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第二章
第58話 前作主人公おじさん、勇者の女の子に魔法を教える④
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「エミィちゃん……。師匠、5って……?」
明芽は泣いて蹲るエミリアの背をさすりながら、神妙な面持ちでサブロウへと問う。それはまるで同じ高校を受験したら一人だけ落ちたみたいな……何かそんな感じの雰囲気だった。
「う~ん……言いにくいんだけど、レベル1の魔法でも最低、10の魔力保有量が必要になるんだよね。それが一桁ってことは詰まる所、魔法の才能がないってことかな?」
そのサブロウの無慈悲な一言は、エミリアのガラスのハートを砕くには充分だった。
エミリアは直ぐさま立ち上がり、この場から逃げるように出て行ってしまう。瞳から溢れ出る雫を宙に漂わせながら。
「エミィちゃんっ……⁉」
「エミィ様……!」
明芽とハルフリーダは追いかけんと直ぐに立ち上がるが、
「あぁ、いいよ。僕が行くから」
サブロウが手の平を構え、それを制止した。
明芽が「でも、エミィちゃんは――」と告げようとしたところで、サブロウがその言葉を遮る。
「君たちは何しに此処に来たんだい? 魔法の勉強だろ? だったら勉強してなさい。エミリアくんもきっと、君たちの邪魔をしたくなくて出て行ったんだと思う。なら尚更、滞らせちゃダメじゃないかな?」
ハルフリーダも「ですが……」と俯き、心配気に眉間に皺を寄せる。
「大丈夫さ。だって彼女は君たちの中で一番――」
そんな二人にサブロウは微笑み――嘘偽りのない事実を告げた。
◆
小川の流れるほとり……大きな岩場の上で一人、エミリアは黄昏ていた。
大自然の中、川のせせらぎに耳を澄ます……。マイナスイオンもバンバン出てて、物思いに耽るには打って付けの場所と言えよう。
「ハァ……何やってるんだろ、エミィ……」
美少女が溜息をつく姿だって絵になる光景。
そんな風情のあるこの場所に、全く絵にならないおじさんが参上する。
「いい場所だよね、ここ」
後方の木々から現れたサブロウに、エミリアは若干驚いたように振り返る。
「アンタ、何でここが……?」
「僕も一人になりたい時は、よくここに来るからね。ってまあ、いつも一人なんだけど……」
サブロウは自虐を交じえつつ、岩場へと飛び乗る。
視線を外すエミリアに「隣、いいかい?」と尋ねると、彼女は無言で頷いた。
「明芽たちは、どうしてる……?」
エミリアはばつが悪いのか視線を合わさず、そう問う。
「君の気持ちを汲んで勉強中さ。帰りを待ってるよ」
それを聞いたエミリアは落ち着いた様子を見せ、数拍おいたのち、重くなった口を開く。
「戻ったって意味ないでしょ……? エミィ、才能ないんだから……」
「無くても何とかなるさ。僕がそうだったしね」
エミリアは「アンタが……?」と得心のいかぬ面持ちで、再びサブロウへと視線を移す。
「うん。実は僕、明芽くんと同じで別の世界から来たんだ」
「え? じゃあ、アンタも転生者なの?」
「肩書き上はね。三十年位前だったかなぁ。その時の僕は言葉も分からなければ、知り合いもいなかったし、おまけに……才能もなかった」
エミリアは黙ったまま、サブロウを見つめている。
「でも、幸か不幸か拾ってくれた人が結構凄い人でね。その人たちに色々教えてもらったおかげで、今こうして君たちの師匠を請け負うことができてる。僕がここまでできたんだから、この世界の住人である君なら、もっとできるはずさ。なんたって僕より5も魔力保有量があるんだからね」
その瞳をサブロウは真っ直ぐに受け止め、笑みを浮かべながら見つめ返す。
「エミィに……できる……?」
「できるさ。確かに魔法の才は無いかもしれないけど、君はもっといいものを持ってる」
「……いいもの?」
サブロウはエミリアの混じり気のない目を指差し、先ほど明芽たちに告げた言葉を贈る。
「その目さ。相手の動きを見切り、仲間の策を瞬時に察せるその瞳力は、きっと君たち三人の財産になる。そう言った意味じゃ、三人の中で君が一番――才能があると思うよ?」
愛ある言葉にエミリアは自然と瞳を潤ませる。
しかし、すぐに気付き、悟られぬよう頬を染めながら顔を背けた。
「ふ、ふん……! エミィ、魔法の学校にも通ったことないからっ……友達できたことなかったし……誰からも認められたことなかったけどっ……アンタがそこまで言うならぁ……仕方ないからやってあげても……うぅ……いいでゃかりゃねぇぇ……!」
