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第二章

第81話 師匠と兄弟子と、その弟子と①

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 さて、宴もたけなわと解散した傭兵たち。
 サブロウも嘗ての盟友たちと挨拶を済ませ、今はブリッツと共にソフィアの居室前へと赴いていた、のだが……

「おい――おい――おい――楽し――そうだった――なあ――サブ?」

 一つ一つの語尾と共にサブロウの頭をポムポム叩くブリッツ。

「あの――兄貴――なんか――怒って――ます?」

 ブリッツはグワシっ! と頭を掴むと、目線を合わせるように7歳の少年へガンを飛ばす。

「別に? ……なんで?」

 ブリッツはサブロウの髪を綺麗に七三に分け、直後――フゥッ‼ と息を吹きかけ、髪を乱れさせる。

「ハァ……兄貴は僕が一位を取ってる姿が見たいんですよね? だったら別に、さっきのは何の問題もないんじゃ――」

 ブリッツは又もやグワシっ! と頭を掴み、大人げなく7歳の少年へガンを飛ばす。

「確かにそうだ……でもなッ! 一位はお前でも殿堂入りは俺なんだよ? 俺があっての、お前! そのことを忘れるな……わかったかッ⁉」
「……ハイハイ」

 めちゃくちゃ根に持ってるとこ悪いが、そろそろ行った方がいいと思うぞ? 向こうはもう、とっくに感づいてるみたいだからな。

「チッ……なら、さっさと済ませるぞ。こんな場所で長居してちゃあ――気分が悪いからなッ‼」

 ブリッツはノックもせず、居室の扉を蹴破るや否や、掴んでいたサブロウを――全力で放り投げた。

「なんでそうなるのぉおおー⁉」

 サブロウ少年は宙を舞った。割かし命の危機を感じていたのか周りがスローモーになり、両サイドに並ぶ驚いたメイドたちの顔が目に焼き付く。

 それらに目を奪われた結果、サブロウ少年は敢え無く最奥のベッドまで飛ばされ、直後――ふわりとした感触に包まれた。

(うぅ……息苦しい……。でも、凄くいい香りが……)

 サブロウは最初、布団かと思ったらしい。でも、すぐに違うと気付いた。何故ならこの感触は、あらゆる赤子が触れるであろう、柔らかさに酷似していたからだ。

「ぷはぁ……! はぁはぁ……」

 サブロウは直ぐにそのから顔を離し、自分を見つめる存在へと視線を合わせる。

「サブ……なのか……?」

 目の前に御座すこの方を何方と心得る。恐れ多くも【常世の居城ブラック・パレス】の城主――ソフィア公にあらせられるぞ!

 デ~ン、デレレ~レ~ン……カンカンカンカンカン……。

「お前はBGMも担当するのか……」

 ごほん……えー、呆れ眼で見つめるブリッツはほっといてね。ようやくその姿をお目見えさせたのは、何を隠そうサブロウの師匠、ソフィアであった。

 見た目は完全に花魁のそれ。孔雀の羽が縫われた真っ赤な着物を、うなじから肩、胸元に掛けて大胆に開く、少々刺激的な着こなし。

 白塗りしていないにもかかわらず、紅の似合う白き肌が印象的で、黒く艶のある長髪を花飾りで結っては側頭部で纏めていた。

「し、師匠……お久しぶりです……」

 それはサブロウでさえも思わず見惚れてしまうほどの美貌で、可愛いか綺麗かで言ったら間違いなく綺麗系だ。特にそのシャープな眼差しが、より顕著にそう思わせた。

「サブ……」

 そう語るソフィアは何かに気付き、徐々に視線を落とす。
 サブロウもそれに釣られ、緩やかに視線を落とすと――己が手が、たわわな胸部を鷲掴みしていることに気付いた。

「――なっ⁉ すみません! 師匠! これはその……事故で……」

 すぐさま手を離すラブコメ主人公サブ。
 対するソフィアはわなわなと紅潮し、周りのメイドたちも頬を染めながら、ドキドキと成り行きを見守っていた。

 さて、この後のラブコメ主人公の流れは大体こう。

 ①『何すんのよ、この変態っ‼」

 ②『キャー! サブロウさんのエッチー!』

 ③『強くなりたくば、喰らえ‼』

 ④『オレにはもう乳揉みそれが……よく分からんのよ……!』

 ⑤『それは おじさんの きんのたま! ゆうこうに かつよう してくれ!』

 さあ、サブロウの明日はどっちだ⁉

「楽しんでんな、お前……」

 呆れ交じりのブリッツを余所に、ソフィアは恍惚な表情を浮かべ、着崩していた着物をはらりと落とした。

「手こずっているようだな、手を貸そう……」

 正解は変態ゲドでした。
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