WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

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第二章

第84話 弟子は師となり、後世へ①

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 サブロウの家――

 懐かしき我が家を前に、立ち止まる

「帰ってきたね、N……」

 ああ、そうだな。身体の調子はどうだ?

「問題ないよ。一年前……いや、きっちり魔天籠に入る前の状態さ」

 そう。サブロウは元の状態へと戻っていた。一人寂しく誕生日を迎えたわけでも、山姥状態になったわけでもない。ま、正確に言えば元の状態まで、年齢をいじくっただけなのだが。

 サブロウは万感の想いで石畳を歩くと、畑仕事に従事する懐かしき相棒、リリスの姿を見つける。

「あ、ようやく戻ってきた……。ちょっとサブロウくん、遅いんじゃない?」

 サブロウに気付いたリリスは、別段怒った様子もなく、寧ろ慣れた手つきで野菜を収穫していた。人ってのは慣れる生き物だね。

「ごめんごめん。っていうか、その……久しぶりだね」
「そお? つっても、たかが一ヶ月でしょ? 久しぶりってほどかしらねぇ~」

 リリスの言う通り、実際外からすれば一ヶ月しか経過していない。ブリッツから聞いた話じゃ、サブロウが魔天籠に入って出てきたのが、ほんの一時間くらいとのこと。そこから淵源中毒で寝たきりだった結果が一ヶ月だ。

「だよね……。まあ、なんにしても助かったよ。畑の世話してくれてさ。で……彼女たちは今?」
「異空間で修行中よ。玄関からどうぞー」

 もはや畑仕事に何の疑問も持ってないリリスは、流れ作業の中で玄関を指差す。

「どうも」

 サブロウは玄関まで歩いて行き、久方ぶりに再開する弟子たちを前に気持ちを整え、いざその成果を見届けんと扉を開ける。

 すると先ず、目に入ってきたのは――

「執行――【コンコン・ビウィッチ】!」

 転輪する白文字と共に聖剣を構える明芽の姿。
 その輝きを己が身体に宿すと、可愛らしい頬ヒゲと耳、そして九つの尾をちょこんと生やし、自分自身を化け狐として召喚してみせた。

 次いで目に映ったのは――

「執行――【滅我邪気・霞めがじゃき・かすみ

 転輪する金文字からドリンク剤を生み出すハルフリーダの姿。
 飲み干すや否や身体は透明になり、瞬く間に戦場から姿を消す。

「どうやらマスターしたようですね、お嬢様方!」

 そう言ったのは彼女たちの臨時監督官ことメイド一号。
 その成長っぷりに笑みを零しつつ、明芽へと一気に距離を詰める。

「行くよ! メイちゃん!」

 明芽は九つの尾を伸ばし、詰め寄る一号を迎撃。
 しかし、メイド一号は身を翻しながら、華麗にそれを避けていく。

「その程度ではわたくしを捕らえられませんよ!」

 結果、メイド一号に手が届きそうな距離まで接近を許してしまう。だが――

「それはどうかな?」

 明芽のその面持ちは笑みに満ちていた。……エミィだけに。

「ソフィア流柔拳法――【灯籠流し】!」

 両者の間に瞬時に割って入ったのはエミリアだった。
 魔術ではなく体術を用いたその受け流しは、まるで空間を入れ替えたかの如く、メイド一号を明芽の後方へと吹き飛ばす。

「ありがとう! エミィちゃん!」

 明芽は直ぐに追撃せんと、振り返っては九つの尾をメイド一号へ伸ばす。

「厄介ですこと……!」

 メイド一号は上方へ跳躍し、一時退避する――が、その時、視界の片隅で光る金文字に気付く。
 何もない空間からドリンク剤が投げられ、明芽を飛び越えたエミリアがそれを掴むと、飲み干した瞬間――身体中にいかずちを纏う。

 そしてエミリアは、その雷を足に一点集中。宙返りした勢いのまま――

「――なっ⁉」
「ソフィア流柔拳法――【月面墜とし】ッ‼」

 落雷の如き蹴撃をメイド一号にお見舞いした。

 咄嗟に防御したにせよ、メイド一号はかなりの勢いで床に叩きつけられてしまう。室内に走るブロックノイズが、その威力を物語っていた。

 着地したエミリアは息を弾ませ、その横に各々魔法を解除した、明芽とハルフリーダが立ち並ぶ。

「凄いよ、エミィちゃん! こんなバッチリ決まったの初めてじゃない?」
「はぁはぁ……確かにそうね……。ハルが雷を付与してくれたお陰よ……」
「とんでもございません。明芽様がゲームメイクしてくれたからこそ、間隙を縫うことができたのです」

 明芽、エミリア、ハルフリーダは互いを称え、笑みを交わし合う。

「フフ……よもや、ここまで成長なさるとは……。いいでしょう、合格です」

 そんな彼女らにメイド一号は、スカートをはたきながら立ち上がり、免許皆伝の旨を伝えた。

「本当ですか⁉ やったぁー! 初めて合格貰えたよぉー!」
「ハハッ……ま、エミィたちなら当然ね……!」
「何物にも代えがたい達成感……! こんな気持ちは初めてです!」

 明芽、エミリア、ハルフリーダが抱き合う中、我らおじさんチームはというと……

((いや……なんかメッチャ強くなってるぅー⁉))

 ただただ置いてけぼりを喰らうばかりであった。
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