WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

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第一章

第50話 おどれ可愛いだけで生き残れる思うたら、大間違いじゃボケェッ!④

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 見事、レベッカの弱点を突いた明芽の魔法。
 しかし、その光景を木の陰から覗き込んでいたリリスは悔し気に顔を歪ませていた。

「あの勇者ちゃん……中々やるわね……」

 そんな感嘆の声を漏らす彼女に、スラスラと解説し始めたのはサブロウだった。

「ああ。あの子、倒れたふりして近くに落ちていた魔導書で魔法を覚えていたんだ。この短期間で。しかも、お姫様が盾となって気付かれないようにする徹底ぶり。そして、それを理解して時間を稼ぎ、引き付け役を担ったエミリアという少女。全員が全員を信じて動いた見事な連係プレー。いいチームだ……」

 サブロウはどこか嬉しそうに彼女らを見つめていた。
 チームという響きに、これまた思うところでもあったのかな?

「何を呑気なこと言ってんのよ? あの鎧天使がミスったら、今度はサブロウくんが出る羽目になるの分かってる? そういう展開はサブロウくんも望んでないと思うけど?」
「まあね。本当は鎧天使の方を応援すべきなんだろうけど……あの仲良し三人組が別たれるのもなんか、いい気しないんだよね」

 大体のことを拒否するサブロウが、今回は珍しくどっちつかずな返答。
 しかし、ハッキリとした答えが出ぬまま、彼女たちの事態は急変し始める。

 なんと召喚された魔獣は既にグロッキー状態だった。
 ドロンと忍者の如く煙に包まれると可愛らしい姿は一瞬で消え去り、自ずとレベッカがかけられた幻惑効果も呼応するように解除されてしまう。

「――はっ⁉ あぁ……危うく飲み込まれるところだった。まさかこの短期間で魔法を習得するとは……」

 幻惑が解かれたレベッカは頭を抱え、もう飛ぶことすら儘ならないと地へ降り立った。

「はぁはぁ……明芽っ! 大丈夫? ケガは?」

 エミリアは隙を見て駆け出し、明芽の隣へとしゃがみ込む。

「あはは……ごめん、エミィちゃん。せっかく時間稼いでくれたのに、まだうまく使えないみたい……」

 明芽は依然倒れたまま虚ろ気な表情だったが、それでもいつもと変わらぬ笑みを見せていた。

「明芽は魔法覚えられたじゃない。エミィなんて逃げてばっかだったし……」

 沈みゆくエミリアに、ハルフリーダは訂正せんと口を挟む。

「そんなことありません! 明芽様もエミィ様もご立派でした! それなのにわたくしは何も――」

 自分を卑下しようとするハルフリーダに、明芽はその唇を塞ぐように人差し指を当て、

「みんな頑張った……それでいいじゃない……」

 太陽にも勝る輝く笑みで、二人を明るく照らした。

「明芽……」
「明芽様……」

 やはり本物の天使は一味違い、薄雲っていたエミリアとハルフリーダを、瞬く間に晴れ渡らせた。これぞ主人公の成せる技。

 しかし、このまま大団円で幕が下りるはずもなく、水を差すように異を唱えたのは勿論レベッカ。

「絆を分かち合っているところ申し訳ありませんが、私はまだ認めていませんよ……お嬢様?」
「お姉さま……。もう充分でしょう? お二人は、これだけの力を見せてくださいました! ビスマルク家騎士団長を一時封じ込めた功績を考慮し、何卒寛大なご慈悲を……」

 ハルフリーダによる必死の訴えに、レベッカは手の平を前に出し、制止させる。

「わかっています。私は何も頭ごなしに否定したいわけではありません。ご友人方は素晴らしい才能をお持ちです。ですが、まだ時期尚早……お互い力をつけてからでも私は遅くないと思います。このまま行くとご友人方を危険に晒してしまう可能性も捨てきれない。お嬢様の名には、それだけの影響力があるのです。望もうと望むまいと」

 レベッカが優しく言い聞かせると、三人はゆっくりと俯き、押し黙ってしまう。
 その理由は言うまでもなく、レベッカが今言ったことに全て集約されていた。

「さあ、帰りましょう。お嬢様?」

 反論がない。それ即ち肯定と捉えたレベッカは、ハルフリーダへと手を差し伸べる。

 暫しの沈黙ののち、ハルフリーダは抱きかかえていた明芽を降ろし、立ち上がる。
 本当は一緒に居たい。でも、初めてできた友達を危険な目に会わせたくもない。そんな想いを表情に滲ませながら。

 明芽とエミリアは、ただその姿を見つめることしかできなかった。
 本当は一緒に居たい。でも、守れると言い張れるほどの力を今は持っていない。そんな情けなさを拳に込めながら。

 『TBA』トリプルガールズ・ビー・アンビシャスの一時解散。
 その成り行きを、またしても木の陰から覗いていたリリスは……何故か呆れていた。

「ハァ……ホント甘いんだから……サブロウくんは」

 お別れムード漂う中、いつもなら動かないはずのあの男が――

「ねえ? ちょっとその話……待ってもらえるかな?」

 表舞台へと介入したからだ。
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