エミリアは嗚咽交じりで決意を新たにし、
「ああ。善処するよ」
そしてどうやら、この男の覚悟も漸く……決まったようだ。
明芽は泣いて蹲るエミリアの背をさすりながら、神妙な面持ちでサブロウへと問う。それはまるで同じ高校を受験したら一人だけ落ちたみたいな……何かそんな感じの雰囲気だった。
「う~ん……言いにくいんだけど、レベル1の魔法でも最低、10の魔力保有量が必要になるんだよね。それが一桁ってことは詰まる所、魔法の才能がないってことかな?」
そのサブロウの無慈悲な一言は、エミリアのガラスのハートを砕くには充分だった。
エミリアは直ぐさま立ち上がり、この場から逃げるように出て行ってしまう。瞳から溢れ出る雫を宙に漂わせながら。
「エミィちゃんっ……⁉」
「エミィ様……!」
明芽とハルフリーダは追いかけんと直ぐに立ち上がるが、
「あぁ、いいよ。僕が行くから」
サブロウが手の平を構え、それを制止した。
明芽が「でも、エミィちゃんは――」と告げようとしたところで、サブロウがその言葉を遮る。
「君たちは何しに此処に来たんだい? 魔法の勉強だろ? だったら勉強してなさい。エミリアくんもきっと、君たちの邪魔をしたくなくて出て行ったんだと思う。なら尚更、滞らせちゃダメじゃないかな?」
ハルフリーダも「ですが……」と俯き、心配気に眉間に皺を寄せる。
「大丈夫さ。だって彼女は君たちの中で一番――」
そんな二人にサブロウは微笑み――嘘偽りのない事実を告げた。
◆
小川の流れるほとり……大きな岩場の上で一人、エミリアは黄昏ていた。
大自然の中、川のせせらぎに耳を澄ます……。マイナスイオンもバンバン出てて、物思いに耽るには打って付けの場所と言えよう。
「ハァ……何やってるんだろ、エミィ……」
美少女が溜息をつく姿だって絵になる光景。
そんな風情のあるこの場所に、全く絵にならないおじさんが参上する。
「いい場所だよね、ここ」
後方の木々から現れたサブロウに、エミリアは若干驚いたように振り返る。
「アンタ、何でここが……?」
「僕も一人になりたい時は、よくここに来るからね。ってまあ、いつも一人なんだけど……」
サブロウは自虐を交じえつつ、岩場へと飛び乗る。
視線を外すエミリアに「隣、いいかい?」と尋ねると、彼女は無言で頷いた。
「明芽たちは、どうしてる……?」
エミリアはばつが悪いのか視線を合わさず、そう問う。
「君の気持ちを汲んで勉強中さ。帰りを待ってるよ」
それを聞いたエミリアは落ち着いた様子を見せ、数拍おいたのち、重くなった口を開く。
「戻ったって意味ないでしょ……? エミィ、才能ないんだから……」
「無くても何とかなるさ。僕がそうだったしね」
エミリアは「アンタが……?」と得心のいかぬ面持ちで、再びサブロウへと視線を移す。
「うん。実は僕、明芽くんと同じで別の世界から来たんだ」
「え? じゃあ、アンタも転生者なの?」
「肩書き上はね。三十年位前だったかなぁ。その時の僕は言葉も分からなければ、知り合いもいなかったし、おまけに……才能もなかった」
エミリアは黙ったまま、サブロウを見つめている。
「でも、幸か不幸か拾ってくれた人が結構凄い人でね。その人たちに色々教えてもらったおかげで、今こうして君たちの師匠を請け負うことができてる。僕がここまでできたんだから、この世界の住人である君なら、もっとできるはずさ。なんたって僕より5も魔力保有量があるんだからね」
その瞳をサブロウは真っ直ぐに受け止め、笑みを浮かべながら見つめ返す。
「エミィに……できる……?」
「できるさ。確かに魔法の才は無いかもしれないけど、君はもっといいものを持ってる」
「……いいもの?」
サブロウはエミリアの混じり気のない目を指差し、先ほど明芽たちに告げた言葉を贈る。
「その目さ。相手の動きを見切り、仲間の策を瞬時に察せるその瞳力は、きっと君たち三人の財産になる。そう言った意味じゃ、三人の中で君が一番――才能があると思うよ?」
愛ある言葉にエミリアは自然と瞳を潤ませる。
しかし、すぐに気付き、悟られぬよう頬を染めながら顔を背けた。
「ふ、ふん……! エミィ、魔法の学校にも通ったことないからっ……友達できたことなかったし……誰からも認められたことなかったけどっ……アンタがそこまで言うならぁ……仕方ないからやってあげても……うぅ……いいでゃかりゃねぇぇ……!」
エミリアは嗚咽交じりで決意を新たにし、
「ああ。善処するよ」
そしてどうやら、この男の覚悟も漸く……決まったようだ。
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