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第一章
第44話 可愛いは作れるって言うし、きっと魔法も覚えられる②
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レベッカ・ビスマルク・ダ・レイドルーム、十九歳。
レイドルーム地方で名高いビスマルク家に仕える騎士団長かつ、ハルフリーダ捜索隊隊長の肩書を持つ美しくも凛々しい淑女。
肩書の通り、ハルフリーダがセイターンの街にいるという情報を手に入れたレベッカは、ただ今ブラウンのクロークを全身が隠れるように羽織り、バレぬようにとフードを深く被っては、古本屋へと向かう『TBA』を尾行中。
何故、すぐに接触しないのか……それはレベッカがハルフリーダの意思を尊重しているからに他ならない。
七歳の時、ビスマルク家へ養子として来たレベッカは、ハルフリーダより二つ年上ということもあり、姉妹同然のように仲睦まじく過ごしてきた。
しかし、姉とはいえ養子。王位を継ぐのはハルフリーダであることを小さいながらに理解していたレベッカは、その二年後である九歳の時に騎士団へ入団したいとの希望を告げた。
その真意は単純明快で、姉として妹であるハルフリーダを近くで守りたかったから。
血が繋がっていないとはいえ、大事な妹であることに変わりはない。その一心で努力した結果、十年経った今現在、類稀なる才能が認められ、騎士団長の座まで上り詰めた。
今では常に傍で仕える身。だからこそ分かることがある。
ハルフリーダは、姉であり騎士団長としての自分では補えない……『友情』が欲しいのだと。
そういった経緯があり、今は接触を控えている。
両隣にいる明芽とエミリアが、ハルフリーダに相応しいかどうかを見定めるために。解説終了――
(お嬢様……貴女様が居なくなってレイドルームは変わってしまいました。王である父上は桃いかしに溺れ、女王である母上は日桂冠……民も黒鶴△の前に溺れる始末)
いや、全部酒じゃねえか。あと何なの? その王族とは思えないラインナップ。
(海は枯れ、大地は裂け、全ての生物が死滅した……)
それは言い過ぎだろ。
(まあ、それは言い過ぎたが……)
言い過ぎたんかい。
(とにかく! お嬢様には早々に帰ってきていただきたいもの。しかし姉として、その想いを蔑ろにするわけにもいかない。今は見守るしか……)
そう言いつつもレベッカは――ハルフリーダの真後ろについていた。
まるでそのザマは満員電車でJKの後方にピットインする変態おじさん。
見守るとは一体何だったのか……完全にガチ恋距離(一方通行)である。
しかし、レベッカもそこまでバカではない。
隠密魔術を執行することで己が気配を消していたのだ。さすがはビスマルク家の騎士団長。
(スーハァ……スーハァ……あぁ……相変わらずハルの髪は芳しいぃなぁ……。一本ぐらい貰ってもバレない……よね……?)
訂正。やっぱ、バカだったわ。え? こいつ、こんなヤバい奴だったの? こりゃ、離れて正解かもな……
(しょうがないしょうがない。だって最近、妹ちゃんパワー注入できてなかったもんね。代わりにお姉ちゃんの髪の毛植えこんどけばバレないでしょ!)
おいおい、ヤベえってこいつ。百歩譲って取るならまだしも、植えこむとか発想が怖すぎるわ。騎士道はどうした騎士道は。
当然、私の忠告が聞こえるはずもなく、レベッカは何の合点が言ったのかガッツポーズを繰り出し、興奮冷めやらぬ息遣いで犯行に手を染めようとする。
「ここが魔導書が売ってる古本屋よ!」
――が、その一歩手前で元気を取り戻したエミリアが、ファインプレーと言わんばかりに掲げてある看板に指を差す。
レベッカは『いかんいかん!』と頭を振り、伸ばしていた手と冷静さを取り戻し、何とか変態行為は未然に防がれた。
(何をやってるんだ私は! 今の私の役目はお嬢様を見守ること! ビスマルク家の騎士団長として恥じない行動をしなければ!)
