WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

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第一章

第53話 おじさんだって可愛いって言われたいんじゃボケェッ!③

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 施設内が揺れ動くほどの凄まじい衝撃と地響き。
 あまりの威力に地面にはブロックノイズが走り、今にもこの異空間を強制解除しそうな程の勢いがあった。

 勝敗は決した……。そう判断したサブロウは、掴んでいた手をゆっくり離していく。

「あっ……あぅ……身体がっ……動かない……」

 倒れたまま何とか口だけを動かすレベッカ。
 しかし、その言葉通り、身体の方はピクリとも動かない。

「一応、即死級の技だからね。まあ、君なら直ぐに動けるようになるよ」

 サブロウは敬意を表すように優しく語りかけ、屈めていた身体を起こす。

「はぁ……完敗です……。認めざるを……得ません……」
「そう。それは良かった」
「ですが……我が王に何と説明したら……よいか……」
「ま、そうなるよね……」

 レベッカの懸念は御尤もで、いきなり知らないおじさんに大事な娘を預けたなんて話が、当然罷り通るはずもない。まあ、だからこそサブロウは、この場所へ連れてきたのだろうけど。

「申し訳ありません……負けた身でありながら……このような……」
「大丈夫。君が謝る必要ないよ。その為の、さ」
「それは……どういう……?」

 何とか視線だけでもと向けるレベッカに、サブロウは己が顔を手の平で覆う。

姿をそのまま伝えれば、ビスマルク王も理解してくれるはずって意味さ。あんまり見せたくないんだけどね……。チェンジコード――」

 変わりゆくサブロウの姿に目を見開くレベッカ。
 そんな驚きに満ちた表情を最後に――異空間は閉じていった。



「ぷはぁ~! 美味しいね、これ! さすがハルちゃん! 抜群のチョイスだね!」
「確かに……エミィの好きな味だわ! 心なしか元気も湧いてくる気がするし……!」

 戻ってみると明芽とエミリアが茶色の瓶に入った黄色の液体を、ぐびぐび飲んでいる微笑ましい姿が目に入る。

わたくしの魔法――【栄位剥奪えいいはくだつ】が喜んでいただけたようで何よりです。覚えた甲斐がありました」

 ハルフリーダも役に立てたとあってか、ようやく笑みを取り戻しつつあった。
 そんな中、リリスも同様の物を握り締め、その瓶を見つめていた。

(【栄位剝奪】ねぇ……。なんか凄い仰々しい名前だけど、どう見てもこれ――元気がハツラツするアレよねっ⁉ 思わず、これを魔法と呼んでいいかツッコみそうになったけど、こんな嬉しそうな顔みせられちゃ、言う方が野暮ってなものね。こりゃ、サブロウくんに鍛えてもらって正解かしら……)

 珍しくリリスが気を遣ったところで、サブロウ……そして歩けるようになったレベッカが異空間から帰還する。

「お姉さま……⁉ その……結果は……どうでした……?」

 いの一番に気付いたハルフリーダは俯きつつも視線だけは覗かせ、レベッカへと近寄る。

「……私の完敗です。この方になら、お嬢様を預けられる。そう判断いたしました」

 微笑みながら発したレベッカの言葉に、驚喜の顔を上げるハルフリーダ。
 すると、次の瞬間には――

「やったね! ハルちゃん! これで一緒に居られるよ! ずっと!」
「当然よ! だって……エミィの友達なんだから!」

 その背に抱きつく、明芽とエミリアの姿。

「はい! わたくしも、お二人とご一緒できて嬉しいです!」

 目尻に涙を浮かべるハルフリーダに、顔を寄せて抱き合う明芽とエミリア。
 そう、これでいいんだよこれで。まさにハッピーエンドだ。

「では、サブロウ様。お嬢様のこと宜しくお願いいたします。私は先程の件を我が王へ伝えねばなりませんので」

 その光景を穏やかに見つめていたレベッカは、サブロウへと向き直り、頭を下げる。

「ああ。君も頑張ってね……色々と」

 そう言ったサブロウにレベッカはもう一度頭を下げ、それが済むと妹であるハルフリーダの下へ近寄っていく。

「お姉さま……」

 明芽とエミリアは空気を読んで離れ、ハルフリーダも姉であるレベッカの下へ。
 姉妹二人だけの時間が流れ、暫し見つめ合ったのち、レベッカはハルフリーダを抱き寄せる。

「たまには帰ってきなさいね……ハル」
「はい。お姉さま……」
「……二日おきくらいで」
「それは早すぎです……」

 こうして『おじさんと少女たちの初邂逅編』は幕を閉じた。
 今日のところは解散となり、魔法のお勉強は明日からになるそう。

 『TBA』トリプルガールズ・ビー・アンビシャスは肩を寄せ合いながら宿屋へと帰り、レベッカも新たな決意と共にレイドルームに帰還。

 サブロウは『余計なこと引き受けた』と今さら面倒くさそうに頭を抱え、リリスはそんな甘さに辟易しつつも特に咎めることはしなかったという。

 というわけで、今回サブロウは珍しく……見事な主人公っぷりを見せたのだった。
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