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第二章

第74話 前作主人公おじさん、死ぬほど頑張る⑤

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 サブロウ渾身の一撃は周囲の大地を抉り、後を追うように耳を劈くほどの爆音を響かせる。

 大小様々な瓦礫が宙を舞い、雨粒を弾き返すその光景は、何物にも代えがたいカタルシスを感じさせ、その瞬間だけはまるで時が止まっているかのようでさえあった。

 そんな演出も重力の影響を受け、雨粒、瓦礫共々、ほどなくして落ちていく。
 徐々に場が収まると、絶え絶えになるサブロウの息遣いが、雨音と共に微かに聞こえてくる。

 サブロウは掴んでいた手を離すと、ふらつく足取りで近場の倒木に身を寄せ、倒れ込んだ。

 大丈夫か、サブロウ?

「ああ……なんとかね……」

 しかし、よくやったな。いつ【虚蝉うつせみ】を仕込んだ?

「兄貴に育てた理由を聞かされて……俯いた時さ……」

 なるほど。あの時に【黙令眼もくれいがん】で……大したもんだ。

「……へっへっへ! ほんと、お前は大した奴だぜ――サブ?」

 なっ……⁉ そんな……

「バカなッ……⁉」

 そう言ったのは、まるで効いていないかの如く歓喜の声を上げるブリッツ。
 埋まっていた上半身を引き抜くと、髪に着いた土を払うように身を振り、首周りを柔軟しながら何の気なしに立ち上がってみせた。

 私とサブロウは愕然とした。いくら弱っているとはいえ、即死級の技。それがこうもあっさり無に帰せば、驚くなという方が無理というもの。

 ブリッツは気だるげに吐息を漏らしつつ、近場の倒木を見つけてはサブロウの対面に腰を下ろした。

「なあ、サブ。お前、さっき俺と同じだと……そう言ったな?」
「え……ええ……」

 前屈みで指を組むブリッツは対話の姿勢に移り、サブロウは若干戸惑いを拭いきれぬまま、それに応じる。

「確かに俺とお前は弟子を持った。だが、根本的に違うものがある。お前は仲良しこよし、全員が一等賞取れれば、それで満足。そうだろ?」
「…………」
「でも、俺は違う。俺は全員じゃなく――お前が一位を取っている姿が見たいんだよ」
「……なんで僕が?」
「お前は俺にとっての最高傑作だ。それがこの世界……いや、ありとあらゆる世界で何処まで昇れるのかを見届けたい。だから誘ってるんだ。よく言うだろ? 旅は何処に行くかじゃなく、誰と行くかってな?」

 そこに先程までの冷酷さはなく、異質だが……ほんの少しだけ愛を感じさせた。

「もし、お前が一緒に来るっつーなら、『ZERO計画』を認めてやらんこともない。どうだ? 悪くない話だろう?」

 押し黙るサブロウに、さらに追い打ちをかけるブリッツ。

 どうする、サブロウ? 奴が認めるなんてそうそうないことだ。もし、お前が乗ると言うのなら……私もついていくぞ。

 サブロウは私からの問いかけにも暫し沈黙を貫く。
 それはどうするか考えを纏めているというより、覚悟を決めるための時間を欲しているかのような……そんな様相だった。

「N……をやるぞ」

 アレって……正気か? その身体じゃ、碌な展開が待ってないぞ?

「真正面からやっても勝機はないんだ。もうこれしかないッ……!」

 ………………。

「頼むッ……‼」

 ハァ……どうなっても知らんぞ……!

 同意する私に笑みを向けながら、サブロウは痛む身体を押し上げる。

「誘いには乗らないってことか、サブ?」
「すみません、兄貴。彼女たちはまだ子供なんで……。責任もって見てあげないと」

 天に向けて手を掲げるサブロウ。

(何をするつもりだ……?)

 探るように目を薄めるブリッツ。
 その隙にサブロウは私と同時に魔天籠へ申請を行う。 

「アクセスコード005、006――」

 007を接続……『融合申請』ッ!

 手の平で転輪する赤文字は同色の稲妻と共に不規則に広がり、やがてそれはどのレベルにも該当しない『紫色混沌』へと姿を変え、サブロウの身体に巻き付いていく。

「融合申請……? まさか……」

 当然、ブリッツは知らないだろう。何せ、ぶっつけ本番。今まで見せたことのない技だからな。

「行きますよ兄貴……『カオスコードΣシグマ』を申請ッ!」

 カオスコードとは――

 代行者権限を三つ所持している者のみが使える最高権限で、何人たりとも侵すことのできない絶対なる申請。

 本来ならブリッツのみに与えられた権限だが、私とサブロウのコードを融合することで疑似的にカオスコードを生み出し、システムの穴をついて無理やり承認させる荒業中の荒業。

 そう。全てはブリッツをこの世界に押し留める為、編み出した絶技。解説終了――

《承@@s:p認:s:w完sal;]@了jczl;》

 天の許しを得たサブロウは両手を組み、願うかのようにその名を告げる。

「執行――【六合王・法界如来りくごうおう・ほっかいにょらい】」
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