WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

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第一章

第36話 サブロウは俺が仕込んでやった男。果たして一号は勝てるかな? ちなみに俺は大穴の一号に賭けてる。オッズは36倍だ。

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 ルーレットのシングルナンバーと同等の倍率で期待されてない可哀想な一号くん。……っていうか、地味に賭け事してんじゃねえよ。そんなんだったら、はよ出てこいや。

「どういう意味かな一号くん?」

 そんな分かり切った答えなど聞く必要すらないが、サブロウは一連の流れとして一応問いかける。
 置いてけぼりのリリスは、ちょびっとだけ濡れたパンツをスカートで仰ぎつつ、乾かしながら成り行きを見守っていた。

「主の望むことを命令される前に遂行する。それが執事ってものでしょ?」
「当の兄貴は賭け事に夢中だけどね」
「ま、本音はサブロウおじさんに、強くなったボクを見てほしいだけなんだけどね。――アクセスコード072を『時限申請』!」

 可愛らしくも、何処か芯のある声色で発する時限申請とは――

 その名の通り、限りある時間、魔天籠への申請を省略するものである。
 承認完了後は執行のみのフェーズとなり、アクセスコードをその都度申請する必要がなくなる。

 一時的に魔法の連続執行が可能となるが、解除すると一定時間クールタイムを設けなくてはならず、この間は魔天籠への申請が不可となってしまう。
 多大なるダメージを追った場合でも強制解除に陥ることがある為、使用する際には細心の注意を払わなければならない。

 まさに諸刃の剣といった時限申請。これの意味するところは、『このターン内で殺す』と宣言することに他ならないのである。解説終了――

《承認完了》

 どこからともなく聞こえる天声により、一号くんの戦闘準備が整う。

「いいの? 【廻天之理かいてんのことわり】で解除しなくても?」
「見てほしいんでしょ? そんな野暮なことはしないよ」

 サブロウから戦闘の意を汲み取った一号くんは喜色満面となり、向けていた切っ先を鞘に納めると、金色の光と共に居合の構えへと移行していく。

 そんな二人を交互に見ていたリリスは、相変わらずついていけてないようで……

「ちょ、ちょっと⁉ 本当にやる気⁉ わざわざ戦う必要なんて……」
「君は離れてた方がいい。ちょん切られて、どこぞの宇宙ロボットの合体前みたいにされちゃうからね」

 そのサブロウの忠告に、リリスは『いのちだいじに』の作戦コマンドを決行、そそくさと撤収を始める。
 二人だけの空間に一号くんは息を荒げ、汗ばむ火照った顔で最後の言葉を告げる。

「準備はいい……? そろそろ……行くよ……?」
「どうぞ、お好きに」

 受け入れ態勢抜群のサブロウに、一号くんの中にある狼煙が――ブチ上がる。

「執行――【被荊斬棘式抜刀魔術・刀光剣影ひけいざんきょくしきばっとうまじゅつ・とうこうけんえい】ッ!」

 満面の笑みで放たれた居合は、耳を劈くほどの強烈な金切り音を奏で、一軒家ほどの巨大な刃の衝撃波となってサブロウへ襲い掛かる。

「ええええぇぇぇー⁉ 何コレえええええっっ⁉」

 そのあまりのデカさにリリスは目ん玉を飛び出させ、ギャグ漫画ばりの見事なリアクションを披露する。

 斜めに飛来してくる天をも穿つかの如き斬撃。
 しかし、サブロウは涼しげな顔で身体を傾け、何の気なしにギリギリで避けてみせた。

「いや、こっちは普通に避けてるしィィイッ⁉」

 リリスのタレント力が光る中、サブロウの横をすり抜けていった斬撃は、後方に咲き誇る巨大な花を真っ二つ。儚く散らしていく。

「ありゃりゃ……さすがだね、サブロウおじさん。よく避けたね?」
「そりゃ、そんだけ御大層に魔力溜めてたら避けられるでしょ。あと技名が長すぎる。それじゃあ何の技出すかバレバレだよ?」
「え……結構頑張って練習した技だから、褒められると思ったんだけど……」

 態度が急変したサブロウにより、一号くんの面持ちには若干陰りが見え……

「弱点を克服する為に【黙令眼】を教えたはずだよね? もしかして一号くん……練習してないの?」
「えっと……その……うぅ……ごめんなさい……」

 結果、鋭利な眼光に突き刺された一号くんは完全に沈黙。叱られた子犬みたく丸くなっていった。

(いや……普通にダメ出しとかするんかい!)

 と、心の中でツッコむリリス。

 そう。サブロウは意外と……スパルタだった。
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