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第二章

第61話 前作主人公おじさん、ちょっと頑張ってみる③

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「はいはいはーい! 師匠! 私、『代行者のつるぎ』持ってるんですけど、これはおやつに入りますか?」

 しかし明芽はめげず、遠足気分で元気よく手を上げる。

「残念ながら『代行者の剣』に、そこまでの権限は与えられていない。当然、おやつにも入らない」

 さらっと流すサブロウに明芽は、「そっか~……」と真面目に不真面目、次なる解決の糸口をぞろりと探す。

「代行者に頼むにしても、三つは裏代興業のブリッツが所持してたはず。ってことは、残り四つってことよね。他の権限は誰が持ってるの?」

 そう聞いたのはエミリア。
 それに対しサブロウは、『代行者の剣』を指差し、言葉を返す。

「まずは明芽くんが渡された『代行者の剣』の創造者『N』。奴は当然、君たち側につくから一議席は確保だ。そして僕も一応、の権限を所持している」
「うそっ⁉ アンタも代行者だったの⁉」

 エミリアは大層驚いていたが、この手の話に疎い明芽は、いつも通りほんわかとリアクションを取る。

「へえ~……師匠、代行者だったんだ~。それって凄いことなんだよね、エミィちゃん?」
「あ、当たり前でしょ⁉ 代行者って言ったら、この世界でトップクラスの連中よ⁉ まさか、そんな凄い奴だったなんて……」

 漸く垣間見えたサブロウの偉大さに慄くエミリア。

「上級魔導騎士のお姉さまを降したのです。不思議ではありませんわね……」

 ハルフリーダはというと変わらず冷静で、その事実を耳にしても寧ろ納得したように頷いてさえいた。

 三人から向けられた憧れにも似た視線に、サブロウは堪らず頬を染めてコホンと咳払いする。おじさんが一番可愛くてどうする……

「というわけで、あと一つ議席が確保できれば『ZERO計画』を実行に移せるんだけど……こっからが難しいだよねぇ」
「……と、仰いますと?」

 腕を組むサブロウは見るからに頭を悩ませており、それを見たハルフリーダも心配気に語りかけている。

「残りの一つは僕の師である『ソフィア師匠』が所持してるんだ。だけど、今は色々あってお願いを聞いてもらえる立場にない。というか、合わせる顔がない……」

 サブロウは言葉通り、遠い目をしながら顔を逸らす。

 ま、本来ならハルフリーダを連れ帰るって約束だったからな。それを反故にした以上、頼める立場にはないということだ。

「でも、師匠……それだと残り一つが確保できないってことになっちゃうんですけど……?」

 さすがの明芽も、先行き不安そうに尋ねている。

「そうなんだよね……。でも幸か不幸か、ブリッツの兄貴は今グロッキー状態でさ。その隙を突けば可能性がないこともない。だから、そっち方面に賭けてみようかなって」
「なるほど~……さすがです、師匠!」

 と、明芽は拳をグワシ! と握りしめていたが、どうもエミリアはある一言が気になったようで……

「え、ちょっと待って……今、って言わなかった? ってことは、さっき言ってた兄弟子って……?」

 その問いにサブロウは肯定の意を示すよう、軽く頷く。

「うん。そういうこと。じゃあ、今日の授業はここで終わりだ。初日は短縮授業と相場が決まって――」
「いやいやいや! さらっと流そうとしてんじゃないわよ⁉ え⁉ 本当に⁉ ってことは、エミィたち……知らぬ間に裏の組織と繋がっちゃったってこと⁉」
「繋がってるって言っても昔の話だし……。でも、他言はしない方がいいね。多分……凄い狙われちゃうだろうから」

 サブロウが「へへへ」と笑って誤魔化せど、エミリアの決意はもう膝と共に崩れ去っていた。

「何が『へへへ』よッ⁉ ど、どうしよう明芽⁉ このままじゃエミィたち、真っ黒に穢れちゃうわ! 何もかもが始まる前に!」

 慌てふためくエミリアに対し、明芽は、

「さすが師匠……顔が広い!」
「いや、そこじゃないでしょ! 驚くところ!」

 特に気にした様子もなく、キラキラした目でサブロウを見据え、

「知らぬとはいえ、王家に名を連ねるわたくしが裏の組織と繋がってしまうとは……お父様、お母様、申し訳ありません。ハルフリーダはいけない子になってしまいました。……ワクワク!」
「何でちょっと嬉しそうなの⁉ もう~! 二人とも吞気すぎっ‼」

 ハルフリーダは両手で頬を包み、身体をくねくねさせていた。

「じゃあ、また明日、同じ時間ってことで……解散」

 エミリアのツッコミがこだまする中、サブロウの指示通り今日のところは解散となった。
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