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第二章
第73話 前作主人公おじさん、死ぬほど頑張る④
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――サブロウ! 起きろ、サブロウっ‼
「ん……うぅ……ここは……?」
目が覚めたか、サブロウ! さすがに心配したぞ……
大雨の中、大木に身を預けていた傷だらけのサブロウ。
周囲は打倒された木々によって、ある種の空間が確保されており、決戦のステージといった様相を醸し出していた。
「ようやく戻ってきたか。哀れな馬鹿弟子よ」
正面には冷ややかに此方を見つめるブリッツが佇んでおり、地面には真っ直ぐ引きずられたような跡が伸びていた。
「Nッ……どういう状況か……説明してくれ……」
どうやら、本格的に幻惑魔術の世話になってたみたいだな。お前は一号くんを助けたあたりで、こちらの声に反応しなくなった。ブリッツは何食わぬ顔で地獄から舞い戻り、意識のないお前を再起不能に……。結果、植え付けた【古椿之霊植】は解除され、その後はまあ……見ての通り完膚なきまでブッ飛ばされて今の状態さ。覚えてないか?
「ああ……。全然……気づかなかったよ……」
恐らく魔天籠から出た時点で既に仕掛けられていたんだろう。私でさえ読み取ることができなかった。やはり、奴は格が違う。……完敗だ。
「へこむね……。できることなら、これも幻であってほしいよ……」
「残念だが、これは『現実』だ。お前は己の弱さを受け入れ、出口を見つけただろう? ま、戻ってこれたことくらいは評価してやるよ」
ただ淡々と表情を変えずに告げるブリッツ。
しかし言葉とは裏腹に、辺りの空気は若干ピリつきだしていた。
長い付き合いだ。流石にサブロウも直ぐに気づき、負けじと身をよじりながら、ゆっくり立ち上がっていく。
「失望しましたか……兄貴?」
「当然だ。何の為に強くしてやったと思ってんだ。それをお前は『ZERO計画』なんぞの為に衰えちまいやがって。情けねえ……」
「僕は兄貴に教わったことを、弟子に伝えたいだけです」
預けていた身体を離し、ゆらゆらと揺れながら、ブリッツの下に歩み出すサブロウ。
「弟子だと? 『ZERO計画』が必要な奴なんざに構えと教えたつもりはない」
「じゃあ、何で兄貴は――僕を育てたんですか?」
サブロウは毛皮の羽織を掴み、真剣な眼差しでブリッツを見上げる。
「僕だって才能はなかった筈です! 誰よりもッ……! なのに何故⁉」
続けざまに問うサブロウ。
それに対しブリッツは、正面を見たまま視線を合わせない。
「あの時のお前は言葉も分からなければ力もない、ただのガキだったからさ。おまけに頼れる先もないとなれば、どれだけの苦行が待っていたとしても、戻ってこざるを得ない。それに、あの時のお前には復讐心があった。自分の全てを伝えるに相応しい環境が揃っていたからこそ、俺はお前を育てた。ただ、それだけのこと」
その言葉に嘘はなく、愛もない。
多少なりとも傷ついていることが、俯くサブロウから窺える。
「僕も相応しい環境を整えようとしているだけです。兄貴と同じように――ッ⁉」
そう告げた瞬間――サブロウの首はブリッツに掴まれ、軽々と持ち上げられてしまう。
「お前と一緒にするな――【他下自在拳】ッ‼」
かと思いきや唐突に離され、ブリッツは振りかぶった手を目一杯握り締めたのち、その鉄拳をサブロウの腹目掛けて全力で撃ち出した。
突き出された拳は肉眼では捉えきれず、傍から見れば振りかぶった状態のまま、微動だにしていないように見えた。
しかし周囲に広がる雨粒の波動と耳鳴り、そして吹き飛ばされていくサブロウの無惨な姿が、そうではないと実感させる。
放たれた人間大砲によって切り開かれた大道は、まるで木々たちが自ら避難するかの如き異質な光景で、その身一つで繰り出される技には到底思えなかった。
開拓を終え、沈黙するサブロウ。
ブリッツは一歩踏み出すだけで、瞬時にサブロウの下まで移動。眼下に捉える。
「さすがに死んだか? ……ん?」
だが、ブリッツは直ぐに違和感に気付く。
腹が陥没しているサブロウの身体が、常人では判別できないほどの、精巧に作られた抜け殻だと。
(これは……【虚蝉】ッ――)
倒れていた抜け殻が晩夏に消えた瞬間、後方に羽化したサブロウはブリッツの後頭部を掴み――
「【大地惨衝】ッ‼」
今までやられた分も上乗せして、大地へと叩きつけた。
「ん……うぅ……ここは……?」
目が覚めたか、サブロウ! さすがに心配したぞ……
大雨の中、大木に身を預けていた傷だらけのサブロウ。
周囲は打倒された木々によって、ある種の空間が確保されており、決戦のステージといった様相を醸し出していた。
「ようやく戻ってきたか。哀れな馬鹿弟子よ」
正面には冷ややかに此方を見つめるブリッツが佇んでおり、地面には真っ直ぐ引きずられたような跡が伸びていた。
「Nッ……どういう状況か……説明してくれ……」
どうやら、本格的に幻惑魔術の世話になってたみたいだな。お前は一号くんを助けたあたりで、こちらの声に反応しなくなった。ブリッツは何食わぬ顔で地獄から舞い戻り、意識のないお前を再起不能に……。結果、植え付けた【古椿之霊植】は解除され、その後はまあ……見ての通り完膚なきまでブッ飛ばされて今の状態さ。覚えてないか?
「ああ……。全然……気づかなかったよ……」
恐らく魔天籠から出た時点で既に仕掛けられていたんだろう。私でさえ読み取ることができなかった。やはり、奴は格が違う。……完敗だ。
「へこむね……。できることなら、これも幻であってほしいよ……」
「残念だが、これは『現実』だ。お前は己の弱さを受け入れ、出口を見つけただろう? ま、戻ってこれたことくらいは評価してやるよ」
ただ淡々と表情を変えずに告げるブリッツ。
しかし言葉とは裏腹に、辺りの空気は若干ピリつきだしていた。
長い付き合いだ。流石にサブロウも直ぐに気づき、負けじと身をよじりながら、ゆっくり立ち上がっていく。
「失望しましたか……兄貴?」
「当然だ。何の為に強くしてやったと思ってんだ。それをお前は『ZERO計画』なんぞの為に衰えちまいやがって。情けねえ……」
「僕は兄貴に教わったことを、弟子に伝えたいだけです」
預けていた身体を離し、ゆらゆらと揺れながら、ブリッツの下に歩み出すサブロウ。
「弟子だと? 『ZERO計画』が必要な奴なんざに構えと教えたつもりはない」
「じゃあ、何で兄貴は――僕を育てたんですか?」
サブロウは毛皮の羽織を掴み、真剣な眼差しでブリッツを見上げる。
「僕だって才能はなかった筈です! 誰よりもッ……! なのに何故⁉」
続けざまに問うサブロウ。
それに対しブリッツは、正面を見たまま視線を合わせない。
「あの時のお前は言葉も分からなければ力もない、ただのガキだったからさ。おまけに頼れる先もないとなれば、どれだけの苦行が待っていたとしても、戻ってこざるを得ない。それに、あの時のお前には復讐心があった。自分の全てを伝えるに相応しい環境が揃っていたからこそ、俺はお前を育てた。ただ、それだけのこと」
その言葉に嘘はなく、愛もない。
多少なりとも傷ついていることが、俯くサブロウから窺える。
「僕も相応しい環境を整えようとしているだけです。兄貴と同じように――ッ⁉」
そう告げた瞬間――サブロウの首はブリッツに掴まれ、軽々と持ち上げられてしまう。
「お前と一緒にするな――【他下自在拳】ッ‼」
かと思いきや唐突に離され、ブリッツは振りかぶった手を目一杯握り締めたのち、その鉄拳をサブロウの腹目掛けて全力で撃ち出した。
突き出された拳は肉眼では捉えきれず、傍から見れば振りかぶった状態のまま、微動だにしていないように見えた。
しかし周囲に広がる雨粒の波動と耳鳴り、そして吹き飛ばされていくサブロウの無惨な姿が、そうではないと実感させる。
放たれた人間大砲によって切り開かれた大道は、まるで木々たちが自ら避難するかの如き異質な光景で、その身一つで繰り出される技には到底思えなかった。
開拓を終え、沈黙するサブロウ。
ブリッツは一歩踏み出すだけで、瞬時にサブロウの下まで移動。眼下に捉える。
「さすがに死んだか? ……ん?」
だが、ブリッツは直ぐに違和感に気付く。
腹が陥没しているサブロウの身体が、常人では判別できないほどの、精巧に作られた抜け殻だと。
(これは……【虚蝉】ッ――)
倒れていた抜け殻が晩夏に消えた瞬間、後方に羽化したサブロウはブリッツの後頭部を掴み――
「【大地惨衝】ッ‼」
今までやられた分も上乗せして、大地へと叩きつけた。
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