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第二章

第68話 前作主人公おじさん、めっちゃ頑張る③

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 二か月後……

 あれから半年……いや、サブロウからすれば一年が経過した。
 まさか、こんなに籠ることになるとは思わなかったが、無事、魔力値の操作も終え、今は最終段階のダブルチェックの作業、その最後の時を迎えようとしていた。

「ようやくここまで来たね……N」

 ああ、そうだな。お前はよくやったよ……。そんな状態になるまで。

 そう。今やサブロウはキングオブデュエリストを超え、伝説の戦士の三形態目が如き、もっさもさの髪型を手にしていた。
 髭も当然モジャモジャに伸びきっており、その姿はまるで仙人宛ら。軍神から斉天大聖にジョブチェンジし、赤兎馬から觔斗雲へ乗り換えるほどの勢いだった。

「なんか頑張った証が欲しくってさ。これだったら一目で分かるだろう? ハッ……やっぱ、変かな?」

 いや、いいと思うぜ? 実際お前は、それだけ頑張ったんだからさ。

「フッ、ありがとな……相棒?」

 いいってことよ……相棒。

 恐らく我々は今、物凄く恥ずかしいやり取りをしていることだろう。しかし、何が悪い? 長い期間、二人で籠って作り上げてきたものが、漸く終わりの時を迎えようとしているんだ。そりゃあ、テンションだって上がるし、普段言い合わないことだって言い合うさ。

 だから、いい。偶にはおっさん同士で花を咲かせるのも、きっと悪くないはずだ。

「じゃあ、最後の『Checkmateチェック』だ。魔術No.30221――【ティッシュ・リボーン】。最後に鼻をかんだティッシュの下まで移動する妙技。魔力値はレベル0内では最高ランクの9。問題ないよね?」

 ティッシュに始まり、ティッシュに終わる。フッ……私たちに相応しい最期じゃないか?

「うん。特に日本ではティッシュの消費量が世界一だからね。もしかしたら『ZERO計画』ってのは、できるだけティッシュの消費をZEROにちかづけようという、それを伝えるための計画でもあるのかもしれないね」

 ああ。きっとそうさ……間違いない。

 残念ながら、この時の私にツッコむという概念はなかった。
 何故ならテンションが上がってて以下同文。

「よし……では、アクセスコード006の権限を執行。これらの魔術をレベル0とカテゴライズし、新システムとして魔天籠への導入を正式に申請するッ!」

《アクセスコード006を確認完了。新システム及び、魔術導入の際には、代行者議席の過半数が必要となります。ご了承ください。それでは――Ready?》

 私とサブロウは一旦視線を合わせ、頷くと、再び魔天籠を見上げ――万感の思いで、その問いへの答えを返す。

「……始めてくれ」

《了解。コード名【ZERO】の承認を開始します》

 桜が舞っていた魔天籠内のビジョンは、時空の渦のようなものに変換され、廻り回る流れの中心で我々は承認の時を待つ。

 まず魔天籠は私の下へ、承認の可否を問うてきた。
 当然、答えは――YESだ。

《アクセスコード007の承認を確認……可決しました》

 次はサブロウの下へ。
 答えは言うまでもない。

「承認する」

《アクセスコード005及び、006の承認を確認……可決しました》

 これで三つだ。残りはあと一つ。
 ここまではいい。問題は……ここからだ。
 
《アクセスコード001の承認を確認……否決されました》

 001はソフィアか……。
 まあ、ここは最初から分かっていたこと。本命はもう一人の方だ。

《アクセスコード002、003、004の承認を確認……》

 頼む……! 一年だ……一年もサブロウは頑張ってきたんだ! だから、頼む! 行けっ! 行ってくれッ……!

「行けえええええええええッッ‼」



《――否決されました》



「……え?」

 そん……な……

 無慈悲に告げられた天の言葉に対し、サブロウは私も含め、何を言われているのか分からず、ただただ立ち尽くすことしかできなかった。

 時空の渦も止み、元の無機質で薄暗い空間で、二人は沈黙する。

 こうして一瞬にして崩れ去った『ZERO計画』。本来なら、ブリッツの隙を突いて承認を得るという策だったが、見ての通りそうは問屋が卸さないらしい。

 そう。我々は『失敗』してしまったのだ。『沈黙は肯定とみなす』なんて言葉があるが……では、否定はどうか? それは意思があるということなのではないか?

 意思がある……。それ即ち――

『『『『『『『『サブッ‼ 降りてこいッッ‼』』』』』』』』

 最強の男が目覚めたという……何よりの証だった。
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