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第二章

第77話 前作主人公おじさん、ショタになる①

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 僕は前作主人公おじさん、サブロウ。
 腐れ縁のNと魔天籠へ行った矢先、兄貴分であるブリッツに『ZERO計画』の施行を目撃されてしまった。

 『ZERO計画』に夢中になっていた僕は、襲い来る幻惑の魔の手に気付かなかった!

 僕はなんだかんだあってカオスコードを申請し、目が覚めたら――体が縮んでしまっていた!(裏声)

 サブロウが七歳の子供になったと奴にバレたら、また命を狙われ、周りの人間にも危害が及ぶ。

 Nの助言で正体を隠すことにした僕は、一号くんに名前を聞かれてとっさに――『ヤスモト』と名乗り、奴らの情報を掴むために、父親が探偵をやっているというていで一号くんの家に転がりこんだ。

 Nは小さくなった僕のために…… アレだ……色々した! いっぱいした! そりゃあもう、優秀なサイドキックってなヤツだった!

 たった一つの弟子を守り抜く、見た目は子供、心はおっさん、その名は――前作主人公おじさん、ヤスモト!

「勝手に変な実況ッ――入れるなあぁぁああぁあぁぁあッッ‼」

 ワシじゃよ、ヤスモト。

「誰だよ、ヤスモトって⁉ 知らないんだよ! 度々、出てくるけどもッ‼」

 あなたは死なないわ。私が守るもの。

「それ新世紀の方ね! 中の人同じで、ごっちゃになってるから!」

 さあ、というわけで七歳の状態まで戻ってしまったサブロウ少年。
 姿見には無精髭の生えていないサラサラヘアーの少年が映し出されており、服もいつものオーバーオールではなく、大人用でぶかぶかの白Tへと変わっていた。

 何故、このような事態に陥ってしまったのか? それは目覚めた眠り姫にでも解説してもらうことにしよう。

「あれ……? 起きたんだ、サブロウおじさん……。ふぁ~ぁ……おはよ~う……」

 起きた一号くんはぺたんと座り、何故かというべきか当然というべきなのか、白のベビードールを着用していた。
 目をこすりながらズレた肩ひもを直す仕草に、サブロウは七歳という若さで……精通した。

「してねえよ、バカ。ほんと殺すぞ」
「どうしたのぉ、サブロウおじさん……? そんな目くじら立てて……」

 ぽわぽわした状態で問う一号くんにサブロウは幾分か調子が狂い、盛大な溜息を吐いては無理やり気分を落ち着かせる。 

「えっと、どこからツッコめばいいんだろう……。取りあえずここは何処……って、一号くんの家だよね?」
「うん。サブロウおじさんの家を真似て自分で建てたんだよ。凄いでしょ?」
「へ、へぇー……」

 一号くんの家は白い巨花の上に建てられており、その周囲には更に一面の花が咲き誇るという親子丼状態。花の香りが鼻腔を擽ったのも頷けるほどだった。

 しかし、サブロウにとってはそんなことどうでもよかった。
 それよりも一度も招いたことがない一号くんが、なぜ自分の家の間取りを知っているのかの方が気になり、妙な悪寒でそれどころではなかった。

「……で、なんで僕は子供の状態になってるのかな……?」

 サブロウはジト目のまま、そう問う。

「そっか。さすがにそこまで覚えてないよね……。サブロウおじさん、カオスコードの淵源中毒で死にかけの状態だったんだよ? それをうちのボスが魔天籠の時空の歪みを利用して、サブロウおじさん自体の時間を戻そうとしたの。そしたら……」
「子供時代まで戻っちゃったと……?」
「そゆこと」

 後頭部を掻きむしり、うんうん唸るサブロウ。
 落ち込んでいるのは子供姿に戻ったからではなく、己の不甲斐無さゆえだった。

「兄貴でさえ魔天籠の時空の歪みは扱いきれない……。生きてるだけマシだったってことか」
「そうだね。下手したら存在自体が消えてたかもしれないし、ボスも結構ギリギリだったって言ってたよ」
「そっか……あとで御礼言っとかないとなぁ」
「そうだね……」
「…………」
「…………」

 妙な沈黙が流れる室内。
 正直、ここまでも充分問題のあるお話だったが、ここからがサブロウにとっての……一番の問題。

「で、一号くん。本題なんだけどさ……」
「うん」
「なんで僕、一号くんの隣で寝てたの?」
「…………」

 目を逸らす一号くん。

「変なことしてないよね?」
「…………」

 一号くんはベッド横に備え付けてあった窓に肘をかけ、照らす朝日を眩しそうに見つめている。

「あの……」
「サブロウおじさん……」
「うん……」
「……おめでとう」
「何が⁉」

 こうしてサブロウ少年は一つ、大人の階段を上ったのだった。
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