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第二章

第70話 前作主人公おじさん、死ぬほど頑張る①

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 視線が鍔ぜり合う、おじさんとおじさん。
 おじさんはおじさんでも、この世界のツートップだ。もはや頂上決戦といっても過言ではない。

 達人同士、気迫がせめぎ合う中、最初に動いたのは――弟子であるサブロウ。

「執行――【梟・餓者髑髏きょう・がしゃどくろ】ッ!」

 手の平を合わせるや否や【黙令眼】を行使し、後方から冥界の瘴気と共に巨大な骸骨を召喚。その大きな手でブリッツを掴み上げる。

「フッ、この程度……」

 ブリッツは涼し気な顔で、巨大な手を抉じ開けようとする。

「執行――【天邪鬼・弁天あまのじゃく・べんてん】ッ!」

 サブロウはすかさず両手を交差させ、眼前に黒い瘴気を纏った障子を出現させる。
 転輪する黒文字と共に両手を広げると、開かれた障子から着物を着たおかっぱの少女が現れ、ゆるり……ゆるりと数歩前に出る。

『逃げちゃうの……?』

 天邪鬼から発せられた言霊により、ブリッツの力は逆転。【梟・餓者髑髏】の拘束が継続される。

「執行――【古椿之霊植ふるつばきのれいしょく】」

 サブロウは隙を与えんと、黒文字の宿る人差し指を投げ縄の如く頭上で回し、真っ黒に輝く転輪をブリッツへと放つ。
 直撃ののち、何層もの輪が広がるとブリッツに収束。左顔面部に椿の花が咲く。

 【古椿之霊植】は植え付けた者の魔力信号を遮断する冒涜魔術。無理やり引き抜こうとすればするほど花は咲き乱れ、何れ死に至らしめる呪いの力だ。しかも冒涜魔術は執行者を無力化しない限り解除することができない。これでブリッツの魔術は封じた! 今がチャンス!

「執行――【閻魔王庁直通臨界地獄門えんまおうちょうちょくつうりんかいじごくもん】……!」

 サブロウは足元の花に両手をつくと、ブリッツの後方に黒文字の渦を生み出し、そこから巨大な地獄門を呼び出す。
 黒を基調とした和風テイストの門。その扉には閻魔の荘厳なる形相が描かれており、今にも罪を裁かんと品定めしているかのようだった。

「兄貴分を地獄に送るか……。俺の教えがしっかり行き届いてて嬉しいぜ、サブ!」
「なら認めてくれませんかね? でないと、このまま【梟・餓者髑髏】と共に地獄へ帰ってもらうことになりますが?」
「おお、構わねえぜ。久しぶりに閻魔の野郎へ、ちょっかい掛けに行くのも悪くねえ。ヘッヘッヘ」

 その余裕な態度を前に、サブロウは両手を交差させるように円を描く。

「執行――【ヤマラージャの契り】」

 瘴気の溢れる円からは手形のついた台座が現れ、その爪先部分には管のある鋭利な細針が取り付けられていた。
 立ち上がったサブロウは迷うことなく台座に手を置き、五指の先についている細針を全て受け入れる。

「――ッ!」

 爪の中にグジュグジュと入り込む針に顔を歪めながら、管の中へ流れていく血が契約者のものかどうかを識別。承認が完了すると痛々しい手が解放され、地獄門が開門する。

 開くや否や凍てつく冥風が吹き荒び、呼応するように【梟・餓者髑髏】が我が家へと帰還し始める。

「うぅ~、寒ぃいい~! ハッハッハァッ! じゃあな、サブ! またな――」

 ブリッツの不敵な笑みを残し、地獄門は閉門。
 黒文字の渦へ消えていくと、台座も瘴気の中へと降りていった。

 天邪鬼ちゃんは振り返るなり、サブロウへゆるりと近寄る。
 血の出ている指先の前でしゃがむと、『血がいっぱい……』と言霊を残し、消えていった。

「ふぅ……ありがとう」

 サブロウは止血された指先を見つめながら感謝を述べ、拳を握り締めると直ぐさま執事一号くんの下へ駆け寄る。

「執行――【深層乖離しんそうかいり】!」

 サブロウは傷ついた手とは逆の指先から黒文字を伸ばし、一号くんが磔にされている空間を掴む。
 そのまま一気に引っ張ると、空間がまるで鏡のように割れ、魔力信号を遮断。【罪背磔刑ざいせたっけい】を無力化すると、落ちてきた一号くんを抱きかかえた。

「大丈夫、一号くん?」
「大丈夫、大丈夫! ボスは今、お爺ちゃん化してるし! だからサブロウおじさんも、このタイミングで来たんでしょ? すぐ作ってくるから待ってて!」

 そう言って一号くんは、魔天籠ダッシュよりダッシュで走り去っていった。

 へえ、デートか――あれ?

「これは……まさか⁉」

 周囲に広がっていたのはジャングルが生い茂る緑の光景……ではなく、どこかで見た薄暗い空間。

 そう。ここは紛れもなく魔天籠の内部。その一年前の光景であった。
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