブロウへ逆質問する。

「……師匠って、あだ名とかあるんですか?」
「え? どうしたのさ急に……」

 思わぬ問いに、口に運んでいたグラスを外すサブロウ。

「だって師匠、さっきから私たちの話ばっかじゃないですか? もっと自分のこと話してくださいよ?」
「自分のことって……僕は別に……」

 サブロウが言い淀んでいると、ナプキンで口元を拭いたハルフリーダが後押ししてくる。

「エミィ様から聞きましたが、お師匠様は明芽様と同じく、肩書き上は転生者だとか。ですが、それ以外は何も知りません。差し支えなければ、わたくしも聞かせていただきたいです」

 女子たちの質問攻めに戸惑うサブロウ。
 そんな折、助け舟を出さんとメイド一号がサブロウへウィンクを飛ばす。

(サブロウ様。ここはわたくしにお任せください! サブロウ様のお気持ちは分かっていますから!)
(一号ちゃん……。うん。頼んだよ!)

 メイド一号はアイコンタクトを交わしたのち、咳払いで明芽たちの注意を引く。

「サブロウ様は嘗て魔天籠の管理者から、この世界を救った救世主のお一人です。その後は残存していた魔王軍に加入。跡目争いが行われる中、暗躍し、内部崩壊へと追い込んでは、魔王軍を衰退させました。それが済むと今度は、我らがマスターと【常世の居城ブラック・パレス】を設立。傭兵の筆頭として表社会の統制へと回ります。しかし、その裏では闇を葬る為、ナイト――」
「ちょっと言い過ぎかなぁー⁉ 全然、僕の気持ち汲めてないじゃないか⁉」

 サブロウのツッコミで、「――はっ⁉ しまった⁉」と漸く我に返るメイド一号。彼女はサブロウガチ勢。任せるべきではなかったな。

「いやぁ……ははっ……す、凄いんですねぇ、師匠……」
「エミィもまさか……そこまでとは思わなかったわ……」
「ナイト……?」

 明芽、エミリアは想像よりも上の内容にドン引きし、ハルフリーダは小首を傾げていた。



 宴も酣……というよりかは変な空気になったので、お食事会はお開き。みんなで後片付けをしたのち、サブロウとメイド一号は彼女たちを送り出す。

「さて、これで君たちの修行は終わりだ。明日からは自分たちの道を行くといい」
「え? もう終わりなんですか? まだ、色々と教わりたいことが……」

 弟子たちの意見を代表し、明芽が幾分か寂し気にそう問う。

「君たちはもうスタートラインに立ったんだ。それに目的は修業じゃなくて、三人で旅をすることだろう? せっかく強くなったんだから、そろそろ踏み出さなきゃ」
「でも……」

 明芽たちは顔を見合わせ、少々不安を匂わせる。

「僕のアクセスコードは006。登録しておいてくれ。僕も君たちのコードを登録しておく。そうすれば魔天籠を介し、いつでも連絡を取り合うことができる。何かあれば……いや、何も無くても連絡してくれていい。躓いた時は、また修業しに戻っておいで」

 明芽たちは再び顔を見合わせる。しかし、今度は安心しきった笑みで。

「ありがとうございました、師匠! メイちゃんも修行見てくれてありがとね!」

 明芽は真っ直ぐ二人を見つめ、太陽に負けぬ輝く笑みを浮かべる。

「ありがと、サブロウ……。アンタのお陰で、その……魔法使えるようになったから」

 大分素直になったエミリアも、いざ畏まるとまだまだ恥ずかし気。

「お食事も大変、美味しかったです。何から何までお世話になりました」

 ハルフリーダは、もはや様式美となった綺麗なお辞儀を。

「ああ……またね」
「お元気で。お嬢様方」

 サブロウとメイド一号は新たな道を歩まんとする弟子たちを見送る。

 こうして『サブロウ、師匠になる編』は幕を閉じた。

 というわけで、今回サブロウは見事主人公に……いや、もうお役御免かな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~

遠雷
恋愛
【本編完結】戦地から戻り、聖剣を得て聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。 戦場で傍に寄り添い、その活躍により周囲から聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを、彼は愛してしまったのだと告げる。安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラは、居場所を失くしてしまった。 反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。 その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。 一方でフローラは旅路で一風変わった人々と出会い、祝福を知る。 ―――――――――――――――――――― ※2025.1.5追記 11月に本編完結した際に、完結の設定をし忘れておりまして、 今ごろなのですが完結に変更しました。すみません…! 近々後日談の更新を開始予定なので、その際にはまた解除となりますが、 本日付けで一端完結で登録させていただいております ※ファンタジー要素強め、やや群像劇寄り たくさんの感想をありがとうございます。全てに返信は出来ておりませんが、大切に読ませていただいております!

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました

あさひな
ファンタジー
二児の子供がいるワーキングマザーの私。仕事、家事、育児に忙殺され、すっかりくたびれた中年女になり果てていた私は、ある日事故により異世界転生を果たす。 転生先は、前世とは縁遠い公爵令嬢「イザベル・フォン・アルノー」だったが……まさかの乙女ゲームの悪役令嬢!? しかも乙女ゲームの内容が全く思い出せないなんて、あんまりでしょ!! 破滅フラグ(攻略対象者)から逃げるために修道院に逃げ込んだら、子供達の扱いに慣れているからと孤児達の世話役を任命されました。 そりゃあ、前世は二児の母親だったので、育児は身に染み付いてますが、まさかそれがチートになるなんて! しかも育児知識をフル活用していたら、なんだか王太子に気に入られて婚約者に選ばれてしまいました。 攻略対象者から逃げるはずが、こんな事になるなんて……! 「貴女の心は、美しい」 「ベルは、僕だけの義妹」 「この力を、君に捧げる」 王太子や他の攻略対象者から執着されたり溺愛されながら、私は現世の運命に飲み込まれて行くーー。 ※なろう(現在非公開)とカクヨムで一部掲載中

さようなら、私の初恋。あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで

あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

処理中です...