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第二章
第87話 弟子は師となり、後世へ④
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お食事会もそろそろ終盤に差し掛かったころ、サブロウはちょっとした疑問を明芽へ投げかける。
「そういえば明芽くんって、巷じゃ勇者レッドって言われてるよね? なんでレッドなの?」
そんなサブロウの問いに、
「あぁ! エミィも気になってたのよね、それ!」
エミリアも同意し、ハルフリーダも無言で頷いていた。
「あぁ……私の名前、明るいに芽吹くで明芽なんですけど、よくアカメちゃんって間違われてたんですよね。で、略してアカちゃんアカちゃんって。そこから多分、誰かが色の赤と勘違いして、いつの間にかレッドちゃんって呼ばれるようになったんです。すみません、大した理由じゃなくて……」
明芽は若干、申し訳なさそうに後頭部をさする。
「まあ、あだ名なんて得てしてそんなもんさ。別に謝るほどのことじゃないよ」
そうサブロウは微笑み、グラスを口に運ぶ。
すると、明芽はこの機を逃さんとサブロウへ逆質問する。
「……師匠って、あだ名とかあるんですか?」
「え? どうしたのさ急に……」
思わぬ問いに、口に運んでいたグラスを外すサブロウ。
「だって師匠、さっきから私たちの話ばっかじゃないですか? もっと自分のこと話してくださいよ?」
「自分のことって……僕は別に……」
サブロウが言い淀んでいると、ナプキンで口元を拭いたハルフリーダが後押ししてくる。
「エミィ様から聞きましたが、お師匠様は明芽様と同じく、肩書き上は転生者だとか。ですが、それ以外は何も知りません。差し支えなければ、私も聞かせていただきたいです」
女子たちの質問攻めに戸惑うサブロウ。
そんな折、助け舟を出さんとメイド一号がサブロウへウィンクを飛ばす。
(サブロウ様。ここは私にお任せください! サブロウ様のお気持ちは分かっていますから!)
(一号ちゃん……。うん。頼んだよ!)
メイド一号はアイコンタクトを交わしたのち、咳払いで明芽たちの注意を引く。
「サブロウ様は嘗て魔天籠の管理者から、この世界を救った救世主のお一人です。その後は残存していた魔王軍に加入。跡目争いが行われる中、暗躍し、内部崩壊へと追い込んでは、魔王軍を衰退させました。それが済むと今度は、我らがマスターと【常世の居城】を設立。傭兵の筆頭として表社会の統制へと回ります。しかし、その裏では闇を葬る為、ナイト――」
「ちょっと言い過ぎかなぁー⁉ 全然、僕の気持ち汲めてないじゃないか⁉」
サブロウのツッコミで、「――はっ⁉ しまった⁉」と漸く我に返るメイド一号。彼女はサブロウガチ勢。任せるべきではなかったな。
「いやぁ……ははっ……す、凄いんですねぇ、師匠……」
「エミィもまさか……そこまでとは思わなかったわ……」
「ナイト……?」
明芽、エミリアは想像よりも上の内容にドン引きし、ハルフリーダは小首を傾げていた。
◆
宴も酣……というよりかは変な空気になったので、お食事会はお開き。みんなで後片付けをしたのち、サブロウとメイド一号は彼女たちを送り出す。
「さて、これで君たちの修行は終わりだ。明日からは自分たちの道を行くといい」
「え? もう終わりなんですか? まだ、色々と教わりたいことが……」
弟子たちの意見を代表し、明芽が幾分か寂し気にそう問う。
「君たちはもうスタートラインに立ったんだ。それに目的は修業じゃなくて、三人で旅をすることだろう? せっかく強くなったんだから、そろそろ踏み出さなきゃ」
「でも……」
明芽たちは顔を見合わせ、少々不安を匂わせる。
「僕のアクセスコードは006。登録しておいてくれ。僕も君たちのコードを登録しておく。そうすれば魔天籠を介し、いつでも連絡を取り合うことができる。何かあれば……いや、何も無くても連絡してくれていい。躓いた時は、また修業しに戻っておいで」
明芽たちは再び顔を見合わせる。しかし、今度は安心しきった笑みで。
「ありがとうございました、師匠! メイちゃんも修行見てくれてありがとね!」
明芽は真っ直ぐ二人を見つめ、太陽に負けぬ輝く笑みを浮かべる。
「ありがと、サブロウ……。アンタのお陰で、その……魔法使えるようになったから」
大分素直になったエミリアも、いざ畏まるとまだまだ恥ずかし気。
「お食事も大変、美味しかったです。何から何までお世話になりました」
ハルフリーダは、もはや様式美となった綺麗なお辞儀を。
「ああ……またね」
「お元気で。お嬢様方」
