WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

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第二章

第69話 前作主人公おじさん、めっちゃ頑張る④

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 魔天籠まで轟き渡る兄弟子からの一声に、空間内は怯えているかの如き振動を見せる。
 考えうる中で最悪のケース……。ブリッツがグロッキー状態から復帰してしまったようだ。

「ハァ……やっぱ、そう上手くはいかないか……」

 強張った顔で振り返るサブロウは、項垂れながら階段を上がっていく。

 どうする? 家に戻ってリリスを連れてくるか?

「行かしてくれないでしょ……。経験から言って、ここは大人しく言うこと聞いといた方がいい」

 その様相は死地に向かう男のそれ。
 サブロウは階段を上がりきると、壁に手を触れ、扉を開ける。

 直後、心地よい風が通り抜けてゆき、煌めく太陽が身体を照らす。
 目の前には一面に広がる緑の木々と色とりどりの巨花があり、魔天籠から眺めるこの景色は、こんな時でなければ一見の価値があると言えるだろう。

 清々しささえ感じるほどの陽気……。本来なら一年ぶりの外出に心躍らせるところだが、眼下の花の上に佇む男がそれを許さなかった。

「「「「「久しぶりだな、サブ? ちょっと、こっちこいや」」」」」

 拡声器でも使っているかのように轟くブリッツの声。
 対するサブロウは逆らうことをせず、ただ素直に飛び降りていく。

 花の上に着地すると眼前には、しわっしわのお爺ちゃん……ではなく、百獣の王状態のブリッツが仁王立ちしており、横には十字架に括りつけられている一号くんがいた。

「サブロウ……おじ……さん……」

 一号くんは見るからにボロボロの状態。無理もない……あれは確かレベル6の拷問魔術――【罪背磔刑ざいせたっけい】。磔にされたが最後、逃れることはできず、魔力信号も遮断。つまり、魔法が使えなくなってしまうのだ。

 対象者は常時、呼吸困難状態に陥り、食事は全て己が排せつ物により賄われ、循環する。その為、【永獄拷子えいごくごうす】同様、死ぬことがない。いや、許されないと言った方が正しいか。

 しかし【永獄拷子】の方は、まだ解除できる見込みがある。それに廃人状態まで行けば、基本的に痛みを感じなくなるので、辛いのは最初だけだったりする。

 だが【罪背磔刑】は、その時点で設定された寿命まで磔の状態。精神的苦痛と緩慢な死を強制させられる、拷問魔術の中でもトップクラスの技なのだ。解説終了――

「一号くん……。だから、サボらない方がいいって言ったのに……」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……! だから、お願い……助けてっ……!」

 顔面蒼白の一号くんも、もう限界といったところ。これじゃあ、まるで人質だな。

「兄貴、一号くんのことはもう……」

 今の機嫌を確かめるようにと、恐る恐るブリッツへ進言するサブロウ。

「それよりお前、どんだけ籠ってたんだよ。山姥みてえだぞ、それ?」

 しかし、ブリッツは全く意に介さず、指を差しながら呆れ交じりに笑ってみせる。相変わらずのサイコっぷりだ。

「一応、一年くらい……」
「一年でそうはならねえだろ。魔天籠は時間の流れを大きく変える。あんまり、のめり込み過ぎないことだ」
「あ……はい」

 かといえば、心配するような素振り。
 掴みどころがない所為か、サブロウの恐怖心は意に反するように加速し、冷や汗と共に目が泳いでしまう。

「そんな畏まるなよ。で? 何か俺に言うことあんじゃねえのか?」
「……『ZERO計画』のことですか?」

 一転――ブリッツの目が据わる。

「そうだ。そういうのは先に報告するもんだろ? なに俺が休んでる時に、さらっとやろうとしてんだ。ナメてんのか? あ?」

 抑揚は無いが、沸々と怒りを感じる声色。
 その瞬間、サブロウは逃げられないと察し、大きく息を吐いた。

 いや、今思い返せば最初から逃げるつもりなど、なかったのかもしれない。

 何故なら――

「僕は一号くんに会った時、こう言いました。『兄貴と喧嘩しに来た』と」
「……ほう?」

 その一言はブリッツの頬に、えくぼを浮かび上がらせる。

「言わなかったのはすみません。でも、先にやっといた方が覚悟が決まると思ったんです。――兄貴と殺り合う覚悟が」

 サブロウは腰を落とし、両手を構えると戦闘態勢へ移る。
 それを見たブリッツは――

「ハッハッハッハァッ‼ しょうがねえなぁ~! 弟子にそこまで言われちゃあ、喧嘩しねえわけにはいかねえッ! いいぜ……掛かって来いよ?」

 大層嬉し気に四股を踏み、花弁を揺らす衝撃を闘争開始のゴングとした。
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