上 下
76 / 117
第二章

第75話 前作主人公おじさん、さすがに死ぬ①

しおりを挟む
 身体に巻き付いていた紫文字はサブロウの周囲を渦巻くように転輪。
 それが大きく広がるにつれ、後方の大地からは巨大な如来像が木々を薙ぎ倒しつつ顕現し、宙へ浮かんでいく。

 座禅を組み、法界定印を結びながら燃え盛る二重円光を背に宿す神々しき姿。
 背後には巨大な球体型の宇宙と、それを取り囲むように配置された、小さな八つの宇宙を引き連れており、森羅万象が如き並々ならぬ存在感を世界に知らしめていた。

「わざわざ喧嘩吹っ掛けてくるから、どんな隠し玉持ってるかと思ったら……まさか、『カオスコード』とはなぁ、サブ?」

 ブリッツは天を見上げながら、内から溢れる喜びを面持ちに宿している。

「【六合王・法界如来りくごうおう・ほっかいにょらい】……。煩悩に塗れし者を瞑想状態に移行させ、心を静め、無に誘う六合魔術。この力は、。この意味、分かりますよね……兄貴?」
「この世界のみならず、別世界の思考まで作り変えようってんだろ? ったく……そんなことしたら、どうなるか分かってんのか?」

 その反応に笑みを浮かべるサブロウ。
 だが、かなり無理をしている様子だ。目が据わり始めている。

「皆、無になり……争いが無くなって……平和になる……。天下泰平の到来ですね……」
「ハァ……あのなぁ、サブ。人ってのは争うことで進化してきたんだ。それをお前は、ただの弟子の為に今、奪おうとしてんだぞ? そりゃあ、つまり世界を滅ぼすのと同じこ――ッ⁉」

 そこまで言って、ブリッツは漸く気付いた。
 結果はどうあれ、図らずも自分の思い通りに事が進んでしまっていたことに。

「そう……僕は兄貴の言う通り、世界を蹂躙してるだけなんですよ。これでみんな戦わずに済む……。兄貴も引退ですね?」
「違う! 俺が言ってるのは、そうじゃなくてだな……!」
「なら、認めてください。『ZERO計画』を……――ゔッ⁉」

 しかし、サブロウの祈りを捧げる手は震え、体表が所々、紫に変色し始めていく。

 サブロウっ! 『淵源中毒えんげんちゅうどく』だ! これ以上はマズイ! 死ぬぞっ⁉

「Nの言う通りだ、サブ! お前の命を懸けるほどの価値が、その弟子たちにあるとは思えん! 今すぐやめろ!」

 烈風舞う中、ブリッツも些か焦燥感を見せながら立ち上がる。

「価値があるとかないとか、そんなんじゃないです。ただ……」
「ただ……?」

 サブロウは襲い来る中毒症状に顔を歪ませつつ一拍置き、


「僕まで『子』を見捨てちゃ……お終いでしょうよ?」


 自嘲気味に、そう告げた。

「サブ……」

 サブロウ……

 嘗て親に売られたからこそ出る強き言葉に、思わず立ちつくすブリッツ。
 今ならこの私にも分かる。こいつの頑固な信念に綻びが生じているのを。

「ヴg――ギfsギmhビpアrグゥj――ガgアdkッッ⁉」

 だが、それを待つよりも先に、サブロウの身体からブロックノイズが走り始める。
 目の焦点は合わず、動作がカクつき、紫斑した皮膚が剥がれては宙に浮いていく。

 ブリッツ‼ もう限界だッ‼

「わかった、わかったッ! 俺の負けだ! だから、もうやめろ! サブ!」
「ZZZ――ZERO計――けけけ――KEイ画――を――認メ――マスカ――?」
「ッ…………!」

 ブリッツッ‼

「ッ……わかったよ! 他次元まで人質に取られちゃあ、しょうがねえ。認めてやるよ……『ZERO計画』を」
「Aリ――ガgガ――トウゴZAI――m――ス――……」

 サブロウは最後にフッと笑みを零す。

 天を支配していた如来像は光の柱となって空に消え、雨を降らせていた雲を退かすように掻き消していく。

 一面の青空、太陽、そして虹をバックにサブロウは、立ったまま電源が落ちたかのように――沈黙した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...