そうそう。思い出して。私が解説した、あの頃の自分を。
(しかし、この私がここまで惑わされるのも珍しき事。きっとこれもハルが可愛すぎる所為だな。まったく……罪作りな妹め……)
被害者ぶるな変態。
レイドルーム地方で名高いビスマルク家に仕える騎士団長かつ、ハルフリーダ捜索隊隊長の肩書を持つ美しくも凛々しい淑女。
肩書の通り、ハルフリーダがセイターンの街にいるという情報を手に入れたレベッカは、ただ今ブラウンのクロークを全身が隠れるように羽織り、バレぬようにとフードを深く被っては、古本屋へと向かう『TBA』を尾行中。
何故、すぐに接触しないのか……それはレベッカがハルフリーダの意思を尊重しているからに他ならない。
七歳の時、ビスマルク家へ養子として来たレベッカは、ハルフリーダより二つ年上ということもあり、姉妹同然のように仲睦まじく過ごしてきた。
しかし、姉とはいえ養子。王位を継ぐのはハルフリーダであることを小さいながらに理解していたレベッカは、その二年後である九歳の時に騎士団へ入団したいとの希望を告げた。
その真意は単純明快で、姉として妹であるハルフリーダを近くで守りたかったから。
血が繋がっていないとはいえ、大事な妹であることに変わりはない。その一心で努力した結果、十年経った今現在、類稀なる才能が認められ、騎士団長の座まで上り詰めた。
今では常に傍で仕える身。だからこそ分かることがある。
ハルフリーダは、姉であり騎士団長としての自分では補えない……『友情』が欲しいのだと。
そういった経緯があり、今は接触を控えている。
両隣にいる明芽とエミリアが、ハルフリーダに相応しいかどうかを見定めるために。解説終了――
(お嬢様……貴女様が居なくなってレイドルームは変わってしまいました。王である父上は桃いかしに溺れ、女王である母上は日桂冠……民も黒鶴△の前に溺れる始末)
いや、全部酒じゃねえか。あと何なの? その王族とは思えないラインナップ。
(海は枯れ、大地は裂け、全ての生物が死滅した……)
それは言い過ぎだろ。
(まあ、それは言い過ぎたが……)
言い過ぎたんかい。
(とにかく! お嬢様には早々に帰ってきていただきたいもの。しかし姉として、その想いを蔑ろにするわけにもいかない。今は見守るしか……)
そう言いつつもレベッカは――ハルフリーダの真後ろについていた。
まるでそのザマは満員電車でJKの後方にピットインする変態おじさん。
見守るとは一体何だったのか……完全にガチ恋距離(一方通行)である。
しかし、レベッカもそこまでバカではない。
隠密魔術を執行することで己が気配を消していたのだ。さすがはビスマルク家の騎士団長。
(スーハァ……スーハァ……あぁ……相変わらずハルの髪は芳しいぃなぁ……。一本ぐらい貰ってもバレない……よね……?)
訂正。やっぱ、バカだったわ。え? こいつ、こんなヤバい奴だったの? こりゃ、離れて正解かもな……
(しょうがないしょうがない。だって最近、妹ちゃんパワー注入できてなかったもんね。代わりにお姉ちゃんの髪の毛植えこんどけばバレないでしょ!)
おいおい、ヤベえってこいつ。百歩譲って取るならまだしも、植えこむとか発想が怖すぎるわ。騎士道はどうした騎士道は。
当然、私の忠告が聞こえるはずもなく、レベッカは何の合点が言ったのかガッツポーズを繰り出し、興奮冷めやらぬ息遣いで犯行に手を染めようとする。
「ここが魔導書が売ってる古本屋よ!」
――が、その一歩手前で元気を取り戻したエミリアが、ファインプレーと言わんばかりに掲げてある看板に指を差す。
レベッカは『いかんいかん!』と頭を振り、伸ばしていた手と冷静さを取り戻し、何とか変態行為は未然に防がれた。
(何をやってるんだ私は! 今の私の役目はお嬢様を見守ること! ビスマルク家の騎士団長として恥じない行動をしなければ!)
そうそう。思い出して。私が解説した、あの頃の自分を。
(しかし、この私がここまで惑わされるのも珍しき事。きっとこれもハルが可愛すぎる所為だな。まったく……罪作りな妹め……)
被害者ぶるな変態。
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