WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

文字の大きさ
上 下
74 / 117
第二章

第73話 前作主人公おじさん、死ぬほど頑張る④

しおりを挟む
 ――サブロウ! 起きろ、サブロウっ‼

「ん……うぅ……ここは……?」

 目が覚めたか、サブロウ! さすがに心配したぞ……

 大雨の中、大木に身を預けていた傷だらけのサブロウ。
 周囲は打倒された木々によって、ある種の空間が確保されており、決戦のステージといった様相を醸し出していた。

「ようやく戻ってきたか。哀れな馬鹿弟子よ」

 正面には冷ややかに此方を見つめるブリッツが佇んでおり、地面には真っ直ぐ引きずられたような跡が伸びていた。

「Nッ……どういう状況か……説明してくれ……」

 どうやら、本格的に幻惑魔術の世話になってたみたいだな。お前は一号くんを助けたあたりで、こちらの声に反応しなくなった。ブリッツは何食わぬ顔で地獄から舞い戻り、意識のないお前を再起不能に……。結果、植え付けた【古椿之霊植ふるつばきのれいしょく】は解除され、その後はまあ……見ての通り完膚なきまでブッ飛ばされて今の状態さ。覚えてないか?

「ああ……。全然……気づかなかったよ……」

 恐らく魔天籠から出た時点で既に仕掛けられていたんだろう。私でさえ読み取ることができなかった。やはり、奴は格が違う。……完敗だ。

「へこむね……。できることなら、これも幻であってほしいよ……」
「残念だが、これは『現実』だ。お前は己の弱さを受け入れ、出口を見つけただろう? ま、戻ってこれたことくらいは評価してやるよ」

 ただ淡々と表情を変えずに告げるブリッツ。
 しかし言葉とは裏腹に、辺りの空気は若干ピリつきだしていた。

 長い付き合いだ。流石にサブロウも直ぐに気づき、負けじと身をよじりながら、ゆっくり立ち上がっていく。

「失望しましたか……兄貴?」
「当然だ。何の為に強くしてやったと思ってんだ。それをお前は『ZERO計画』なんぞの為に衰えちまいやがって。情けねえ……」
「僕は兄貴に教わったことを、弟子に伝えたいだけです」

 預けていた身体を離し、ゆらゆらと揺れながら、ブリッツの下に歩み出すサブロウ。

「弟子だと? 『ZERO計画』が必要な奴なんざに構えと教えたつもりはない」
「じゃあ、何で兄貴は――僕を育てたんですか?」

 サブロウは毛皮の羽織を掴み、真剣な眼差しでブリッツを見上げる。

「僕だって才能はなかった筈です! 誰よりもッ……! なのに何故⁉」

 続けざまに問うサブロウ。
 それに対しブリッツは、正面を見たまま視線を合わせない。

「あの時のお前は言葉も分からなければ力もない、ただのガキだったからさ。おまけに頼れる先もないとなれば、どれだけの苦行が待っていたとしても、戻ってこざるを得ない。それに、あの時のお前には復讐心があった。自分の全てを伝えるに相応しい環境が揃っていたからこそ、俺はお前を育てた。ただ、それだけのこと」

 その言葉に嘘はなく、愛もない。
 多少なりとも傷ついていることが、俯くサブロウから窺える。

「僕も相応しい環境を整えようとしているだけです。兄貴と同じように――ッ⁉」

 そう告げた瞬間――サブロウの首はブリッツに掴まれ、軽々と持ち上げられてしまう。

「お前と一緒にするな――【他下自在拳たげじざいけん】ッ‼」

 かと思いきや唐突に離され、ブリッツは振りかぶった手を目一杯握り締めたのち、その鉄拳をサブロウの腹目掛けて全力で撃ち出した。

 突き出された拳は肉眼では捉えきれず、傍から見れば振りかぶった状態のまま、微動だにしていないように見えた。
 しかし周囲に広がる雨粒の波動と耳鳴り、そして吹き飛ばされていくサブロウの無惨な姿が、そうではないと実感させる。

 放たれた人間大砲によって切り開かれた大道は、まるで木々たちが自ら避難するかの如き異質な光景で、その身一つで繰り出される技には到底思えなかった。

 開拓を終え、沈黙するサブロウ。
 ブリッツは一歩踏み出すだけで、瞬時にサブロウの下まで移動。眼下に捉える。

「さすがに死んだか? ……ん?」

 だが、ブリッツは直ぐに違和感に気付く。
 腹が陥没しているサブロウの身体が、常人では判別できないほどの、精巧に作られた抜け殻だと。

(これは……【虚蝉うつせみ】ッ――)

 倒れていた抜け殻が晩夏に消えた瞬間、後方に羽化したサブロウはブリッツの後頭部を掴み――

「【大地惨衝だいちさんしょう】ッ‼」

 今までやられた分も上乗せして、大地へと叩きつけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...