39 / 117
第一章
第38話 ………………………………。
しおりを挟む
「じゃあ、僕たちは帰るから。次来る時までに【黙令眼】を使えるようにしとくんだよ?」
というわけで激闘を制したサブロウは、一号くんに課題を残しつつ帰宅フェーズへと移行する。
「それは分かったけど……もう帰っちゃうの? せっかく久しぶりに会ったんだし、もうちょっとゆっくりしていったら? 何だったら泊まっていったりとか、そのぉ……ごにょごにょ……」
恥ずかしそうに蹲る一号くん。並の男なら騙されてしまいそうな可愛らしさだが、
「いや、遠慮しておく。もう帰るよ」
鉄壁のメンタルを持つサブロウの前ではそれも無力であった。
「そ、そっか……じゃあ、しょうがないよね……」
「ああ。しょうがないよ。じゃあね」
サブロウは落ち込む一号くんを冷たくあしらい、リリスの腕を掴むや否や足早にこの場を後にしようとする。
「ちょ、ちょっとサブロウくん! そんなに急がなくっても……」
引っ張られるリリスが当惑うのも無理はない。何故なら今のサブロウは、まるで何かから逃げるような足取りであり、そして何処か焦っているようにも見えたからだ。
当のサブロウが焦燥する理由……それは『サブタイトル』に、あの男が居なかったからだ。
「――待て、サブロウ」
突如、後方から場の空気を一変させる、貫くような声が通り抜けていく。
そのプレッシャーを感じさせる一声に、サブロウとリリスは瞬時に振り向いた……いや、幾分かリリスの方が遅かったか。
一瞬、遅くなったのは振り向き様にサブロウの横顔が視界に入ったため。
それは普段の澄まし顔ではなく、初めて見たであろう冷や汗と怯えに満ちた横顔であった。
「せっかく出てきてやったんだ。もうちょい付き合えや?」
響く低音ボイスでそう語るのは、先程まで一号くんが座っていた椅子に踏ん反り返る、もはや説明など不要の男。裏代興業の総帥で、この世界のトップに君臨する、サブロウの兄弟子こと――ブリッツであった。
まるで百獣の王の如く、うねるように広がる金髪。
袖を通していない金色に輝く毛皮の羽織は、滲み出る気迫によって宙へと逆立っており、筋骨隆々の上半身には乱雑に包帯が巻かれていた。
腰本には赤く染まる大きめの縄帯が結ばれており、燃えるような金色の模様が編み込まれた黒い括り緒の袴と脛当てを着装。
何より目を引くのは顔に刻まれた紅色の隈取りで、他者を屈服させるかの如き鬼の形相を演出していた。
「ブリッツの……兄貴……」
「え? じゃあ、あの人が……サブロウくんの兄弟子……?」
見るからに強者な外見は、リリスはおろかサブロウでさえも圧倒。
「あれ、ボス? もう機嫌の方は宜しいんですか?」
それに対し一号くんは緩やかに立ち上がり、特に臆することなく己が主へと向き直る。
「ああ。後ろの奴が五月蠅くてな。仕方ないから出てきてやった」
「それって『N』さんのことですか? いいなぁ~。ボクも一度でいいから、お話してみたいものです」
ブリッツは頬杖をつきながら私の方を睨みつけてくる。
一号くんの方はというと、まだ視認できていないようで、ブリッツが向ける目線の先へ、キョロキョロと視線を彷徨わせていた。
「お前はもう下がれ。俺はサブロウと話がある」
「いや、ボス。ボク、サブロウおじさん家に泊まる約束が……」
ちゃっかり嘘つくな。
「ダメだ。お前は負けたんだろ? そんなことしてる暇あんなら、魔天籠の外周一億くらい行ってこい」
「えぇー! またやるんですか? つい先日、終わったばっかりなんですけ――」
「二億だ。口答えすんな」
先程のサブロウが可愛く見えるブリッツのスパルタっぷりに、一号くんはそれ以上口を挟むことなく頬を膨らませるに留めた。
