WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

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第二章

第86話 弟子は師となり、後世へ③

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 さて、『ZERO計画』が施行され、修行も終えた今はちょうど昼時。それもあってか明芽あやめ提案のもと、『打ち上げをしよう!』ということになり、お食事会が開かれることとなった。

「うわあ! 凄ーい! これ全部、メイちゃんが作ったの?」

 そう言ったのは、一段とテンション高めな明芽。
 テーブルに並べられた豪華絢爛な食事を前に、目を爛爛に輝かせていた。

「はい。一応、メイドですから」

 メイド一号はそう笑顔で答え、メイドらしく配膳用カートの傍で控えている。

「さ、さすがね……めちゃくちゃ美味しそう……」
「ふふっ……エミィ様。涎が垂れていますわ」

 口元がお留守なエミリアを、ハルフリーダがナプキンで拭く。同い年のはずが、まるで親子のようだ。

「もう我慢できない! 師匠、乾杯の音頭を!」
「え? 僕?」

 明芽から急に振られ、戸惑うサブロウ。
 当然、この手のことは慣れておらず、かといって彼女たちの視線が揺らぐことはない。なので……

「えーっと、じゃあ……宴も酣ではございますが……」
「いやいや、師匠! それじゃあ終わっちゃいますって! まだ始まったばっかりじゃないですか?」

 グラスを持った頓珍漢なサブロウに対し、明芽は笑いながらツッコミを入れる。

「あー、そっか……。じゃあ、三本締めで……」
「より終わりに向かってどうすんのよ? 大丈夫、サブロウ?」

 格好のつかない大の大人に呆れ眼をぶつけるエミリア。っていうか、普通にタメ口なんだな。

「あれ? 間違えてた? ごめん……あんま慣れてなくって……」
「普通でいいのですよ、普通で」

 情けないおじさんに対しても、ハルフリーダは女神の如く慈愛に満ちており、合わせるようにグラスを持つ。
 他の者たちもハルフリーダに倣い、グラスを持っては再びサブロウへ視線を送る。さあ、そろそろバシッと決めてやれ。

「そう? じゃあ……献杯!」
「ん~……いいでしょう! かんぱーい!」

「「「かんぱーい!」」」

 結局、明芽に持っていかれた哀れなおじさん。
 各々グラスを口に運び、美味なる食事に舌鼓を打つ中、サブロウだけはグラスを上げたまま、死んだような目で固まっていた。



 だいぶ食も進み、談笑する中でサブロウはふと、こんなことを呟く。

「しかし君たち、ほんと強くなったよね~。驚いちゃったよ」
「本当ですか⁉ えへへ~、師匠に褒められちゃったよ~」

 分かり易くデレデレする明芽。
 自分の気持ちを素直に表せるのはいいことだ。

「ほんとほんと。憑依型の召喚魔術を覚えるなんて、明芽くんも目の付け所がおつじゃない」
「えへへへへ~! 私の中で召喚士って非力なイメージがあったんですよね。だから、先ずはそこからカバーしようと思ったんです。よかった~! 合ってたみたいで!」

 明芽を褒めたタイミングで、サブロウは横から服を引っ張る存在に気付く。

「ちょっと……こっちにも何かないわけ……?」

 こっちもこっちで、大分デレ気味になったエミリアが上目遣いで催促してきている。大忙しだなラブコメ主人公。

「あぁ、えっと……エミリアくんは師匠の柔拳法を覚えたんだね。一ヶ月であのキレは大したもんだよ」
「……うん。ありがと……」

 めっちゃデレてるぅー⁉ めっちゃデレてるぞ、サブロウ! もうこれイケるんじゃないか⁉ お泊り会、イケるんじゃないか⁉

「うるさいな……ちょっと黙ってろ……!」

 顔を背け、歯軋りしながらクレームを囁くサブロウ。
 私としては女の子同士の話が見たいだけなのだが、ここまで来るとちょっとしたお祭り気分だった。

「ん? なんか言った?」
「え? あぁ、いや……そういえば【黙令眼】の方はどうなのかなって……」
「う~ん、七割……良くて八割ってとこかしらね。でも、サブロウから貰った【精密活性】のお陰で、何とか実用できそうって感じかな!」
「そう。そりゃよかった」

 さて、こうなってくると、もう一人も褒めなきゃいけない流れ。
 対面に座っているハルフリーダが、うずうずとサブロウを見つめていた。

「ハルフリーダくんは、ある意味一番びっくりしたよ。まさかもうレベル5を習得してるとは……。御見それしたよ」
「お褒めに預かり光栄です、お師匠様」

 ハルフリーダは大層嬉し気に顔を綻ばせ、自然と頭を下げる。

「そして何より……『詐欺師フェイカー』になってるしね?」
「――⁉ ふふっ……お師匠様には隠し事はできませんね。上手く偽装できたと思ったのですが」

 え……? そうなの……?

「ああ。さっきのいかずちはレベル5に偽装したレベル2だった。でも、かなり巧妙だったよ。一号ちゃんを騙したわけだしね?」

 サブロウはそう言いながら、メイド一号に目配せをする。

「ええ。わたくしでも、あの一瞬では判断できませんでした。レベル5を前にして思わず防御を……。まんまと騙されてしまいましたわ」

 ただの姫と思って侮るなかれ。その笑みには……秘密がいっぱい。
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