サブロウとメイド一号は新たな道を歩まんとする弟子たちを見送る。
こうして『サブロウ、師匠になる編』は幕を閉じた。
というわけで、今回サブロウは見事主人公に……いや、もうお役御免かな。
「そういえば明芽くんって、巷じゃ勇者レッドって言われてるよね? なんでレッドなの?」
そんなサブロウの問いに、
「あぁ! エミィも気になってたのよね、それ!」
エミリアも同意し、ハルフリーダも無言で頷いていた。
「あぁ……私の名前、明るいに芽吹くで明芽なんですけど、よくアカメちゃんって間違われてたんですよね。で、略してアカちゃんアカちゃんって。そこから多分、誰かが色の赤と勘違いして、いつの間にかレッドちゃんって呼ばれるようになったんです。すみません、大した理由じゃなくて……」
明芽は若干、申し訳なさそうに後頭部をさする。
「まあ、あだ名なんて得てしてそんなもんさ。別に謝るほどのことじゃないよ」
そうサブロウは微笑み、グラスを口に運ぶ。
すると、明芽はこの機を逃さんとサブロウへ逆質問する。
「……師匠って、あだ名とかあるんですか?」
「え? どうしたのさ急に……」
思わぬ問いに、口に運んでいたグラスを外すサブロウ。
「だって師匠、さっきから私たちの話ばっかじゃないですか? もっと自分のこと話してくださいよ?」
「自分のことって……僕は別に……」
サブロウが言い淀んでいると、ナプキンで口元を拭いたハルフリーダが後押ししてくる。
「エミィ様から聞きましたが、お師匠様は明芽様と同じく、肩書き上は転生者だとか。ですが、それ以外は何も知りません。差し支えなければ、私も聞かせていただきたいです」
女子たちの質問攻めに戸惑うサブロウ。
そんな折、助け舟を出さんとメイド一号がサブロウへウィンクを飛ばす。
(サブロウ様。ここは私にお任せください! サブロウ様のお気持ちは分かっていますから!)
(一号ちゃん……。うん。頼んだよ!)
メイド一号はアイコンタクトを交わしたのち、咳払いで明芽たちの注意を引く。
「サブロウ様は嘗て魔天籠の管理者から、この世界を救った救世主のお一人です。その後は残存していた魔王軍に加入。跡目争いが行われる中、暗躍し、内部崩壊へと追い込んでは、魔王軍を衰退させました。それが済むと今度は、我らがマスターと【常世の居城】を設立。傭兵の筆頭として表社会の統制へと回ります。しかし、その裏では闇を葬る為、ナイト――」
「ちょっと言い過ぎかなぁー⁉ 全然、僕の気持ち汲めてないじゃないか⁉」
サブロウのツッコミで、「――はっ⁉ しまった⁉」と漸く我に返るメイド一号。彼女はサブロウガチ勢。任せるべきではなかったな。
「いやぁ……ははっ……す、凄いんですねぇ、師匠……」
「エミィもまさか……そこまでとは思わなかったわ……」
「ナイト……?」
明芽、エミリアは想像よりも上の内容にドン引きし、ハルフリーダは小首を傾げていた。
◆
宴も酣……というよりかは変な空気になったので、お食事会はお開き。みんなで後片付けをしたのち、サブロウとメイド一号は彼女たちを送り出す。
「さて、これで君たちの修行は終わりだ。明日からは自分たちの道を行くといい」
「え? もう終わりなんですか? まだ、色々と教わりたいことが……」
弟子たちの意見を代表し、明芽が幾分か寂し気にそう問う。
「君たちはもうスタートラインに立ったんだ。それに目的は修業じゃなくて、三人で旅をすることだろう? せっかく強くなったんだから、そろそろ踏み出さなきゃ」
「でも……」
明芽たちは顔を見合わせ、少々不安を匂わせる。
「僕のアクセスコードは006。登録しておいてくれ。僕も君たちのコードを登録しておく。そうすれば魔天籠を介し、いつでも連絡を取り合うことができる。何かあれば……いや、何も無くても連絡してくれていい。躓いた時は、また修業しに戻っておいで」
明芽たちは再び顔を見合わせる。しかし、今度は安心しきった笑みで。
「ありがとうございました、師匠! メイちゃんも修行見てくれてありがとね!」
明芽は真っ直ぐ二人を見つめ、太陽に負けぬ輝く笑みを浮かべる。
「ありがと、サブロウ……。アンタのお陰で、その……魔法使えるようになったから」
大分素直になったエミリアも、いざ畏まるとまだまだ恥ずかし気。
「お食事も大変、美味しかったです。何から何までお世話になりました」
ハルフリーダは、もはや様式美となった綺麗なお辞儀を。
「ああ……またね」
「お元気で。お嬢様方」
サブロウとメイド一号は新たな道を歩まんとする弟子たちを見送る。
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