というわけで激闘を制したサブロウは、一号くんに課題を残しつつ帰宅フェーズへと移行する。
「それは分かったけど……もう帰っちゃうの? せっかく久しぶりに会ったんだし、もうちょっとゆっくりしていったら? 何だったら泊まっていったりとか、そのぉ……ごにょごにょ……」
恥ずかしそうに蹲る一号くん。並の男なら騙されてしまいそうな可愛らしさだが、
「いや、遠慮しておく。もう帰るよ」
鉄壁のメンタルを持つサブロウの前ではそれも無力であった。
「そ、そっか……じゃあ、しょうがないよね……」
「ああ。しょうがないよ。じゃあね」
サブロウは落ち込む一号くんを冷たくあしらい、リリスの腕を掴むや否や足早にこの場を後にしようとする。
「ちょ、ちょっとサブロウくん! そんなに急がなくっても……」
引っ張られるリリスが当惑うのも無理はない。何故なら今のサブロウは、まるで何かから逃げるような足取りであり、そして何処か焦っているようにも見えたからだ。
当のサブロウが焦燥する理由……それは『サブタイトル』に、あの男が居なかったからだ。
「――待て、サブロウ」
突如、後方から場の空気を一変させる、貫くような声が通り抜けていく。
そのプレッシャーを感じさせる一声に、サブロウとリリスは瞬時に振り向いた……いや、幾分かリリスの方が遅かったか。
一瞬、遅くなったのは振り向き様にサブロウの横顔が視界に入ったため。
それは普段の澄まし顔ではなく、初めて見たであろう冷や汗と怯えに満ちた横顔であった。
「せっかく出てきてやったんだ。もうちょい付き合えや?」
響く低音ボイスでそう語るのは、先程まで一号くんが座っていた椅子に踏ん反り返る、もはや説明など不要の男。裏代興業の総帥で、この世界のトップに君臨する、サブロウの兄弟子こと――ブリッツであった。
まるで百獣の王の如く、うねるように広がる金髪。
袖を通していない金色に輝く毛皮の羽織は、滲み出る気迫によって宙へと逆立っており、筋骨隆々の上半身には乱雑に包帯が巻かれていた。
腰本には赤く染まる大きめの縄帯が結ばれており、燃えるような金色の模様が編み込まれた黒い括り緒の袴と脛当てを着装。
何より目を引くのは顔に刻まれた紅色の隈取りで、他者を屈服させるかの如き鬼の形相を演出していた。
「ブリッツの……兄貴……」
「え? じゃあ、あの人が……サブロウくんの兄弟子……?」
見るからに強者な外見は、リリスはおろかサブロウでさえも圧倒。
「あれ、ボス? もう機嫌の方は宜しいんですか?」
それに対し一号くんは緩やかに立ち上がり、特に臆することなく己が主へと向き直る。
「ああ。後ろの奴が五月蠅くてな。仕方ないから出てきてやった」
「それって『N』さんのことですか? いいなぁ~。ボクも一度でいいから、お話してみたいものです」
ブリッツは頬杖をつきながら私の方を睨みつけてくる。
一号くんの方はというと、まだ視認できていないようで、ブリッツが向ける目線の先へ、キョロキョロと視線を彷徨わせていた。
「お前はもう下がれ。俺はサブロウと話がある」
「いや、ボス。ボク、サブロウおじさん家に泊まる約束が……」
ちゃっかり嘘つくな。
「ダメだ。お前は負けたんだろ? そんなことしてる暇あんなら、魔天籠の外周一億くらい行ってこい」
「えぇー! またやるんですか? つい先日、終わったばっかりなんですけ――」
「二億だ。口答えすんな」
先程のサブロウが可愛く見えるブリッツのスパルタっぷりに、一号くんはそれ以上口を挟むことなく頬を膨らませるに留めた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編

うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる