73 / 117
第二章
第72話 前作主人公おじさん、死ぬほど頑張る③
しおりを挟む
爆音を奏でる波動はサブロウを中心に、周囲のあらゆるものを吹き飛ばす。
ブリッツの巨体は軽々と奥の壁へ打ち付けられ、大鎌を構えていた死神さえも打ち払うと、サブロウは見事【永獄拷子】の拘束から抜け出してみせた。
「己の姿を取り戻しましたよ、兄貴。それに本来なら、この時点の僕は【闇御津波神】を覚えているほど強くはなかったはず。つまりこれは、どう考えても幻。違いますか?」
サブロウはでんぐり返し状態で壁に身体を預けている兄弟子に近寄り、確固たる信念のもと、見下ろす。
「その言い方だと今のお前が強いみたいに聞こえるなぁ? ハッ……馬鹿馬鹿しい。ま、男なら誰でも強い自分の姿を夢見るものか。それは否定しないでおこう。可哀想だからな。だが、そろそろ……いい加減、現実見るときだぜ? サブ――」
◆
「――ぐッ⁉」
「dlnklin caiood qjweuqiwg boxio」
「これはっ……【語彙変換】が機能していない……?」
「iyur jebraw xbyethw jjreru」
「N……Nッ……!」
「own cwub casbyuwu?」
「クソッ……Nの声まで聞こえない……!」
「uiewfu ef savbbs!」
「――ぐはァッ‼」
大雨の中、兄貴に殴り飛ばされる僕。
地面に這いつくばる泥水の味は、まさしくこの世界に来たばかりの時に味わった底辺のそれ。まさか、ここまで忠実に再現するとは……
「jwebiq kuwbslay?」
ニジュア語はもう既に覚えたはずの言語。
しかし、今や頭の中には靄が掛かっており、翻訳することができないでいた。
身体も七歳の状態に戻っており、偉く重いときてる。鍛えていない普通のガキなら当然か。
僕は血の混じった泥水を吐き出し、なんとか立ち上がる。
「fuwnn……weion ewido san wapuryu fuunn!」
「――ゔッ‼」
みぞおちを蹴られた齢七歳の少年は、当然と言うべきか軽々と宙を舞い、再び底辺へと叩き落された。
「くぞぉ……! ごんな状態じゃ……勝でないっ……!」
うつ伏せで頬を泥にうずめながら、止め処なく出てくる涙。
それは子供だからなのか。もしくは、あの時の惨めさを思い出したからなのか。
「haay savbbs? gauyyu oldannyuu?」
兄貴は僕の傍まで来てしゃがみ込むと、呆れた面持ちで何かを伝えてくる。
正直なところ、何を言っているかは未だ理解できない。
だが、不思議とそれは――『いい加減、現実を見ろ』と言っているように僕は聞こえた。
「『現実を見ろ』って……どういうことだ……?」
【無幻廻牢】は幻に幻を重ね、出口を見つけない限り、永遠に彷徨い続ける魔術。
恐らくその終点がこの場所。僕が一番弱かった時代。
もし、ここで出口を見つけられなければ、永遠に飲まれることになるだろう。
では、出口とは何だ? 出口……出口とはつまり――『現実を見る』ということ?
では、現実とは何だ? どこまでが現実だ? 思い出せ……!
確か僕は彼女たちに魔法を教えようとした。その過程で『ZERO計画』を執行せんと、魔天籠に籠ったはず。そう……一年もだ。
でも、『ZERO計画』は承認されなかった。だから僕は、兄貴と喧嘩することに……。ここまでは間違ってないはず。じゃあ、どこからが幻?
