WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

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第一章

第38話 ………………………………。

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「じゃあ、僕たちは帰るから。次来る時までに【黙令眼】を使えるようにしとくんだよ?」

 というわけで激闘を制したサブロウは、一号くんに課題を残しつつ帰宅フェーズへと移行する。

「それは分かったけど……もう帰っちゃうの? せっかく久しぶりに会ったんだし、もうちょっとゆっくりしていったら? 何だったら泊まっていったりとか、そのぉ……ごにょごにょ……」

 恥ずかしそうに蹲る一号くん。並の男なら騙されてしまいそうな可愛らしさだが、

「いや、遠慮しておく。もう帰るよ」

 鉄壁のメンタルを持つサブロウの前ではそれも無力であった。

「そ、そっか……じゃあ、しょうがないよね……」
「ああ。しょうがないよ。じゃあね」

 サブロウは落ち込む一号くんを冷たくあしらい、リリスの腕を掴むや否や足早にこの場を後にしようとする。

「ちょ、ちょっとサブロウくん! そんなに急がなくっても……」

 引っ張られるリリスが当惑うのも無理はない。何故なら今のサブロウは、まるで何かから逃げるような足取りであり、そして何処か焦っているようにも見えたからだ。

 当のサブロウが焦燥する理由……それは『サブタイトル先程まで居た場所』に、あの男が居なかったからだ。

「――待て、サブロウ」

 突如、後方から場の空気を一変させる、貫くような声が通り抜けていく。
 そのプレッシャーを感じさせる一声に、サブロウとリリスは瞬時に振り向いた……いや、幾分かリリスの方が遅かったか。

 一瞬、遅くなったのは振り向き様にサブロウの横顔が視界に入ったため。
 それは普段の澄まし顔ではなく、初めて見たであろう冷や汗と怯えに満ちた横顔であった。

「せっかく出てきてやったんだ。もうちょい付き合えや?」

 響く低音ボイスでそう語るのは、先程まで一号くんが座っていた椅子に踏ん反り返る、もはや説明など不要の男。裏代興業の総帥で、この世界のトップに君臨する、サブロウの兄弟子こと――ブリッツであった。

 まるで百獣の王の如く、うねるように広がる金髪。
 袖を通していない金色に輝く毛皮の羽織は、滲み出る気迫によって宙へと逆立っており、筋骨隆々の上半身には乱雑に包帯が巻かれていた。

 腰本には赤く染まる大きめの縄帯が結ばれており、燃えるような金色の模様が編み込まれた黒い括り緒の袴と脛当てを着装。
 何より目を引くのは顔に刻まれた紅色の隈取りで、他者を屈服させるかの如き鬼の形相を演出していた。

「ブリッツの……兄貴……」
「え? じゃあ、あの人が……サブロウくんの兄弟子……?」

 見るからに強者な外見は、リリスはおろかサブロウでさえも圧倒。

「あれ、ボス? もう機嫌の方は宜しいんですか?」

 それに対し一号くんは緩やかに立ち上がり、特に臆することなく己が主へと向き直る。

「ああ。の奴が五月蠅くてな。仕方ないから出てきてやった」
「それって『N』さんのことですか? いいなぁ~。ボクも一度でいいから、お話してみたいものです」

 ブリッツは頬杖をつきながら私の方を睨みつけてくる。
 一号くんの方はというと、まだ視認できていないようで、ブリッツが向ける目線の先へ、キョロキョロと視線を彷徨わせていた。

「お前はもう下がれ。俺はサブロウと話がある」
「いや、ボス。ボク、サブロウおじさん家に泊まる約束が……」

 ちゃっかり嘘つくな。

「ダメだ。お前は負けたんだろ? そんなことしてる暇あんなら、魔天籠の外周一億くらい行ってこい」
「えぇー! またやるんですか? つい先日、終わったばっかりなんですけ――」
「二億だ。口答えすんな」

 先程のサブロウが可愛く見えるブリッツのスパルタっぷりに、一号くんはそれ以上口を挟むことなく頬を膨らませるに留めた。
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