WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

文字の大きさ
上 下
64 / 117
第二章

第63話 前作主人公おじさん、ちょっと頑張ってみる⑤

しおりを挟む
「ボスと喧嘩? それはまた穏やかじゃないね。もしかして『ZERO計画』の件で来たのかな?」

 察しの良い一号くんに、サブロウは満足そうに頷く。

「うん。まあ、喧嘩といっても、しない展開を望んでるけどね。じゃあ、ちょっくら邪魔するよ?」

 そう言うとサブロウは何もない真っ白な壁に手を当てる。

《アクセスコード006、代行者権限を確認。お帰りなさいませサブロウ様》

 すると、魔天籠は自動でアクセスコードを識別し、カクカクと渦を巻くように扉が開いていく。

 魔天籠に入ると中は意外と薄暗く、広い割には中心下部にメインターミナルがあるだけだった。
 そんな何も無い空間をサブロウは下っていく。まるで透明な階段を歩くかのように。

「そっか……じゃあ、あとでお弁当作って持っていってあげるよ! 大変だろうし!」

 ヒロイン力抜群の一号くんに対し、サブロウは呆れたように振り返る。

「いや……君、魔天籠ダッシュ中でしょ? サボらない方がいいんじゃない?」
「大丈夫、大丈夫! ボスは今、お爺ちゃん化してるし! だからサブロウおじさんも、このタイミングで来たんでしょ? すぐ作ってくるから待ってて!」

 そう言って一号くんは、魔天籠ダッシュよりダッシュで走り去っていった。

 へえ、デートかよ? 弟子たちが頑張ってるのに、いい御身分だな?

「デートねえ……。残念だけど兄貴の前で、そんなサボりは通用しないんだよなぁ……」

 サブロウは遠い目をしながら、再び透明な階段を下っていく。

 そう言えばサブロウも、幾度となくサボって痛い目見てたっけな。あれは今から三十六万……いや、一万四千回目のサボりだったか……。おじさんが全員美女に見える呪いにかけられているとも知らず、優しく介抱された美女(変態おじさん)と一線超えそうになった――

「おい、やめろ。トラウマを抉るな。……ほら、もう着いたよ」

 メインターミナルに到着したサブロウの前にはタッチパネルが一つ。

 サブロウがそれに触れると、薄暗かった空間は真っ白に一転。
 その後、桜舞い散る庭園のビジョンが空間全体に映し出された。

《おはようございます、サブロウ様。なんなりとご用命ください》

「レベル1の魔法の総数を教えてくれ」

《はい。今現在、保有しているレベル1の魔法は7万3022種、存在しております》

「7万か……こりゃ、骨が折れそうだね……」

 ブリッツが好き勝手に承認し過ぎた所為だな。まあ、全部一遍に引っ張り出して、魔力値を均等に下げれば済む話だろ。

「そういう訳にはいかないよ。レベル1ってのは強くはないけど、使い勝手のいいものが沢山ある。それを効果を下げてレベル0で使ったとしても、のちに待っているのはバランス崩壊の未来だ。特に今まで魔法に触れたことがない人が使うには、少々刺激が強すぎる」

 確かに……本来、魔法の才を持っている者は、学院に通うことが義務付けられている。しかし、触れたことがない者は、どれだけの責任が伴うかも分からんだろうし、その知識を学ぶ場もない。せっかく作っても悪用されては敵わんからな。

「まあ、悪用するのは別に構わない。ただ、それは前提として知識があればの話だ。ちゃんと学んだうえで、それでも悪用するのなら、それは本人の自由だ。とは言っても、おいそれと幇助するわけにもいかない。だから、今からそれを選別する」

 7万うんちゃらを……?

「ああ。まず、レベル1に留めておく魔法とレベル0に下げていい魔法を一つ一つ選別し、出揃ったところで代行者である僕と君とで問題ないかをダブルチェック。その後、魔天籠のデータベースに保管してあるレベル1の使用頻度と照らし合わせて、レベル0内でのバランスを考えつつ魔力値をいじっていく。で、最後にまたダブルチェックで終わりだ」

 いや、何も全部やる必要は……

「そうはいかない。この『ZERO計画』はエミリアくんの為だけのものじゃない。世界中の魔法が使えない人全てが対象であり、できるだけ格差を緩和させようという計画なんだ。妥協はできないよ」

 はぁ……それはまた、ご立派な考えだことで……

「大丈夫。魔天籠と外では時間の流れが違う。こっちじゃ永遠でも外へ出るころには一瞬さ。じゃあ、ちょっと頑張ってみますか……相棒?」

 さらっと私を巻き込まないでくれ、相棒……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

あまたある産声の中で‼~『氏名・使命』を奪われた最凶の男は、過去を追い求めない~

最十 レイ
ファンタジー
「お前の『氏名・使命』を貰う」 力を得た代償に己の名前とすべき事を奪われ、転生を果たした名も無き男。 自分は誰なのか? 自分のすべき事は何だったのか? 苦悩する……なんて事はなく、忘れているのをいいことに持前のポジティブさと破天荒さと卑怯さで、時に楽しく、時に女の子にちょっかいをだしながら、思いのまま生きようとする。 そんな性格だから、ちょっと女の子に騙されたり、ちょっと監獄に送られたり、脱獄しようとしてまた捕まったり、挙句の果てに死刑にされそうになったり⁈ 身体は変形と再生を繰り返し、死さえも失った男は、生まれ持った拳でシリアスをぶっ飛ばし、己が信念のもとにキメるところはきっちりキメて突き進む。 そんな『自由』でなければ勝ち取れない、名も無き男の生き様が今始まる! ※この作品はカクヨムでも投稿中です。

処理中です...