兄貴との会話を思い出せ! 何か……何か手掛かりがあるはず――
――それよりお前、どんだけ籠ってたんだよ。山姥みてえだぞ、それ?――
――一応、一年くらい……――
――一年でそうはならねえだろ。魔天籠は時間の流れを大きく変える。あんまり、のめり込み過ぎないことだ――
僕は漸くその言葉で『現実』に気付き、ハッと目を見開いた。
「ハハッ……なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだ、僕は……」
「kyuzyuu tell eii……savbbs?」
僕は痛みに顔を歪ませながら仰向けになり、絶え間なく降る雨を一心に受け入れる。
「一年やそこらで、あんな髪や髭が伸びるはずないもんな……」
雨粒が顔を打ち付ける度に、己の浅はかさを思い知る。
「つまり、自分が思っていた以上に魔天籠に囚われていた……。そりゃ、弱くもなるか……」
もはや己が無能を噛み締めながら自嘲する始末。
幸い、気恥ずかしさで火照る顔も、雨冷で掻き消されていた。
「そんな奴が最初っから、兄貴に勝てるわけなかったんだ――」
『現実』を目の当たりにした僕は漸く出口を見つけ――元の世界へと引き戻されていった。
ブリッツの巨体は軽々と奥の壁へ打ち付けられ、大鎌を構えていた死神さえも打ち払うと、サブロウは見事【永獄拷子】の拘束から抜け出してみせた。
「己の姿を取り戻しましたよ、兄貴。それに本来なら、この時点の僕は【闇御津波神】を覚えているほど強くはなかったはず。つまりこれは、どう考えても幻。違いますか?」
サブロウはでんぐり返し状態で壁に身体を預けている兄弟子に近寄り、確固たる信念のもと、見下ろす。
「その言い方だと今のお前が強いみたいに聞こえるなぁ? ハッ……馬鹿馬鹿しい。ま、男なら誰でも強い自分の姿を夢見るものか。それは否定しないでおこう。可哀想だからな。だが、そろそろ……いい加減、現実見るときだぜ? サブ――」
◆
「――ぐッ⁉」
「dlnklin caiood qjweuqiwg boxio」
「これはっ……【語彙変換】が機能していない……?」
「iyur jebraw xbyethw jjreru」
「N……Nッ……!」
「own cwub casbyuwu?」
「クソッ……Nの声まで聞こえない……!」
「uiewfu ef savbbs!」
「――ぐはァッ‼」
大雨の中、兄貴に殴り飛ばされる僕。
地面に這いつくばる泥水の味は、まさしくこの世界に来たばかりの時に味わった底辺のそれ。まさか、ここまで忠実に再現するとは……
「jwebiq kuwbslay?」
ニジュア語はもう既に覚えたはずの言語。
しかし、今や頭の中には靄が掛かっており、翻訳することができないでいた。
身体も七歳の状態に戻っており、偉く重いときてる。鍛えていない普通のガキなら当然か。
僕は血の混じった泥水を吐き出し、なんとか立ち上がる。
「fuwnn……weion ewido san wapuryu fuunn!」
「――ゔッ‼」
みぞおちを蹴られた齢七歳の少年は、当然と言うべきか軽々と宙を舞い、再び底辺へと叩き落された。
「くぞぉ……! ごんな状態じゃ……勝でないっ……!」
うつ伏せで頬を泥にうずめながら、止め処なく出てくる涙。
それは子供だからなのか。もしくは、あの時の惨めさを思い出したからなのか。
「haay savbbs? gauyyu oldannyuu?」
兄貴は僕の傍まで来てしゃがみ込むと、呆れた面持ちで何かを伝えてくる。
正直なところ、何を言っているかは未だ理解できない。
だが、不思議とそれは――『いい加減、現実を見ろ』と言っているように僕は聞こえた。
「『現実を見ろ』って……どういうことだ……?」
【無幻廻牢】は幻に幻を重ね、出口を見つけない限り、永遠に彷徨い続ける魔術。
恐らくその終点がこの場所。僕が一番弱かった時代。
もし、ここで出口を見つけられなければ、永遠に飲まれることになるだろう。
では、出口とは何だ? 出口……出口とはつまり――『現実を見る』ということ?
では、現実とは何だ? どこまでが現実だ? 思い出せ……!
確か僕は彼女たちに魔法を教えようとした。その過程で『ZERO計画』を執行せんと、魔天籠に籠ったはず。そう……一年もだ。
でも、『ZERO計画』は承認されなかった。だから僕は、兄貴と喧嘩することに……。ここまでは間違ってないはず。じゃあ、どこからが幻?
兄貴との会話を思い出せ! 何か……何か手掛かりがあるはず――
――それよりお前、どんだけ籠ってたんだよ。山姥みてえだぞ、それ?――
――一応、一年くらい……――
――一年でそうはならねえだろ。魔天籠は時間の流れを大きく変える。あんまり、のめり込み過ぎないことだ――
僕は漸くその言葉で『現実』に気付き、ハッと目を見開いた。
「ハハッ……なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだ、僕は……」
「kyuzyuu tell eii……savbbs?」
僕は痛みに顔を歪ませながら仰向けになり、絶え間なく降る雨を一心に受け入れる。
「一年やそこらで、あんな髪や髭が伸びるはずないもんな……」
雨粒が顔を打ち付ける度に、己の浅はかさを思い知る。
「つまり、自分が思っていた以上に魔天籠に囚われていた……。そりゃ、弱くもなるか……」
もはや己が無能を噛み締めながら自嘲する始末。
幸い、気恥ずかしさで火照る顔も、雨冷で掻き消されていた。
「そんな奴が最初っから、兄貴に勝てるわけなかったんだ――」
『現実』を目の当たりにした僕は漸く出口を見つけ――元の世界へと引き戻されていった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる