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第二章

第63話 前作主人公おじさん、ちょっと頑張ってみる⑤

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「ボスと喧嘩? それはまた穏やかじゃないね。もしかして『ZERO計画』の件で来たのかな?」

 察しの良い一号くんに、サブロウは満足そうに頷く。

「うん。まあ、喧嘩といっても、しない展開を望んでるけどね。じゃあ、ちょっくら邪魔するよ?」

 そう言うとサブロウは何もない真っ白な壁に手を当てる。

《アクセスコード006、代行者権限を確認。お帰りなさいませサブロウ様》

 すると、魔天籠は自動でアクセスコードを識別し、カクカクと渦を巻くように扉が開いていく。

 魔天籠に入ると中は意外と薄暗く、広い割には中心下部にメインターミナルがあるだけだった。
 そんな何も無い空間をサブロウは下っていく。まるで透明な階段を歩くかのように。

「そっか……じゃあ、あとでお弁当作って持っていってあげるよ! 大変だろうし!」

 ヒロイン力抜群の一号くんに対し、サブロウは呆れたように振り返る。

「いや……君、魔天籠ダッシュ中でしょ? サボらない方がいいんじゃない?」
「大丈夫、大丈夫! ボスは今、お爺ちゃん化してるし! だからサブロウおじさんも、このタイミングで来たんでしょ? すぐ作ってくるから待ってて!」

 そう言って一号くんは、魔天籠ダッシュよりダッシュで走り去っていった。

 へえ、デートかよ? 弟子たちが頑張ってるのに、いい御身分だな?

「デートねえ……。残念だけど兄貴の前で、そんなサボりは通用しないんだよなぁ……」

 サブロウは遠い目をしながら、再び透明な階段を下っていく。

 そう言えばサブロウも、幾度となくサボって痛い目見てたっけな。あれは今から三十六万……いや、一万四千回目のサボりだったか……。おじさんが全員美女に見える呪いにかけられているとも知らず、優しく介抱された美女(変態おじさん)と一線超えそうになった――

「おい、やめろ。トラウマを抉るな。……ほら、もう着いたよ」

 メインターミナルに到着したサブロウの前にはタッチパネルが一つ。

 サブロウがそれに触れると、薄暗かった空間は真っ白に一転。
 その後、桜舞い散る庭園のビジョンが空間全体に映し出された。

《おはようございます、サブロウ様。なんなりとご用命ください》

「レベル1の魔法の総数を教えてくれ」

《はい。今現在、保有しているレベル1の魔法は7万3022種、存在しております》

「7万か……こりゃ、骨が折れそうだね……」

 ブリッツが好き勝手に承認し過ぎた所為だな。まあ、全部一遍に引っ張り出して、魔力値を均等に下げれば済む話だろ。

「そういう訳にはいかないよ。レベル1ってのは強くはないけど、使い勝手のいいものが沢山ある。それを効果を下げてレベル0で使ったとしても、のちに待っているのはバランス崩壊の未来だ。特に今まで魔法に触れたことがない人が使うには、少々刺激が強すぎる」

 確かに……本来、魔法の才を持っている者は、学院に通うことが義務付けられている。しかし、触れたことがない者は、どれだけの責任が伴うかも分からんだろうし、その知識を学ぶ場もない。せっかく作っても悪用されては敵わんからな。

「まあ、悪用するのは別に構わない。ただ、それは前提として知識があればの話だ。ちゃんと学んだうえで、それでも悪用するのなら、それは本人の自由だ。とは言っても、おいそれと幇助するわけにもいかない。だから、今からそれを選別する」

 7万うんちゃらを……?

「ああ。まず、レベル1に留めておく魔法とレベル0に下げていい魔法を一つ一つ選別し、出揃ったところで代行者である僕と君とで問題ないかをダブルチェック。その後、魔天籠のデータベースに保管してあるレベル1の使用頻度と照らし合わせて、レベル0内でのバランスを考えつつ魔力値をいじっていく。で、最後にまたダブルチェックで終わりだ」

 いや、何も全部やる必要は……

「そうはいかない。この『ZERO計画』はエミリアくんの為だけのものじゃない。世界中の魔法が使えない人全てが対象であり、できるだけ格差を緩和させようという計画なんだ。妥協はできないよ」

 はぁ……それはまた、ご立派な考えだことで……

「大丈夫。魔天籠と外では時間の流れが違う。こっちじゃ永遠でも外へ出るころには一瞬さ。じゃあ、ちょっと頑張ってみますか……相棒?」

 さらっと私を巻き込まないでくれ、相棒……
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