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第二章

第56話 前作主人公おじさん、勇者の女の子に魔法を教える②

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 扉を開ければ目の前には三輪の花。
 明芽を筆頭にエミリアとハルフリーダがお越しになっていた。

「あ! おはようございます、サブロウさん! すみませ~ん、早すぎましたかね?」

 謝りつつも笑顔を絶やさない明芽。それに対し、サブロウは……

「いや、大丈夫……僕も今、起きたところだからさ」

 ダメじゃねえか。暗に来るの早すぎって言ってるようなもんだぞ、それ。あとデートの待ち合わせっぽく言うな。

「ふん! これでも迷って遅くなった方なんだから! か、感謝しなさいよねっ!」

 まだ心を許してないのか、腕を組みつつ顔を背けるエミリア。それに対し、サブロウは……

「……あっそ」

 冷たっ⁉ もう少しリアクションしろよ! 王道のツンデレやぞ⁉ 怒るでしかし!

「おはようございます、サブロウ様。本日から魔法のご教授、宜しくお願いいたします」

 ご丁寧に頭をお下げになるハルフリーダ。それに対し、サブロウは……

「うん……頑張るよ……ハハッ……」

 顔引き攣ってるし……。どんだけ嫌なんだ、お前は。思うのは勝手だが、外には出すなよ外には。

「ハァ……ここじゃなんだし、取りあえず中に入りなよ。奥のソファーに座って」

 サブロウは覚悟を決め、わきに寄って家へと招き入れる。

「「「お邪魔しまーす」」」

 三人仲良く揃って美少女が御入場。男子からすれば夢のような展開である。

 しかし、今のサブロウは、それどころではなかった。何故ならリリスの姿が見当たらなかったからだ。
 恐らく気を遣ってのことだろうが、知り合いが居なくなった結果、サブロウは委縮してしまっている。完全に逆効果だ。

「わ~! ここがサブロウさんの部屋かぁ~! 自然に溢れてていいですね!」
「お、男の人の部屋って……エミィ、初めてだわ……」
わたくしもです。なんだかそわそわしますね……!」

 明芽はいつも通り自然、エミリアは恥ずかし気、ハルフリーダは何やらワクワク……各々リアクションを取りつつソファーへと腰を下ろした。

「よし……。じゃあ早速始めるけど、どこまで進んでるんだっけ?」

 そのサブロウの問いに、明芽が元気よく手を上げる。

「はい、師匠! レベルが6段階あるところまでです!」
「元気だねぇ……君。じゃあ、まず魔法がレベルごとに色分けされてるってことを覚えた方がいいかな?」

 ハルフリーダが「色分けですか……?」と相槌を打つ。

「そう。レベル1から順に、緑、黄、青、白、金、黒って上がっていくから。これを知ってるだけでも大分違うと思うよ」

 エミリアは「なるほど……」と合点がいったように頷く。

「色を見れば相手の使う魔法が何レベルか見分けがつく。対処がしやすいってわけね?」
「そういうこと。ただ、レベル2と5は色合いが似てるから偽装しやすくてね。これらの使い手を『詐欺師フェイカー』と呼ぶ。使う際、使われる際は注意することだね」

 三人は一斉に「「「へ~」」」と初めての魔法講義を食い入るように聞いていた。

「聞いてるだけでも楽しいね! エミィちゃん!」

 目を輝かせる明芽に、

「そうね! あ~、もう早くエミィも魔法使ってみたいわ!」
「ふふっ……エミィ様、やる気ですわね。私《わたくし》も負けていられませんわ!」

 エミリアとハルフリーダも意気揚々としていた。

 そんなキャッキャウフフな光景を前に――

「つっら……」

 サブロウは目が死んでいた。

 サブロウは社交的な方ではない。こういったガールズ空間に、「君、カワウィね~!」と入っていけるだけの度量はなかった。
 教えている側にも拘らず、疎外感を感じるサブロウ……大丈夫、私がついてるぞ。

「助かる……」

 サブロウは目尻に溜めた涙を拭き取り、話を戻す。

「さて……まあ、習うより慣れろって言うし、さっさと魔法習得の仕方を教えるよ。このままだと死にたくなってくるからね……」

 後半の言葉は濁しつつも、サブロウは授業を進める。
 キラキラとした目で見つめる三人に対し、若干目を赤く腫れさせながら。
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